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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 王都へ

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119/129

01

 ミツルたちが帰った後の冥府の様子はというと──。


「ああああっ、しまった!」


 彼らは、冥府の管理者たちにして、冥府の管理者。

 ひとつで複数で、複数でひとつ。

 その中の一人が声を上げた。

 不定形な管理者たちはその声に何事かと問いかけると──。


「あいつらにここの死体と骨を片付けさせる罰にすればよかったぁぁぁ!」

「──それもひとつの罪の償い方」

「でも、それを示しては人間のためにはなるまいて」

「あやつはきっと、もう二度とここには来ないさ」

「罪を償う気、なさそうでしたしね」

「罪を罪と思っていないところも、罪」

「世界の理である穹の女神を魅了するなど」

「それもまた、重たい罪、ですな」


 ミツルが知らないうちに、ミツルの罪が段々と重くなっていく。


「それにしても」

「一言も喋らなかったあの金髪の女子も魅了しておったのぉ」

「有罪」

「断固として有罪っ!」

「全員一致で、有罪、と」

「あーあ、死ねないね!」

「死ねぬのも、罰のうちじゃ」

「あの危なっかしい穹の女神の面倒を見てもらおう」

「おお、名案じゃの!」

「穹の女神も素直に従っていたようだし」

「って、あれ? それはそれで」

「やっぱり-、有罪!」

「穹の女神を思いのままに操る、か。──有罪」

「それよりもー」

「片付けなきゃね!」

「そうじゃった、そうじゃった。そっちが重要だ!」


 そうして冥府の管理者たちは、冥府を本来の形に戻すために奮闘することになる。


 *


 ミツルはふと、目が覚めた。

 周りを見ると、暗闇のはずなのにはっきりと見える。

 この、冥府の罪を宿した瞳は、便利なんだか不便なんだか分からないが、慣れるまでに時間がかかりそうだ。

 ベッドを見ると、二人は仲良く寝ているようだ。

 ここには時計がないから時間は分からないが、まだ起きるには早い時間なのだろうと判断して、ミツルはまた、眠ることにした。

 それにしても、とミツルは思う。

 目が覚める前に、あの冥府で会った冥府の管理者たちに『有罪、有罪!』と責められている夢を見たような気がする。

 詳細はさっぱり分からなかったが、自覚していない部分も含めてなにか知らないうちにやらかしている、という感覚は分かった。

 まぁ、それはさておき、ミツルはもうあの場所には行けないだろうとぼんやりと感じていた。

 だったら、なにかと理由をつけて、ナユの母を探してあげればよかった。

 ちょっとした後悔がよぎったが、過ぎてしまったことは仕方がない。そもそもがあそこは生きた人間が行ける場所ではないのだから。

 ミツルはあくびをして、目を閉じた。

 さすがに目を閉じれば周りが暗いということがはっきりと分かった。

 とにかく。

 今日もよく働いた。えらい、よくやった、頑張った!

