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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 インターとは

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04

 ミツルも言っていたが、インターが相手できるのは動かない死体だけで、動く死体は範囲外だという。

 それが事実なら。


「本当にミツルってインターの本部長なの? いやその前に、本当にインターなの?」


 その質問に、イルメラは目元を緩めてナユを見つめた。


「ナユちゃん、いい質問だわ」


 そう言ったかと思うと、イルメラは頬を紅潮させた。

 ナユは嫌な予感がして、イルメラから離れた。そして予想通り、イルメラはミツルのことを熱く語り始めたのだ。


「あの人はね! とーってもすごい人なのよ!」

「……はぁ」


 ナユの気の抜けた返事に気づかず、イルメラは続ける。


「インターとしての才能はずば抜けてるし、私たちのこともきちんと気遣ってくれるし、しかもあの見た目なのにまったく気取らないでしょう?」


 ナユはそこまで聞いて、放棄した。反論する気にもならない。聞く相手を間違ってしまったようだ。

 ナユはイルメラが熱くミツルのことを語っているのを聞いているふりをしながら歩いた。空を見上げると、葉の隙間から星が見えた。

 色々なことが立て続けに起きて、ナユは流されるままに受け入れることしか出来なかった。

 だけどようやく情報が出そろい、考えることが出来るようになったのではないだろうか。

 ナユは葉の隙間から見える星を数えながら、今回のことを考える。


 父のアヒムが動く死体になったのは、今日の昼前。

 三人の兄とは別行動で、カダバーと一緒だった。そしてカダバー曰く、森ではぐれたせいでアヒムは動く死体になったという。

 はぐれたのと動く死体の相関関係がナユには見いだせなかった。

 アヒムはそれこそ年齢一桁台の頃から大人について森に入っていたはずだ。アヒムとカダバーがいつから組んでいるのか知らないが、アヒムにとってこの森は庭と変わりないはずだ。

 森は人間が思っている以上に姿・形を日々変えているが、それでもアヒムは森のことを熟知していた。どこが危なくて、なにがどこにあるのか。カダバー以上に知っていたと思われる。

 だからナユは、カダバーが「僕と離れたばかりに」と言ったことに違和感を覚えた。

 ナユは基本、人を疑うことをしない。

 しかしどうしてか分からないが、カダバーの言うことはいつも信用出来ないと思っていた。それはきっと、顔がいいからだとナユは信じて疑っていなかったのだが……。

 ナユはやはり、顔のいい男が好きになれなかった。

 ナユが信じられるのは、父や兄のような筋肉だけだ。筋肉は嘘をつかない。筋肉は正義!

 ……とナユは独自の価値基準を確認して、それが間違ってないと自分に言い聞かせた。


 カダバーからアヒムが動く死体になったという情報がもたらされた後。

 三兄弟はきっと、インターであるイルメラの元へと向かい、イルメラでは動く死体に対処できないと言われたのだろう。そして三人は通信鳥コミュリを使ってナユに伝言した。

 コミュリから手紙を受け取ったナユは慌ててインターの本部へ赴き、そこでミツルと出会う。

 インター本部はイルメラから報告を受け、二方向からコロナリア村でなにかが起こっていることを知り、向かった。

 道に迷ったナユは森の中で動く死体になりはてたアヒムと対面。なにもされることなく、ナユはどうにか村にたどり着き、今に至る。


 こうして振り返ってみても、よく分からないことだらけだ。


 ウィータ国の土には神の力が宿っている。

 農作物や木はその恩恵を受け、生長がとても早い。その特性を生かし、この国ではそれらを育て、国内外に流通させている。

 しかし神の力を宿す土は、過剰な力を持っている。

 命あるものを生長させるのならいざ知らず、器から命を失ったものにも力を与えてしまうのだ。

 だからこの国の人たちは土の上に木や葉を敷き詰めて、直接、神の力を受けないようにしているのだ。

 だからよほどのことがない限り、たとえ今回のアヒムのように森の中でなにかが起こって死んだとしても、直接土に触れることがないのだから動く死体になるなんてあり得ない。

 それなのにどうしてアヒムは動く死体になった?


