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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 インターとは

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05

 ナユはあまりの空腹と兄三人と一緒だったので、インターの待機所が墓地の横ということをすっかり忘れていた。

 闇の中に沈み込むように存在する待機所の扉を叩き、ナユたちは中へと入り込んだ。

 ……までは良かったのだ。

 中へ入ると、そこは外と変わらぬ暗闇が広がっていた。

 イルメラが先に戻っているはずなのだが、明かりがついていないのはなにかあったのだろうかと構えていると、奥からゆらりと人影が。

 四人は身構えた。

 ゆっくりと人影は四人に近づいて来て……。


「いらっしゃいませ……。ヒヒヒヒ……」


 と声がして、フード付きの外套に妙に柄の長い円匙を背負った人影が現れた。一年前、母を埋葬してくれたあの陰気なインターが目の前に現れたのだ。ナユは悲鳴を上げ、兄三人の背中に隠れた。

 それを後ろから見ていたミツルはお腹を抱えて笑いだした。


「ぶははは、おまえでも怖い物があるんだ」

「ううううう、うるさいわね! わたしはいい男と死を連想するものが嫌いなのよ!」

「ほほう、なるほど。じゃあ、俺はいい男過ぎて駄目ということか」

「しかもあんたなんて、それにインターってのが付け加わるから、鳥肌立つほど大っ嫌いよ!」

「奇遇だな。俺もおまえみたいなヤツ、嫌いだ」

「あら嫌だ。そんなところが気が合うなんて。虫酸が走るわ」

「それはこちらの言葉だ」


 ナユとミツルは睨み合っていたが、バルドの遠慮がちな声に同時にそちらへと向いた。

 嫌っていると言っている割には息ぴったりだ。


「あの……イルメラさんは」

「ふふふ」


 とフードの下から聞き覚えのある声が。

 ナユがバルドの背中からそっと顔を出すと、陰気なインターはフードを外した。暗い中だったが、すぐにそれがだれであるのか分かった。ナユは半信半疑で名前を呼んだ。


「……イルメラさん?」

「うふふ、そうよ。ごめんね、驚かせちゃった?」


 イルメラが入口側にある明かりに灯を灯したことで、室内が明るくなった。ナユたちはまぶしさに目を細めた。


「さあ、中へ入ってください。汁も温めてあるし、パーニャも焼きたてよ」

「わあ、うれしい!」


 ナユも三兄弟にひっついて、中へと歩みをすすめた。

 待機所内は思ったより広く、長い食卓の上には所狭しと食べ物が置かれていた。


     *


 イルメラが用意してくれていた食べ物は、ヒユカ家四人とミツルの五人でほぼ食べ尽くした。

 食卓の上にはパーニャが一切れ。そしてそれを巡って、事件が勃発してしまった。


 普段、ヒユカ家ではお腹いっぱいに食べることが出来ないのだが、ここにはたくさんあって、イルメラもたくさん食べてねと言ってくれた。だからナユは遠慮することなく食べていた。

