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埋葬士(インター)の俺だが、ツンのみデレなしの残念美少女に突っかかられたから愛でることにした。  作者: 倉永さな
  *二章 インターとは

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03

 ミツルの冷たい笑みに、紐の絡まった不自然な格好でナユは身体をくねらせた。


「なんか急に寒さを感じるんだけど」

「腹が減りすぎてるんじゃないのか?」

「そっか。そうよねー」


 都合の悪いことは聞こえない。だから兄の言葉には同意したが、ミツルの言葉は聞かなかったことにした。

 ナユはそのまま身体をくねくねさせながら家へ向かおうとしたのだが、足を止めた。


「ところで」


 その声で三兄弟は、明後日の方向へ向かおうとしているナユに視線を向けた。


「……おうち、どこだっけ?」

「…………」


     *


 ヒユカ家は村の外れ、森の側にある。

 森を背に傾いた木造平屋建て。

 元々は落ち着いた茶色の家だったのだが、外も中も修理に次ぐ修理でつぎはぎだらけ。ありもので適当に修理していたので、色がバラバラで落ち着かない外観になっていた。

 それがナユが育ってきた家だった。


「……なに、あれ」

「あー。家のなれの果て?」

「どーして壊れてるのっ!」


 先日、ここに戻ってきたときは普通に建っていたのだ。……少し暴れただけで壊れてしまいそうではあったが。

 それが今は縦に二つほど亀裂が入り、屋根が吹き飛んでいた。

 なにがどうなったらこうなるのか、さっぱり分からない。


「わたしはいいけど、兄さんたちはどーすんの、これ」

「まあ、どうにかなるよな、オレたち」

「そうだなあ」


 予想通りののんびりした答えに、ナユはほへっと変な声を上げた。


「壊れたのなら、また作ればいい」

「木ならいくらでもある」


 兄たちのよく言えば前向きな意見に、ナユは笑った。


「そうね。カダバーが広場横の木を切りたがらないのは売り物にならないからじゃない? だったらあそこの木が鬱陶しいから思い切ってばっさりやっちゃって、あれで家を建てたらどうかな」