 そうミツルは自分を褒めてから、再度、夢の世界へと舞い戻った。


 *


 次に目が覚めたときは、さすがに陽が昇った後だった。

 前よりも眩しく感じながら、ミツルは起きてソッと寝袋を片付けた。

 ベッドの上で寝ている二人はまだ眠っているようだ。今のうちに朝ごはんの準備をしてしまおう。

 意外にマメなミツルはそう決めて、携行食を取り出して、炊事場へと向かった。

 朝食の準備をしているところに、なぜかシエルだけやってきた。


「おはよう」


 ミツルは準備をしながら、気配だけでそう答えたのだが、案の定、抱きついてきた。避けるのは簡単だったが、準備の手を止められるのが癪で、動かなかった。

 それをシエルは勘違いしたようだ。


「ねっ、ミツル。あたしがあなたの子、産んであげるからっ!」

「あぁ、そうか、ありがとう」


 素っ気ない返事に、シエルはぷーっと頬を膨らませた。


「それだけ?」

「いや、理が変わったから、もうその必要もないんだなと思ったら、ちょっと残念でな」


 ミツルがそのことに気がついていたことにシエルは不機嫌になったが、残念、という言葉に反応した。

 だけど、シエルの思惑からはやはり外れていて。


「ナユを口説く材料がなくなった」

「……結局ミツルはナユなんだ」

「最初からそうだろうが」

「その欠片でいいから、あたしも気に掛けて?」


 ミツルは手を止めて、ようやくシエルを見た。


「おまえはどうすれば満足するんだ?」

「え?」

「やさしいのは怖いから嫌なんだろう?」

「……うん」

「淋しさを埋めるための温もりが欲しいのか?」

「そう、だよ?」

「じゃあそれは、ただ抱きしめるだけでいいのか?」

「……え?」

「……これ以上は止めておく」

「え?」

「酷いこと、言いそうだからな」


 ミツルはため息を吐くと、朝食の準備へと戻った。

 シエルはどうすればいいのか分からず、結局、ミツルの腕に抱きついているだけだった。


「シエル」

「はい」

「自分の食事の入った食器くらいは持てるよな?」

「えぇ、任せて!」


 そう言って渡されたのは、最近ではおなじみの携行食で作ったお粥だった。

 シエルは器を受け取り、ミツルの後ろについて食堂へと移動した。

 そちらに行けば、すでにナユがいた。


「呼びに行こうと思ってたから、来てくれて助かった」

「そろそろかなと思って」


 炊事場を覗いたら、二人が仲良く準備をしているのが見えて、そっと去ったとは言えず、ナユは曖昧な笑みを浮かべてそう答えておいた。


「食ったら、ここから出よう」

「出るって、どうやって?」

「ここには、金色の箱に乗って来たんだが、たぶんあれで降りることが出来るはずだ」

「あー、あれね」


 シエルはそれがなにか分かっているようでうなずいていたが、ナユにはなんのことかさっぱり分からない。


「あれがなにか分からないが、ナユ、驚くぞ」

「そ、そうなの?」


 なにか分からないが、ミツルの機嫌はすこぶるいいいらしい。やはり、シエルと仲良く準備が出来て嬉しいのかも、とそこまで考えて、ナユはなんだかモヤモヤするものがあるのに気がついた。

 ミツルが、だれと仲良くしたってナユには関係ない。

 そう思うのに、なんでだろう、心がなんとなく痛いのは。


「ナユ、もういいのか?」


 手が止まっていたようで、ミツルが少し心配そうな表情で顔を覗き込んできた。見覚えはあるけれど見慣れない瞳の色とやさしい声にナユは戸惑いつつ、首を振った。


「食べる」

「じゃあ、待ってるから、慌てず食え」


 そう言って頭を撫でてくれたけど、ナユにはその意味するところが分からない。

 シエルを見るとナユを羨ましそうに見ていたから、ちょっとだけいい気分だった。


 ナユが食べ終わり、借りていた食器類の片付けを済ませ、もうここに来ることはないのかと思ったら、少しだけ淋しい気持ちにはなった。

 とはいえ、死体だらけのここで生きていくのかと言われたら、それはそれで嫌なので帰ることにした。


「あ、ちょっと待って」


 神殿を出るために祈りの間に着いたところでシエルが制止の声をあげた。


「なにか問題でも起きたか?」


 まだ出てもないのに早速かよ! と思ったが、どうやら思っていたことと違うことをシエルが口にした。


「ここはね、祈りの間なの」


 やはり祈りの間で間違いないようだった。


「平常時には何日かに一度、浮島の人たちがここに集まって、女神の罪を償うための祈りを捧げていたの」

「女神の罪を償う……?」

「あ、えっと。あたしが人間を創ったのが、その、罪、だったらしくて」

「ほー?」


 女神の罪、ねぇ? とミツルは呟き、それからシエルに視線を向けた。


「それが罪ならば、なんで人間を創ることができたんだろうな?」

「……えっ?」

「かなり意味合いが違うが、人間が人間を殺すことが出来る。そしてそれをすれば、罪となる」

「うん」

「まぁ、大半の人間は人殺しなんて出来るけどしない」

「そうね」

「女神さまの人を創るという力は、それと同じなのか?」

「……あ」

「そもそも、それが女神さまの罪ってだれが決めたの?」

「……そ、そういえば。……ソル、だ」


 なるほどねー、とミツルは呟いて、それからまた、シエルを見た。


「シエルは別に間違ったことはしていない」

「……うん」

「そうでなければ、ナユに逢えなかったわけだし」

「えっ、わたしっ?」

「あぁ、そうだ」


 向けられた視線は妙に甘くて、ナユはかなり戸惑った。


「……徹頭徹尾、ナユなのね」

「だからそうだと何度も言ってるだろう!」

「あー、はいはい」


 気安いやり取りにちょっと羨ましいと思いつつ、ナユは自分がどうしてそう思ったのか分からず、またモヤモヤした。


「とにかく、浮島の住民もソルの被害者だった、と」

「……うん」

「そんなことやこんなことを思うと、ソルに直接、引導を渡せたのかと思うと、なかなか晴々しいな」


 

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