破壊と再生の呪縛
「私はね、遠い昔に竜の方に恋をしたんだ」
そう語ったのは祖母だった。
とはいっても私を拾って育ててくれただけで血の繋がりはないし、何年たっても年を取らないから随分と前に身長も年齢も追い越してしまった。
「年を取らないのも、死なないのも、全て竜の方のせい」
祖母の言葉通り祖母は死ななかった。
心臓を撃ち抜かれたって、首を切られたって、多くの血で地を濡らしたって。
死なないことが気持ち悪いくらい死ななかった。
そのせいで迫害されたことも少なくなかったらしい。
私を拾ってからは細心の注意を払ったおかげで死ぬことは少なくなったと言っていた。
「竜の方は感情が高ぶると炎を吐く癖がお有りだったけれど、本当に優しい方だった」
竜の方は尊いお方。竜の方は気高きお方。
お傍に在れただけでも幸福なこと。
それが祖母の口癖だった。
「竜の方は眠りにつかれた。いつか必ず目覚めるという言葉と呪縛を私に残して」
破壊と再生の呪縛。
竜の方とやらはそれを祖母にかけたらしい。
祖母の時を壊し、祖母の生を再生する呪縛は竜の方の愛の形らしいけれど、初めて聞いたときは随分と酷なことをする竜だと思った。
いつ目覚めるかもわからない自分を永遠とも呼べる生の中で待たせ続けるなんて、なんてひどいんだろうと。
「私は幸せだ。幸せなんだ」
ならば何故生き返るたびに祖母は泣くのだろうか。
生き続けることは地獄ではないのだろうか。
親しい友を見送り続けることは地獄ではないのだろうか。
「グレンディア……!」
祖母を置いていく側になった今、私には何もいう資格はないのだけれど。
「グレン、グレンディア、お前も私を置いていくのか。私のかわいい孫よ、逝ってしまうのか」
「ごめん、ね……」
「何故、何故だ。何故私は残されねばならんのだ。竜の方よ、何故、」
「おばあちゃん……」
「竜の方、―――様、何故、」
ぼろぼろと祖母が泣く。
置いていくなと私に言って。何故と竜の方に問いかけて。
嗚呼、竜の方。祖母の声が届くならどうか目覚めてください。
孤高で孤独な彼女を抱きしめてあげてください。
それができぬのならば、せめて彼女を解放してください。
涙で滲む視界の中、竜の方へ祈りつつ祖母の涙を拭う。
「グレンディアぁあああ!」
死の間際に願ったことは祖母の死だった。
「とある竜の恋の歌」を聞いていてふと浮かんだ話を設定だけ纏めてみました。
気が向いたらちゃんとしたお話にします。