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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
 *六章 シエルの罪と罰

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106/129

02

 ミツルはどっと疲れが出て、近くにあった椅子に腰掛けた。

 そこからはナユが寝ている様子がよく見える。ナユは相変わらず眠っているようだ。


「ナユは」

「かろうじて生きてるわよ」

「……かろうじて?」

「ナユはね、産まれる前に死の縁に引っかかってたの。それをあたしが見つけて、引っ張り上げて……。だからもしかしたらまた、縁にいるのかもしれないわ」

「それは、どうすれば」


 ミツルの質問に、シエルは真面目な表情を返してきた。


「ミツル」

「なんだ」

「あたしを()()()()()()()()

「……は?」


 シエルの言っている意味がさっぱり分からなくて、ミツルは思わずシエルの顔をじっくり見た。

 いつもは向こう側が見える透き通った姿をしているのに、今はどうしてだろう。存在感がハッキリとした、透き通っていない、茶色い髪に茶色の瞳の普通の女性に見える。


「シエル?」

「あたしは本気よ」

「いや、そうじゃない。いや、それもなんだが、なんで透けてないんだ?」

「……え?」


 ミツルに言われて、シエルは自分の手を見た。

 確かに、透き通っていない。それはいつからだ?


「ここについた時は宙に浮かんだ間抜けな格好をしてた」

「あのね」

「……その時は気にしてなかったが、たぶん、透けていた……と思う」


 デュランタが見えるのかと言っていたから、透けていたのだろう。


「……ということは」

「考えられるのは、そいつを殺した、からとしか」

「あぁ……そうね、そういうことね」


 デュランタはここに来るまでに見てきた死体と同じく、干からびていた。まるでそこにずっとあったかのように、そこに転がっていた。


「とにかく、ここはどうにも居心地が悪いな。移動しないか?」

「え……あ、そうね」


 ミツルは疲れた身体にムチを打って立ち上がり、寝ているナユを横抱きにした。


「……悔しいけど、見栄えがいいからいい絵づらになるわね」

「俺はいい男だからな!」


 そう言って、部屋を出ようとしたのだが、シエルは動こうとしない。


「シエル?」

「あー、その、大変申し上げにくいのですが」

「なんだ」

「身体が動かないの」

「はっ?」

「たぶんね、久しぶりに肉体を得て、その、頭と心と身体がバラバラ?」

「……分かった。ナユを隣の部屋に移したら、迎えに来るから」

「うん、待ってる」


 まったくもって、手の掛かる。

 そう思いながら、ミツルはまず隣の部屋にナユを移した。多少、埃っぽいが仕方がない。

 それから部屋に戻り、シエルを抱える、となった段階で、ミツルは悩んだ。


「横抱きと縦抱きとおんぶ、どれがよい?」

「そんなの、横抱き」

「おんぶな」

「ミツルの、ケチっ」

「ケチじゃねぇ。横抱きはナユだけだ!」

「じゃあ、最初から聞かないでよ!」


 シエルを負ぶってナユの寝る部屋へと移動すれば、ナユはベッドの上に上半身を起こしていた。


「ナユ、起きたのかっ?」


 ミツルがシエルを半ば放り投げて近寄れば、


「もうっ! あたしの扱い、雑なんだから!」


 とは文句を言われたが、それよりもナユの様子がおかしい。

 ナユはぎこちない動きでシエルに身体を向け、指さした。


「シエル、穢れを負うとは」


 ガサガサな聞いたことのない声だったが、シエルは知っているようで、目を見開いた。


「……ソル?」

「久しいな、シエル」


 その一言で、シエルは見るからに顔色を悪くして震えだした。


「嫌っ! ナユから離れてっ!」

「それならば、私のところに()()()来い」

「それも嫌っ!」


 ソル? それはだれだ?

 ミツルはまったく分からず、しかし、ナユの身体をだれかが操っているのだけは分かった。不快感だけがミツルを支配する。

 そしてとっさに手のひらに金色の光を生み出し──。


「くそっ! ナユから離れろっ!」


 ミツルはナユに向かって走り、金色の光──つまりは死体を地の女神に送る力──をナユの中にいる何者かに向けて打ち込めた。

 その光を生きた人間に使うのは初めてだったが、ミツルの本能が使えと言っていたので反射的に使っていた。


「ぐわっ?」


 金色の光はナユの中に吸い込まれ、そしてそれと同時になにかが引きずり出された。

 ミツルはとっさにそれをつかみ、引きずり出した。

 ミツルの手の内には、茶色の塊があった。


「なんだこれ?」

「ソル!」

「ソル?」

「それが地の中身のソルなのよ!」


 地というのは確か、シエルの力を奪ったとかいう男?で?

 それの中身??

