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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
四部*一章 冥府編

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03

 ここは先ほどまでいた場所と違い、逆に道がない。

 少し先に有象無象の動く死体があちこちに群がっているが、こちらに気がついた様子もなく、モゾモゾと動いていたり止まっていたりと様々だ。

 出来るだけ戦いを避けたいミツルは、動く死体がいない方向に行きたいのだが、シエルが指さしたのは思いっきり動く死体の向こう側。

 ここの全体像が見えないため、どう移動しようかと思案していると、ナユがマントの端を引っ張ってきた。


「なんだ?」

「どうするの?」

「いや、それを今、悩んでいたんだが」

「なにか良く分かんないんだけど、シエル、もうあんなところにいるよ?」


 ナユに指摘されて、いつの間にかシエルが側にいないことに気がついた。

 しかも指さした方向には動く死体の集団がいた。


「あいつはなにを考えてるんだ……」


 シエルは動く死体が見えているのか、はたまた自分のことが()()()()()()と勘違いしているのか。

 きっと後者だ、と思いながらミツルはシエルを見守ることにした。


「助けないの?」

「あれでも一応、女神さまだ。きっとどうにかなる」


 そうとでも思わないとやってられないとばかりの態度のミツルに、ナユも、


「そ、そうね」


 と半ば同意した。

 それにしても、とミツルは周りを見ていない駄女神さまを見ながら思う。

 マイペースっぷりだとか、周りの見えてなさ具合とか、長年のお一人さまっぷりが板に付きすぎている、と。

 まぁ、前からそれは知っていたが、改めて一緒に行動して、それを思い知らされた。


 シエルは動く死体と接触したらしい。

 動く死体もシエルを認識して、しばしお互い、にらみ合いのような硬直時間があったが、先に動いたのはやはり動く死体だった。


「きゃああああっ!」


 ここまで聞こえるほどの悲鳴を上げ、シエルはかろうじて動く死体の攻撃を避けたようだ。

 それからグルリと勢いよく振り返り、ミツルとナユとかなり離れていることをようやく認識して、『どうしてっ?』というような絶望的な表情を浮かべた後、こちらにダッシュしてきた。

 動く死体に背中を見せるなよ……とミツルは心の中で思ったが、動く死体はなにを思ったのか、ダッシュするシエルには興味を失ったかのように動くのを止めた。

 今まで、動く死体に対してちょっとした考えを持っていたのだが、その行動を見て、改めてその考えを肯定することが出来た。

 動く死体には動ける領域、みたいなのがあって、そこを越境してまでは襲ってこない。

 その領域はどれくらいの広さかは分からないが、ある程度の範囲であるようだ。

 そうでなければ、コロナリア村でのことやオゼイユでの出来事の説明がつかない。

 もしもその領域がなければ?

 それはもう、悲惨、の一言しかない。

 動く死体がどこまでも移動出来るのだったら、死の連鎖が起きる。

 そしてルドプスだらけになり──。


「そういえば」


 ダッシュが力尽きてノロノロとした歩みで戻ってくるシエルを見ながら、ミツルは口を開いた。


「ルドプスが見当たらないな」

「……ルドプスってなんだっけ?」

「生前か動く死体になって生き物を殺したらなるんだよ、ルドプスに」

「あっ!」

「……あぁ、ここは冥府か。結局、死体も動く死体もルドプスも、ここ、冥府に送られる、と」

「え? 死んだら地の女神のところに──って、あっ!」


 ナユはミツルが言いたいことが分かったようだ。


「そ、結局のところ、送られる先はこの冥府に変わりはない」

「なんか、詐欺に遭った気分」

「言い方が違うだけで間違ってはないけど、まぁ、言いたいことは分かる」


 なによりもミツルも同じように思ったのだから。


「気が合うな」

「……嬉しくない」

「そう言うな」


 ノロノロというか、ノタノタというか、俊敏とは真逆の動きでシエルがようやく戻ってきた。


「たーすーけーてー……。ぜーはー」


 若干、わざとらしさがあるが、それなりに疲れているらしいシエルにミツルは追い打ちをかける。


「後ろ」

「えっ!」


 シエルは真っ青になって慌てて振り返り、なにもないことにホッとした後、勢いよく振り返った。


「ミツルっ!」

「逃げるにしても、後ろも確認しながら逃げろよ」

「そっ、そんな余裕があるわけないでしょうっ!」

「それで襲われて死んだら、意味がないだろーが」

「ぅぅぅ、そうだけどぉ。相変わらず、ミツルがやさしくない!」


 いや、今のはやさしさだと思うとミツルは思ったが、口にはしなかった。

 この駄女神さまには現実をしっかりと把握してもらわなくてはならないのだから。

 そう。

 今からソルの元に行くのは、本体……もとい、身体を取り戻すためなのだ。今まではだれにも認識されていなかった時間が長くてそういう認識で動いているみたいだが、そうも言っていられなくなる。