「おお、いいなそれ」

「それでは早速……」

「の前に! そこのわがままなお客さまの口になにか食べ物を突っ込んで」

「……ひどい扱いだな」


 無言で四人のやり取りを聞いていたミツルは、ため息とともに言葉を吐き出した。


「この状態を見ても、もてなせと言うの?」

「ガレキを避ければどうにかなるだろ」

「うわーお。ひどすぎるよこの人!」


 ミツルのひどい答えにうへあとまたもや変な声が洩れたところに村へと続く小道からぱたぱたと駆けてくる音がした。


「みなさん、こちらにいらしたのですね」


 ミツルを含む五人の姿を認めて足を止め、女性は息を整えるために深呼吸をした。

 暗がりなのでぼんやりと影しか分からないが、小柄な体型。

 三兄弟は同時に顔を輝かせた。


「イルメラさん!」


 三人の息は妙に合っていて、女性の名前を同時に口にした。

 イルメラと呼ばれた女性は小さく会釈をして、ナユたちに近づいてきた。

 近寄ることでミツルがいて、その後ろに組み紐に絡まっているナユがいることに気がついたようだ。


「本部長もこちらでしたのですね」

「ああ。こちらで晩飯をご馳走になろうと思ってきたんだが」


 闇の中でも惨状が分かるのを見て、女性は悲しげに眉尻を下げた。


「あら、これでは無理ですね。よろしければみなさん、インターの待機所にいらっしゃいますか? 大した物はお出しできませんが、お腹を満たすくらいはできるかと」

「おっ! またイルメラさんの手料理がっ?」

「もうそれは喜んで!」

「行きます! 行くに決まっている!」


 三兄弟の返事にイルメラははにかんだ笑みを浮かべた。

 それからナユに視線を向けた。


「あの……こちらのお嬢さんは」

「紹介が遅れました! オレたちの末の妹です」

「町で働いてる?」

「そうです、そうです」

「まあ! こんなかわいらしい方だったなんて」


 イルメラはコロナリア村に常駐しているというインターということらしいのだが、ナユは初めて会った。

 コロナリア村は城下町に近いが他の村に比べて小規模だ。村人とは顔なじみといってよい。

 暗くても顔が判別できる距離に来てイルメラを目にしたが、やはり初めて見る顔だった。


「こんばんは、初めまして。一年前からこちらにお世話になっているインターのイルメラと申します」


 そういった彼女の背中には、円匙があるように見えなかった。

 ナユはいぶかしく思いながらも、


「ヒユカ・ナユです」


 と名乗った。


 一年前というと、ナユたちの母が亡くなった前後。そのころはまだこの村にはインターがいなかったはずだ。

 それともナユが知らなかっただけで、インターは村にいたのだろうか。

 改めて考えてみると、普通に暮らしているとインターと接することがないことに気がつかされた。だれかが亡くなって初めて存在を意識する。


「ところでナユさん」


 イルメラに名前を呼ばれ、ナユは反射的にはいっと元気よく返事をした。


「その……聞きにくいのですけど、その格好はその、今、町で流行ってるのかしら?」


 イルメラの遠慮がちな質問に、ミツルは盛大に吹き出した。


「なっ! なんであんた、そんなに笑うのよ! だれのせいでこうなったと思ってるのよ!」


 ミツルはお腹を抱え、声を上げて笑った。


「はーっはっはっはっ! それ、いいんじゃないか? 町で流行らせるといいぞ」

「んもうっ!」


 イルメラは二人のやり取りに目を丸くしたものの、ナユが困っているのはすぐに分かった。


「ほどくお手伝い、しましょうか?」

「是非是非! 是非とも!」


 ナユの食いつくような同意にイルメラは苦笑しつつ、髪と腕と指に絡まった組み紐をほどく手伝いを買って出てくれた。


 イルメラの手に掛かると、驚くほどあっさりと組み紐はほどけた。

 ナユは自分の服よりも高い組み紐を切らなくて済んだことに安堵した。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」


 イルメラはさらにほどいた組み紐でナユの髪をきれいに結った。


「すごーい!」


 きゃっきゃっとはしゃぐナユを見て、イルメラも笑みを浮かべた。


「どこかのだれかさんとは大違い!」

「……良かったな」

「ほんっと、良かったわ!」


 すっきりとしたナユはミツルに文句を言うと、するりとイルメラの腕にしがみついた。


「それじゃ、いきましょっ!」

「こらナユ! ずるいぞ!」

「ご飯ご飯〜!」

 「うふふっ」


 きゃっきゃっうふふとしながらミツルを残し、小道へと消えていった。

 残されたミツルは、瓦解した家をじっと見つめた。


     *


 イルメラに連れてこられたのは、村の奥、墓地の横だった。

 暗闇の中、徐々にひんやりしてくる空気にナユの言葉数は少なくなってきた。


「どうしたの、ナユちゃん?」


 そのことに気がついたイルメラは心配そうにナユに囁いた。

 ナユは頬をひきつらせつつ、曖昧にうなずくだけにとどめた。

 ナユには苦手な物が二つある。

 一つは顔のいい男。

 もう一つは死を予感させる物。


 だからインターは苦手のはずだが、イルメラは大丈夫だ。

 となると。

 ミツルは顔がよくてしかもインターであるのだから、苦手が重なっている。

 その上、ミツルは傲慢すぎてダメだ。


「ねね、イルメラさん」


 ナユはイルメラにだけ聞こえるように小声で問いかけた。


「なあに、ナユちゃん」


 イルメラはナユに腕を組まれていたが、嫌がる素振りを見せるどころか、今にも鼻歌を歌い出しそうなほどご機嫌だ。

 こっそりと顔を寄せて来たナユにイルメラは同じように返す。


「イルメラさんは動く死体を動かない死体にすることってできないの?」


 ナユの質問にイルメラは悲しそうに眉尻を下げた。


「ごめんね、ナユちゃん。私たちインターは動かない死体しか相手にできないの」


 申し訳なさそうな声に、しかし、ナユの中に一つの疑問が浮かび上がった。

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