4話 騎士団
ローディス騎士団。ローディスが誇る最強の精鋭部隊。家柄・貧富に関係なく入団試験に合格できれば入れるという、完全実力主義の集団である。とはいえ、当然のことながら入団試験は超難関で、合格できるのは毎年十数人から数十人程度。騎士志願者は毎回千人は下らないので、その難しさは推して知るべしだ。
騎士団は第一、第二、第三の三つの部隊で構成されている。それぞれが、海、空、陸を担当し、他国の侵略を防ぐ役割を担っているのだが、レヴァイアの治世になってからは、戦は一度も起こっていない。
そのため、現在は治安維持や人間に害を成す獣の討伐が主な任務だ。もちろん、他国に対する警戒は継続して行われているが。
王城の一角にある騎士の間。天井も高くかなりの広さがあるが、壁に掲げられた『戦の護』の紋章以外に目立った装飾品は置かれていない。いつ入っても空気がぴんと張りつめているような、そんな厳粛な雰囲気がこの部屋にはある。
ライカとフェリシアが騎士の間に入るとすでに騎士団長が揃って直立していた。三人ともフェリシアを見るとさっとその場に跪く。フェリシアは彼らの前にある、数段高い位置に設置された椅子に向かうと、静かに腰を下ろした。ライカはフェリシアの傍ではなく、扉近くに控えている。
「どうぞ面を上げて下さい」
「はっ」
フェリシアの許しを受けて三人が顔を上げる。
「報告をお願いします」
「はっ。私から申し上げます」
フェリシアから見て一番右の男が口を開いた。
第一騎士団長クレイ・ヴォード。燃えるような赤い髪と勝ち気な黒い瞳が特徴的だ。性格も明るく好戦的。三人の団長の中で最も親しみやすい印象を与える人物だ。第一騎士団は海域が担当のため、主に海沿いの街や砦に騎士を配備している。団長のヴォードも王都にいないことの方が多い。当然のことながら全員が船の操縦に長け、船上での戦闘を得意とする。
「海は穏やかで、他国の船との諍いもほとんどありません。ごく稀に酔っ払った漁師の喧嘩があるくらいですね」
ヴォードの発言に真ん中にいる男が、彼に鋭い眼を向ける。余計な発言は控えろと言いたいらしい。
「わかりました。では、グレアス騎士団長、お願いします」
「畏まりました」
グレアスと呼ばれた男は、ヴォードに向けたのとは打って変わって優しい眼でフェリシアを見つめる。
第二騎士団長リオン・グレアス。透き通るような薄青の髪と、優しさと冷たさの両方を宿す銀の瞳が特徴の、類まれな美貌の持ち主だ。彼を一度でも眼にした者はその姿を一生忘れることはないだろう。
第二騎士団の担当は空域。翼竜という温厚だが気難しい竜に乗って国中を飛び回り、上空から地上を監視している。翼竜に気にいられる、つまり主として認めてもらわなければならないのだが、それがなかなか難しく、そのためこの団は一番人数が少ない。剣も扱えるが、弓などの遠距離攻撃を得意とする者が多い。
「五日前、ターニャ村近くの森で火事が発生致しました。ただちに消火に当たりましたので森の被害は軽微、原因は旅人の焚き火の不始末でございました。報告は以上でございます」
「大事に至らなくて何よりでした。最後はダレス騎士団長ですね」
「はい」
第三騎士団長ルークウェル・ダレス。漆黒の髪と瞳、感情のない怜悧な顔。常に冷静で何事にも動じない精神力の持ち主。口数も少なく、何を考えているのかが全く読めない。しかし何故か部下からの信頼は厚く、団長の中で一番掴みどころのない人物といえよう。
陸が担当の第三騎士は、大きな街や国境砦、それに城の要所に配備されている。馬上での戦いを得意とする者が多い。
「異常はありません」
ダレスの報告は一言のみ。しかし、この場にいる全員が彼の口数の少なさを知っているため、誰も気にしない。
「わかりました。皆様、ご苦労様でした。引き続きこの国の平和のため、力を尽くして下さい。『戦の護』の名において、貴方たちの進む先に加護を」
三人は立ち上ると、さっと右手を左胸に当てた。
「『戦の護』に絶対の忠誠と絶対の勝利を」
微笑んで軽く頷くと、フェリシアは椅子から立ち上り、段を下りて扉へと向かう。それをヴォードが呼び止めた。
「フェリシア様、少しの間彼女をお借りしてもよろしいですか?」
ヴォードの視線は扉のすぐ横、つまりライカに向けられている。定期報告の時は概ね同じことを言われるので、ライカもフェリシアも驚くことはない。
「私は構いませんけれど、ライカはどう? 大丈夫かしら?」
ライカが断ることはないのだが、フェリシアは毎回彼女の意思を確認してくる。
「私に異存はございません。姫様をお送りした後でよろしいでしょうか」
「ああ、ここで待ってるぜ」
「畏まりました。では失礼致します」
ライカは恭しく頭を垂れた。