 穢れて肉体を得たのはいい準備期間になった、と前向きにとらえればきっといい。


「──で?」

「え?」

「なんで勝手な行動をしてるんだ?」

「え? え?」


 ちょっと待て。

 まずはそこからかっ? と思ったが、きっと人間と女神さまでは常識が違うのだろう。人間の常識を教えればどうにかなる。


「俺たちは一緒に行動している、という認識でいいか?」

「え、あ、うん」

「だったら、先走るとか周りを見てないとか、勝手な行動をするのはマズいって分かる、よな?」

「えーっと、う、うん?」


 ちょっと風向きが怪しくなってきた。


「だって、あたしの身体、あそこにあるんだもん!」


 そう言って、シエルは先ほどと同じ方角を指し、ミツルに訴えた。


「それは分かっている。だからそちらに行くのにはどう行ったら労力を割かずに行けるのか、悩んでるんだろうが」

「え? 真っ直ぐ行く、よね?」

「…………」

「シエル。方向音痴のわたしが言うのもおこがましいけど、それ、一番、取ってはいけない道筋よ!」

「えええっ?」


 ナユでも分かってるのに!

 ほんと、この女神さまは調教の……いや、教え甲斐のある思考の持ち主のようだ。


「だって! 真っ直ぐ行くのが一番近いわよね?」

「道だけ見たらな」

「じゃあ!」

「たのむから、周りをよく見てくれ。真っ直ぐ行ったら動く死体がうじゃうじゃといるだろうが!」

「大丈夫よ! あたしのこと、()()()()()からっ! ……あれ? じゃあなんでさっき、動く死体は襲ってきたの?」

「…………」


 やはり予想どおりだった。


「おまえ、忘れてるかもしれないかもだが、身体を得たって事は、見えてるんだぞ!」

「……えっ?」

「俺は前から見えていたが、ナユにも認識されてるのはなんでだ?」

「あっ!」


 ようやく、分かってもらえたようだ。

 長かった、無駄に長くて変に時間を食ったような気がする。


「とにかくだ、動く死体の塊を避けて向かうぞ」


 動く死体の領域がどれくらい広いのかは分からないが、避けていけばどうにかなる。

 もし襲ってきたら、円匙(スコップ)でなぎ払えばいけるだろう。


「ということで」


 ミツルはナユとシエルに視線を向けて、それから今から向かう道筋を指さした。


「一見、遠回りだが、壁際に沿って移動するぞ」

「遠くなるよ!」

「移動距離のことだけで考えるな!」

「だってぇ、身体、重たいぃ……」


 これがナユなら、負ぶって行くと言うのだが、相手はシエルである。接触できても嬉しくない。


「歩け。嫌ならここにいろ」

「えっ? あたしが行かないと、意味、ないよね?」

「分かってるのなら、頑張って歩け」

「ぁぁぁ、冷たい-。やさしくないー」


 とはいえ、朝、あそこを発ってから休んでいない。

 シエルのせいで無駄な時間があったが、ここで一度、休みを挟んだ方がいいような気もする。

 だいぶ臭いに慣れてきたとはいえ、ここで食事……は、なしだが、休憩を挟もう。


「分かった。少し休もう」

「ぉ? ミツルがやさしい?」


 ミツルは荷物を降ろして、中から携帯椅子を取り出した。


「椅子っ?」

「ひとつしかないが、座れ」

「ありがとーっ!」


 シエルは嬉々として椅子に座っていた。

 一方のナユは、一度、地面を見て、岩っぽい地面なのを確認すると、そのまま座った。

 ミツルも同じように座った。


「はー、休まるわぁ」


 とは椅子に座ったシエルだ。


「なんか、地面が木の板じゃないのって変な感じね」

「そうだな」


 三人はしばし、そうやって休憩をした。


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