 まったく意味が分からないのだが、ミツルはとにかく、この茶色の塊を離してはならないということが分かり、必死に掴んだ。


「それで、これはどうすればいい?」

「もう一度、インターの力を叩きつければ──」

「ぎぃやぁぁぁ」


 シエルに言われるままにミツルはインターの力をありったけソルに叩きつけた。すると、パンッとはじけ飛んで消えた。


「えっ?」


 今まで光と共に消えることはあったが、はじけ飛んだのは初めてで、ミツルは戸惑う。


「それよりナユ!」


 シエルの声でミツルは慌ててナユの元へ駆けつけた。

 ナユはぐったりとベッドに横になっていた。


「ナユ!」


 頬に触れ、軽く叩くと少しだけ反応があった。


「ナユっ!」


 ここにシエルがいることを忘れ、ミツルは必死にナユの名を呼び、


「ん……。ミツル?」


 小さいけれど、はっきりと聞こえた声に、ミツルはとっさにナユの唇をふさいでいた。

 ナユから伸ばされた手を掴み、指を絡め、ミツルの命を吹き込むようにキスをする。

 ボンヤリとしていたナユだが、唇の感触と絡められた指の感触、それからハッキリしてきた意識。そして視界に飛び込むミツルの顔。


「っ!」


 なにがなんだか分からないが、ナユは今、ミツルにキスをされていることだけはハッキリ分かった。

 目を見開き、それから繋がれていない手で思いっきりミツルの頬をひっぱたいた。

 パンッという音がして、ミツルの顔が離れたことは分かった。


「なっ、なっ、なっ、なにするのよーっ! こんのケダモノがっ!」


 思いっきり顔を叩かれたミツルだが、ナユが目覚めたことの方が重要で、繋いだ手を引っ張り、身体を抱きしめた。


「ナユっ!」

「あっ、あんたっ! 今、この美少女ナユさまになにをした分かってるのっ?」

「眠り姫に王子がキスをしただけだ」

「なにが王子よっ! ただのケダモノじゃないのっ!」

「でも、目は覚めただろう?」


 そう言われて、ナユは周りを見回し、それから見覚えのない場所に瞬きした。


「え……? ここ、どこ?」

「ここはおまえの故郷の浮島だとさ」

「え? わたしの故郷はコロナリア村だけど?」


 とそこで、ミツルの後ろに見覚えのある女性が立っていることに気がつき、そしてそれがシエルだと分かり、目を見開いた。


「えっ? シエル? 透け透けじゃない?」

「ふふっ、あなたもミツルと同じことを言うのね」


 シエルは怠そうに身体を動かし、近くにあった椅子に腰掛けた。


「肉体ってこんなに重たかったのね」


 苦笑するシエルに、ミツルはベッドに腰掛け、それから膝にナユを乗せた。


「ちょ、な、なにすんのよっ!」

「うっさい。ちょい黙れ。このまま襲うぞ」

「はっ? なに言ってるの?」

「ナユ、ミツルの好きにさせておきなさい。すぐに飽きるから」

「や、でもっ」

「飽きるわけないだろうが」


 なにかよく分からないが、ミツルはナユの身体のあちこちを触り、異常がないか確かめているようだ。ちょっと際どいところも触られたような気もしたが、ナユは気にしない方向で折り合いをつけた。

 なにかよく分からないが、心配はかけたらしい。

 ようやく気が済んだのか、ミツルはナユを隣に座らせてくれた。


「……シエルがいなかったら、このまま押し倒したんだが」

「なっ?」

「こんなとこでやるのは止めておきなさい」

「……それもそうだな」


 はーっとミツルは大きくため息を吐くと、ナユを正面から見た。


「とにかくナユ。この間の返事を聞こうか」

「えっ? なんの?」

「俺の子を産んで欲しい」

「ぶっ」


 吹き出したのは、シエルだ。


「ちょ、ちょっと、ミツル?」

「シエルは黙っておけ」

「あ、はい」

「ナユ、どうなんだ?」

「あのね、ミツル」

「俺は本気だ。というか、ナユ以外は嫌だ。それに、色々と無理だ」

「え、だって、ミチさんが」

「ミチでは無理だ」


 ミツルの表情は本気だが、ナユは訳が分からない。


「ナユ、おまえはそこにいるシエルの末裔なんだとさ」

「……えっ? ぁ、なんかその話、聞いたような、聞いてないような」

「そんでもって、おまえはその末裔の最後だ」

「そう……なの?」


 ナユはその話がどこに繋がるのかさっぱり分からず、頭の中は疑問符がいっぱいだ。だけどとりあえず最後まで聞くことにした。


「俺が死んだら、冥府の入口になる話は聞いたな?」

「……うん」

「それを阻止するには、俺と同等かそれ以上のインターの力を持った人間がいないといけない」

「…………でも、ミツルは死なないんでしょう?」

「あのな、俺だって死ぬわけ。ここまで来るのに殺され掛けた」

「えっ?」

「幸いなことにケガもなく来れたが、一歩間違ったら、何度か死んでた」

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