 そしてそれは、ミツルも一緒。

 もちろん皿すべてが空になるまで食べ尽くすつもりでいたのだから、最後に残っていたパーニャに手を伸ばした。

 ナユも同じく手を伸ばす。

 二人の手は同時にパーニャを掴んだ。

 二人はしばしの間、睨み合う。ミツルは譲る気はなさそうだと判断し、ナユは目をつり上げた。


「! ちょっと! 乙女にそれを譲りなさいよ!」

「おまえこそ、譲れ」

「嫌よ! わたしはこれに甘いのを挟んで締めにするつもりでいたのよ!」

「甘いのを挟むなんて、邪道だな。たくさんの野菜と、蒸した肉が最高の組み合わせだ」

「野菜も肉ももうないじゃない!」

「ぐぬぬ……」

「こっちにはチューレが残ってるもん!」


 とナユは砂糖で甘く煮詰めた果物の入った瓶を見せびらかした。


「よし、それでいい。よこせ!」

「嫌よ! これはわたしのなんだから!」

「それを寄越したら、分割でも百万フィーネにしておいてやる」

「くっ……。汚いわ! お金で釣ろうだなんて! ふんっ! あんたに金を払うくらいなら、わたしが動く死体をどうにかするわっ!」

「そうか」


 ミツルはそう言うと、ようやくパーニャから手を離してくれた。ナユは嬉々としてパーニャを手にして、チューレをたっぷり塗って、咀嚼した。


「おまえたち、本気でルドプスに挑むのか?」


 ナユが食べ終わるのを待ち、ミツルは質問を投げかけた。

 三兄弟は困ったように頭を掻き、ナユを見た。


「だって、百フィーネならともかく、百万フィーネなんて大金、どこにもないわ。それにさっき、家が壊れているのも見たでしょう? あれも修理しないといけないし、お母さんの薬代だって……」

「薬代はいくらだ」

「……分かんない。カダバーの知り合いの薬師に頼んでいたから、いくらしていたのか知らないの。カダバーが言うには、ようやく半分返せたって」

「……ふむ」


 ミツルはなにか思うことがあったようだが、口を噤んだ。腕を組み、なにかを考えていたようだが、分かったとうなずいた。


「今、ルドプスのことを俺に任せると言ってくれたら、仕方がないから十万フィーネに負けてやる」

「……はあ?」

「優しいミツルさまはおまえたちの現状を鑑みて、必要最低限の経費のみにして利益を乗せない金額を提示してやったんだろうが」

「……九十万フィーネは利益ですか」

「悪いか」

「……インターって商売なの?」

「いや、才能だな。持って生まれた才能」


 大人げなく胸を張って威張るミツルに、ナユはため息を吐いた。


「頼まない」

「はっ? こんだけ妥協してやったのに?」

「嫌よ。あんたに恩なんて売られたら、一生後悔する」

「残念だな。負ける代わりにまだ続きがあるんだ」

「……残り九十万フィーネはやっぱりあとでいいから払えと?」

「違う。現金で十万フィーネ。これは必要経費だから、どうしても現金で必要だ。残りは身体で払え」

「はいっ?」

「聞こえなかったか? 身体で払え、と俺は言った」

「かっ、身体でって! いやあああ、ヘンタイ! 顔がいいからってなにしてもいいと勘違いしないでよ! 最低よ、最低!」


 ナユは半泣きになりながらミツルをなじった。

 ミツルはナユの反応は予想していたようで、にやにやと笑った。


「ほんっと、最低よ! 身体で払えって! いくらわたしが美少女だからって、それだったらわたしの金額、あんたが要求した倍になるわよっ!」

「なにか勘違いしてるみたいだが、おまえの身体などには興味ない」

「じゃあ、身体で払えってどういうことよ!」

「そのままだ。金が払えないのなら、労働力を要求しているだけだ」

「…………」


 労働力と言われても、ナユはクラウディアの店で雇われている。


「無理よ……」


 どちらにしても、ナユたちはミツルが要求していることには応えられない。


「わたしたちでどうにかするわ」

「おまえたち、死ぬぞ」

「そっ、そんな脅し!」

「脅しではない。昔、やっぱり同じように自分たちでどうにかすると言って、村が丸ごとなくなったということがある」

「…………」


 ミツルに言われ、ナユは思い出した。

 やっぱり今と同じような状況で動く死体が発生して、村人全員が動く死体になってしまったことを。このまま放置していたら隣の村にまで及ぶということで、国家命令でインター数十人がかり出され、どうにか事態を収束させたらしい。


「そうなったら、百万フィーネどころの話じゃないぞ」

「それでも! あんたなんかに頼らないんだから!」

「ナユ……」


 長兄のバルドは心配そうにナユに声を掛けたが、一度言い始めたら聞かないのは母に似たらしい。

 バルドはナユには分からないようにミツルへと視線を向けた。

 ミツルは小さくうなずいた。

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