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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
四部*一章 冥府編

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07

 ミツルの質問に、ナユが答えようとしたところ。


「ミツルーっ!」


 祭壇の方向から、シエルの明るい声が聞こえてきた。


「ねー、見て見て! あたしの本当の身体!」


 そう言って、まるで身体がなかったときのように宙を飛んで現れたから、ミツルとナユは唖然としていた。

 しかも、見た目はシエルだけど、髪の色と瞳の色がすっかり変わっていて、碧かった。

 なるほど、元は穹の女神だからか、と思ったところでシエルはミツルに抱きついてきた。

 とっさに受け止めてしまったが、ここは避けるところだった、と思ったときは遅かった。


「うーん、久しぶりの身体!」

「ぉ、ぉぅ」

「本物は、やっぱり違うわ! 身体が軽いのよ!」

「そ、そうか。……それはいいんだが、シエル」

「はい?」

「いいか、よく聞け。その身体で飛ぶの、禁止! だからなっ!」

「えーっ!」

「えーっ、じゃないっ! おまえ、人間に見えるんだぞ? やたらに宙を飛んでみろ、インター以上に酷い目にあわされるぞっ!」

「そっ、それは……嫌、かも」

「なら、今までどおり、普通に地面に立って歩けっ!」

「……はい」

「それと! 抱きつくのも、禁止!」

「なんでっ!」

「おまえな、勘違い、されるだろうが!」

「だれに?」

「ナユに」

「わたし? べっ、別にシエルと仲良くすればいいじゃないの!」

「……ほら」

「なら! ナユも素直に飛びつけばいいのよっ! いいわよー、この筋肉っ! しかも暖かいを通り越して、熱っ苦しいとか!」

「筋肉は正義だけど……わたしは遠慮するわ」

「あら、そうなの? ミツルを膝枕して、切なそうに見てたのに?」

「なっ! あっ、あれはっ! 暇だったから、見てただけで」


 まさか見られていたとは思っていないナユは、かなり動揺していた。


「べっ、別にまつげが長いとか、そんなのはっ!」

「へー、そうなんだ。って……どれどれ? 本当だ! 長いねっ!」


 なんだかいつもどおりといえばそうなんだが、次第にぐだぐだになってきたことに気がついて口を挟もうとしたところで、急に別の声がしてきた。


「はー、やれやれ、やっと出られたか」

「まったく! なんなのよ、あのソルとかいうお子ちゃまはっ!」

「だから、油断するなって言ったのに!」

「それはおまえもだろうがっ!」


 にぎやかな声がしてきて、急に人影が現れた。


「っ!」


 驚いてミツルはとっさに円匙(スコップ)を構えたが、向こうもこちらに気がつき、同じように警戒して構えられたのだが。


「おまえたち……生きた人間?」

「あっ、あぁ、そうだが」

「えっ、どうやって入ってきたのっ?」

「今、ソルがどうとか言っていたが……」

「そうなのよっ! 私たち、あのくそガキにここを乗っ取られちゃって! 今の今まで閉じ込められてたんだけど、なんか分からないけど、急に出てこられたのよね」

「……俺がソルを倒したから、か?」

「えっ?」


 お互い、構えを解き、情報交換をすることになった。

 なんだかおかしなことになったなと思ったのだが、それは向こうも思っているようだった。

 向こうは不定形で、正確に何人いるのか分からない。いや、そもそもが人であるのかも分からない。


「……なるほど?」


 向こうの話によれば、確かにここは昔から冥府と呼ばれていて、人間が死んだ後に来る場所であった。

 そう、確かに()()()()()()()()()()に間違いはないのだが──。


「いやいや、ここには死んだ後の魂が来る場所で、決して死んだ肉体を送る場所でも、ましてや収納、保存したり、動く死体だとか! 骨なんて! なんなの、ほんと! 冥府の仕組みをぐちゃぐちゃにして!」


