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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
 *五章 浮島へ

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03

 ミツルは結局、この日もグダグダと山の広場で過ごした。

 少し下れば綺麗な水場があるのも確認した。そこで水は調達済みだ。

 土はむき出しだが、死体さえなければ問題ない。

 もちろん、ミツルは自分が死体になるつもりはなかった。


 寝袋に入り、穹を見る。

 山頂だと思われる方向に目を転じれば雲がかかっているが、少し下に向けると不思議なほどに雲はない。

 だから真上を向けば、今日もキラキラと瞬く星が穹にあった。

 瞬く星を見ていると、自分がどれだけちっぽけな人間か思い知らされる。

 シエルにどう思われているのか知らないミツルは、そんなことを思う。


 瞬く星を見ているうちに眠くなってきた。

 目を閉じてもまだ、まぶたの裏で星が瞬いていた。


 *


 朝になり、太陽の光で目が覚めた。

 こんな固い地面だというのに、グッスリと眠れたようだ。

 ミツルは寝袋から出て、身体を伸ばした。


 寝袋に着いた土を払い、片付ける。それからもそもそと携行食を食べて、水も詰め直して荷物を背負えばもう出掛けられる。

 ここには昨日の昼過ぎに着いたけれど、山頂付近は雲が覆っているし、それは夜も朝も変わりない。

 朝は晴れているかもという淡い期待は予想どおり裏切られた。

 とにかく、上に向かえば山頂にはたどり着けるはず。

 ミツルはそう信じて、雲の中に足を踏み入れた。


 雲の中は思っていた以上に視界が真っ白で、そして思ってもいなかったのだが、寒い。

 先ほどまでいた場所は長袖にマントでちょうどよい気温だったのだが、一歩、足を踏み入れただけにもかかわらず、凍えそうなほどの寒さだった。

 寒いと知っていたらもう少し装備を考えてきたのに。

 そう思ったが、すでに遅い。

 引き返すという選択肢はなく、ミツルはマントの前をかき合わせ、寒さを凌ぐことにした。

 手が冷たい。これならば手袋くらいは持ってくれば良かったと思いながら、ミツルは白い世界を前に進む。

 周りはよく見えないが、坂道を登っている感覚はある。

 だけどここは山道のはずで、道を外れたら転落する恐れのある場所ではある。ミツルは慎重に前に進む。

 それにしても、とミツルは思う。

 この山の山頂にいつから雲がかかっているのか分からないけれど、それでもここまで登ってきた道より整っているような気がする。

 そこでミツルは疑問に思い、足を止めて、屈み込んで地面を見た。


 地面を見ると、いつの間にか土はなくなり、しかも見慣れた木の板でもなく、硬質な石のようなものが敷かれていた。

 どうしてここはこんなに整えられているのか。

 その意味するところが分からず、それでもミツルは前に進むために立ち上がり、慎重に前に進むことにした。


 白い空間はどこまでも続くかのように思われたが、それは唐突に終わりを告げた。

 ミツルの頭が頂上だと思われる場所にたどり着いた途端、白一色の世界から金色に光る世界へと一転した。あまりのまぶしさにミツルは目を閉じた。

 まぶた越しに金色の光に慣れた頃、ミツルはそっと目を開けた。

 ミツルの首から下は不思議なことにまだ白の世界の中にある。

 ミツルは坂道に立っていたと認識していたのだが、違ったのだろうか。

 見えないが足を動かして地面を歩き、ミツルは金色の世界へと立った。


 上も下も壁も金色の、それ以外はなにも見えない空間。白い世界とは違い、ここは寒くなくてホッとする。

 いや、よく見ると奥になにかが置かれている。

 ミツルはそこに真っ直ぐに進み、台座の前で止まった。

 装飾もなにもない無骨な台座の上には、透明な球が置かれていた。

 ミツルはてっきり、あの白い世界を歩いて行けば浮島へとたどり着くのではないかと思っていただけに、この部屋といい、台座と球といい、なんだか拍子抜けだ。

 それとも、道を間違えたのだろうか。

 あんな真っ白で、前も後ろも分からないところでは、分岐点さえ見えない。ここにたどり着けたのさえ、ある意味、奇跡なのではないかと思えるのに、戻ってどこにあるのか分からない道を探すというのは──心が折れる。