「……おかしいよね」


 ナユの中でずっと引っかかっていたなにかがようやくここで正体を現した。

 だからナユはぼそりと呟いたのだが、それはイルメラの耳にも入った。

 訥々とミツルのすばらしさを語っていたところにナユにおかしいと指摘されたのかと思い、イルメラは目をつり上げて反論してきた。


「本部長は、すばらしい人です!」

「え……。や、ごめんなさい。違うの」

「違うってなにがですか! 本部長は本当に……」

「イルメラ、俺のことを褒めてくれてありがとう。むしろもっと褒めるといい」


 別行動を取っていたミツルがナユたちに追いついてきて、後ろから声を掛けてきた。

 ナユは顔を引きつらせ、足を止めた。


「もっと褒めろって、やっぱりあなた、おかしいわよ!」

「おかしくない。私財を投げ打ってインターを救った英雄……。うん、悪くない。むしろいいね!」

「…………」

「まあ、俺は賞賛に値する男だからな。褒め言葉には困らないだろう」

「ええ、そうですわ!」


 二人のやりとりにナユは呆れ、馬鹿らしいと呟くと歩き始めた。

 アヒムはよく分からないが、動く死体になってしまった。しかもミツル曰く、アヒムは動く死体になった後に生命のあるなにかに手を掛け、ルドプスというものになってしまったらしい。動く死体とルドプスの違いが分からないが、どちらにしてもやっかいな存在になってしまったというのははっきりと分かった。

 ナユはちらりとミツルを見て、この人に大切な父を任せることに不安を覚えた。

 それならば、自分でしなくてはならないのだが、ナユにはなにをどうすればよいのか、皆目見当も付かない。

 どうしてアヒムが動く死体になってしまったのか気になるが、それより先にアヒムを止めなくては被害が拡大してしまうのは火を見るよりも明らかだ。ミツルが言うように、明日の夜には村人全員が動く死体になっている可能性だってある。

 ミツルを頼ることが出来ないのならば、ナユたちでどうにかしなければならない。


 そう決意を決めたまでは良かったのだが……。


「ぐぅぅぅぅぅ、きゅるるるぅ」


 ナユのお腹は恥ずかしいほど盛大に空腹を告げてきた。


「あらあら大変。私、先に戻って準備をしていますわ。みなさん、ここを真っ直ぐいらっしゃればインターの待機所ですから」


 イルメラはそれだけ告げると全員に会釈をして、予想以上の速さで緩やかな坂道を上っていった。


 三兄弟は道を知っているようでそのままなにか話ながら歩いている。ナユは兄三人の元へと走り寄った。


「兄さん、わたしたちでお父さんを救おう」


 ナユの提案に兄三人はそろってナユを見た。

 ナユは口を引き結び、三人を見上げていた。


「救うと言っても……どうやって?」

「分からないけど。でも! あの似非インターに頼んだら百万フィーネもするんだよ? お母さんの薬代だってまだ半分も残ってるのに、さらに百万フィーネなんて」


 四人の間に沈黙が落ちた。

 金銭問題は四人にとってとても重要だ。

 三兄弟もアヒムに一人前と言われるほどにはなってきたが、アヒムに比べるとまだまだだ。

 そして今回、稼ぎ頭のアヒムを失ったばかりか、動く死体となって村に迷惑をかけている。

 一刻も早く事態を収拾させなくてはならないのだが、それには先立つものが必要となる。しかしヒユカ家にはそれがない。

 となると、残る手段は一つしかなく、自分たちでどうにかするしかないのだ。


「とりあえず、イルメラさんの美味しい手料理を食べてから、考えよう」

「お腹が空いて、考えられない」


 そう言われて、ナユのお腹が再度、盛大な音を立てた。

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