 そして彼らは、この冥府の管理者だという。


「大変よっ! 冥府の中のほとんどに死体とか骨やらいっぱいあるのよっ!」

「動く死体は?」

「動く死体なんていないわよ。あー、でも、入口あたりにたくさんの死体が倒れていたわ」


 ソルから力を取り戻したからなのか、正常に戻ったようだ。ミツルはホッとした。

 とそこで、ずっとミツルに抱きついていたシエルが離れると、冥府の管理者たちの前に進み出た。


「あのぉ、みなさんに大変、ご迷惑をおかけしたみたいで……」

「あなたは?」

「信じてもらえるかは分かりませんが、穹の女神でして。その、あたしがソルに力をあげちゃったばかりに、こんなことになってしまいまして」

「…………有罪」

「うん、有罪ね」

「どう転んでも有罪」


 シエルはどうやら有罪判定らしい。

 しかし。


「でも、穹の女神っていったら、この世界の理みたいなものでしょう?」

「オレたちより、昔からいるからなぁ」

「じゃあ、こうしましょう! そこの灰色の髪の毛の男っ!」

「俺か?」

「ふむ。よく見るとおまえ、瞳に冥府の色を宿しているとか、なにか罪を犯したな?」

「あー、これね。ここに入るための扉を開いて」

「おおおおっ! おまえも有罪っ!」

「ちょうどいいわ! あんたがまとめて罪を償いなさいっ!」

「えっ、俺がかよっ!」

「罪の償いが終わるまで死ねない、というのは?」

「いいんじゃない?」

「……それ、どうやって罪が償えたって判断するんだよ」

「瞳の色が元に戻ったとき、だな」


 そんないい加減なのでいいのか? と思ったが、そもそも罪を償うとは? と思っていると、不定形な冥府の管理者たちの姿が揺らぎ始めた。


「とにかく、次に会うときは罪を償い終わったとき、じゃな」

「じゃあ、まったねーっ!」


 ユラユラ、と視界が揺れて──瞬きをした瞬間、目の前の景色は変わっていて、見覚えはあるけどすぐには思い出せない場所に立っていた。目の前には木肌が見える。


「ここは……?」

「浮島の墓地、ね」


 ということは……。


「無事に生きて帰れた、のか?」

「そうみたいね。ナユもいるし」


 ずっと無言だったナユの顔色は悪かったが、とにかく三人は無事に戻ってこられたようだ。


「……今、夜、なんだよな?」

「えぇ、そうね」

「なんか、瞳が紫になってから、暗いところも明るく見えて眩しいんだが」

「あー、母さんもそんな感じだったわ。明るい場所に行くのを嫌がってた」

「これ、昼間、どうすればいいんだ?」


 ミツルの悩みはともかくとして、三人はとりあえずまた、あの神殿に戻ることにした。

 戻る途中に転がっていた死体にインターの力を使おうとしたのだが、冥府のあり方が変わったからなのか、力は発動するが、死体が送られることはなかった。


「ここ」

「うん」

「だれももう来ないよな?」

「そうね」

「死体、このままで……いいか?」

「あたしたち三人で片付ける、ってわけにもいかないし。この人たちには悪いけど、このままにさせてもらいましょう」


 神殿に戻り、朝ぶりの食事をして、また三人一部屋で寝ることになった。

 どういう割り当てで寝るのか少し揉めたが、結局、ベッドにナユとシエルで、ミツルは寝袋となった。


「俺は寝るからな」

「どうぞ。お休みなさい」


 ミツルは寝袋に入ると、あっという間に寝てしまった。相当、疲れていたようだ。


「ところでナユ」

「なぁに?」

「話があるんだけど」

「?」

「ミツルのことで」

「っ? わっ、わたしからは特になにもないわよっ!」


 ナユの反応は予想どおりのことで、シエルは笑いながらナユに質問した。


「ナユはこれから、どうしていきたいの?」

「どう、とは?」

「ミツルの子を、産むの、産まないのっ?」

「……ぇっ?」

「まぁ、もうインター自体が必要なくなったし、理が変わったからミツルが死んでも冥府の入口になるなんてことはないけど」

「そっ、それなら、別に……」

「そうよねっ! 無理してミツルと子作りなんてする必要、なくなるわよねっ!」

「子、子作り……」


 あからさまな言葉に、ナユは真っ赤になった。


「ふふっ。あたしね、こうして身体を取り返したし、そうなったら、ミツルの子、産めるじゃない?」

「え、女神さまが人間とっ?」

「ナユは辞退するっていうのなら、あたしが立候補、しようかなって」

「すっ、好きにすればいいじゃないの」

「じゃあ、早速……って、ナユ? やっぱり?」

「いや、そうじゃなくて。ミツル、疲れて寝てるんだし、そそそそ、それに戻ってからゆっくりの方がっ、そのっ」

「……まぁ、それもそうね。じゃあ、あたしたちも寝ましょうか」


 シエルはそう言うとナユがベッドに横になったのを確認して、灯りを消してくれた。


「お休みなさい」

「お休み」


 そうして、夜が更けていく──。

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