 正解が分からないというのはこれほどにも辛いということを、ミツルは初めて知った。

 まだ視界がハッキリしている場所ならば、いくらでも探してやろうと思えるのだが、いかんせん、あの白い世界は不安で仕方がない。

 しかも、道に柵があるようにも思えず、一歩間違えれば崖から落ちて、最悪な場合は死んでいたかもしれないのだ。本当によくここまで無事に来られた、と思う。

 しかし、ここにいつまでもいたって仕方がないことも分かっている。


 それでは、ここから出る?

 いや、その前にこのいかにも罠ですと言わんばかりの球に触れるべきか否か。

 これは、どう見ても罠、だよなぁ。

 ミツルはそんなことを思いつつ、だけどこれがなにかの仕掛け装置のひとつであるのなら、あえてその罠に乗っかるのもありだよな、とも思う。

 これに触れずにここを出て、寒くて視界の悪い中、正しいか間違いか分からない道を探すか。

 それとも、これ見よがしに置いてある球に触れて、あえて自爆の道を進むか。

 正直なところ、ミツルはどちらも選択したくなかった。

 だけど戻るという選択肢もない。

 それならば、とミツルは考える。


 この球に触れて、仕掛けが発動する前に飛び出して、新たな道を探す。


 そうだ、どちらかしか選択出来ないのではない。ミツルにはどちらも選ばないという選択肢もあり、逆に、どちらも選択するという選択もあるのだ。

 俺って天才?

 とか思いつつ、ミツルは逃げる算段をしながら球に手を伸ばし、触れた。


 それは、硬そうな見た目とは違い、柔らかく、温かい。

 なんだこれ? と疑問に思っていると、いきなりミツルの手ごと、金色に光り始めた。

 えっ、なにっ? と慌てて手を離そうとしたのだが、ミツルの意思に反して手が動かない。

 やはりこれ、罠だったか! と思ってもすでに遅く、ミツルはただ、見ていることしか出来ない。

 柔らかな金色の光はまぶしくはない。優しい光。

 そう、それはまるで死体を地の女神に送るときの光のようで──。


「……え?」


 いや、ちょっと待て。

 この球、まさか死体っ?

 いや、それにしては柔らかくて温かい。

 どういうことかと混乱していると、徐々に光が収まり、透明な球からふわりとなにかが浮かび上がった。

 それは最初、モヤモヤとした不定形だったが徐々に形作られ、一人の女性になった。それは透けていたが、碧い髪に碧い瞳をしていて──。


「シエル?」


 色は違ったが、シエルに瓜二つの見た目だった。

 シエルにそっくりな女性は、どこか遠くを見つめながら、おもむろに口を開いた。


 ──穹の民よ。

 ──穹はいつでも、あなたの帰りを待っています。


 それだけ告げると、シエルそっくりな女性は音も立てずに消えた。

 しん……と静まる空間。


 えっ、今ので終わり? とミツルが(いぶか)しんでいると、突然、地面が揺れ始めた。

 やっぱり罠っ? と慌てて入口に向かおうとしたら、下腹部に今まで感じたことのない妙な浮遊感が襲ってきた。この奇妙な感覚は初めて味わう。

 なにが起こっているのか分からないミツルは、慌てて入口を見て、景色が縦に移動しているのが見えて、混乱した。

 多分だが、ミツルのいるこの空間は、空に浮かんだらしい。


 ……えっ、空に浮かぶっ?


 どういうことかさっぱり分からないミツルは慌てたが、ぐんぐんと上昇していて、止めることは出来ない、ということしか分からなかった。

 いや、そもそも浮島というくらいだから穹に浮かんでいるのであって、鳥のように羽がなければいけない訳で。

 歩いて行けるとも思っていなかったけれど、まさかこの箱のようなものが浮くとは思えなくて、どういう仕組みになっているのか、ミツルは急に落ちないかどうか、そのことだけが気がかりだった。

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