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最近、酒場のお客さんに若い人たちが増えてきたような気がする。

家で一旦奥様の料理を食べてから来るオジサマたちと違って、こちらは飲み食いするから、それなりの利益も生んでいるようだ。


貰いすぎの報酬も、これなら良いか、って思ってしまうほど彼らの食べっぷりは素晴らしい。騎士だって肉体労働だもんね。わりと細身のヒトでも、何処に入るんだろうって思うくらい食べる。

そう、増えたお客の大半が、騎士のおにーさん達だった。…感覚的には坊や達なんだけど。

酒場で給仕の仕事をしているカレンさん(ないすばでぃの美人のおねーさんなんだな)の話じゃ、魔力も大して無いのに使い魔二匹を従えた(美人の)歌姫って噂が街に広まりつつあるらしい。

最初騎士の一部の人たちが、偵察を兼ねて聴きにきていたのが、口コミで広がったとの事。

あー、まぁ、いいけどね。女将さんの思惑は半分当たり、って所かな?



ブランとシュルツは街に出るとき極限まで魔力を押さえ込んでいるから「使い魔」に間違えられるんだろうね。まぁ、半魔だってばれるのはもっと問題があるから良いんだけど。



オジサマ達と違って、純粋に(笑)歌を聴きに来てくれているし、騎士さまだからか余り羽目を外す事無くいてくれるので客としては極上の部類に入ると思う。

若いから、たまにお馬鹿さんもいらっしゃるが、そういうヒトは周囲にいるお仲間が上手く連れ出したりしていた。

カレンさん曰く、ここの騎士団は国の海の玄関ともいえる、この港町に駐在しているから、かなり質が良いそうだ。


「副隊長が、また良いオトコでねぇ~」

この街を出るまでに、一度お目にかかってみたいですね。


……なんて、考えていたのがいけなかったのか。

ギルドから正式な依頼として来ましたよ。領主館のパーティで歌う仕事が。


なんでも、耳慣れない異国風の歌を歌う芸人がいるとの噂が、御領主さままで届いたらしい。多分、騎士経由での情報だろうなぁ。表向きは「評判の歌姫云々」だけど、裏にどんな事情が隠されているやら。

だって、仕方ないじゃん。こっちの詩なんて知らないんだし。


余談ではありますが、ギルドからの呼び出しの方法はいくつかあって、滞在場所が届けてあるなら、そこに直接職員が来るのだけど、旅の途中の連絡方法に例のカードを使うこともあるらしい。

魔法のことはよく解らないけれど、使い魔にカードのオーラのパターンを憶えさせ、痕跡をたどるのだそうだ。

警察犬みたい、と思ってしまったのは致し方ないと思う、よね?


それは兎も角、そんな場所にきて行く服など無い、と嘆いていたら女将さんが、既成の服を扱っている店を紹介してくれた。そこは、ドレスもあるらしい。

「まだ、日にちはあるんだから、そこで作ってもらうと良いよ。腕は確かだし、その割りに値打ちだからね」

そう、この「お呼び出し」のお陰で、滞在が一週間ほど延びましたよ。いいけどね。




ナタリーさん(本当に女将さんには娘さんがいた。年はリーリアより上で、近所にお嫁に行っていて子供さんもいる)に連れて行ってもらったのは、高級ブティックみたいなお店だった。

リーリアの体型は、この世界では小柄なほうになるけれど、一応標準体型なので、出来合いのドレスを手直ししてもらう事で話が落ち着いた。銀貨三十枚。ドレスとしては充分安上がりだし、女将さんの紹介って事で、かなり勉強してくれたみたいなんだけど、それでも決して安い買い物ではない。

旅の途中って事も考慮して、できるだけ嵩張らないタイプにしてはくれたけど…この先、こんな服が要らないようにしたいなぁ、って思うのは、根っこの部分が庶民だからでしょうか?


向こうの世界で若い頃勤めていた先で、たまに政治家にパーティ券を会社が購入することがあって(よくある話だったね。資金集めのパー券配布)「もったいないから行くか?」って上司に言われたことがあるけど、丁重にお断り申し上げました。


着ていく服も無いけど、何が楽しくって政治家のパーティって、皆で話していたもんね。

まぁ、招待客に芸能人がいるってことで、ちょっと心が揺れたけど、後で上司に教えてもらったら、ベテランの俳優さんだったり歌手だったりしたそうだ。



いかん、どうも頭が現実逃避したがっている。


最初、この話が来たときに拒否は出来ないって解ってはいたけど、一応断りの方向に持っていこうとしたんだよね。若輩者だから、とか、そういった場所に行ったことが無いから礼儀とか解っていないから、とか。

そうしたら、ちゃんとギルドにいらっしゃいました。マナーの講師の方が。

どのギルドでも、そういった不測の事態にあわせて、共同で雇っていらっしゃるそうな。

基本、歌うだけだから、細かい礼儀作法はいらないけど、必要最低限理解して憶えるのに一日かかりました。

なんていうのか、普段使わない筋肉使うものなのね、っていうのが実感です。


領主さまの所に行くのに、いい顔をしなかったのがブランとシュルツ。留守番を命じられた彼らは、一つの腕輪…ミサンガっていった方が近いかな?…を私に渡した。

白と暗褐色の糸で編まれたそれを渡され身につけるように言われ、その通りにすると(だって怖かったんだもん。気配が)結び目が消えて、継ぎ目の無い輪の状態になった。…っていうか、この色って。


<そう、俺達の髪の毛>

当然、彼らの本来の姿は「人型」で、ブランは猫の色合いそのままに白い髪と青い瞳を持ち、シュルツは暗褐色の髪と瞳の色を持っている。

お約束どおり、美形よね。魔族の血は侮れないわ。


しかし、髪の毛って呪いですか?

<あのなぁ、いくら俺たちでも、お袋さま相手にそんな真似しねぇよ>

どうだかなぁ、と思考が駄々漏れなのを良いことに、ちょっとばかり半眼っぽく相手を見る。

【我等がご母堂を感知するには、体の一部を身に付けていただくのが一番良い】

本当にそれだけだろうか…なんて、ここでは意識の奥に沈めておくけど。


「そんな魔力の強いもの身につけていたら、色々疑われるでしょ?」

【人間の魔法使いに見破られるようなヘマはいたさぬ】

この場合、どういう反応をすべきでしょう。


<お袋さまが、俺達を早く解放したがっていることはわかっている>

まぁ、ばれているとは思いましたけど。

【我らは縛られてはおらぬが、それがご母堂の意志ならば仕方ないこと】

ごめんね。でも一介の人間には、過ぎた存在なんだよ、キミタチは。

<だから、それは保険だよ。お袋さまの身に何かあったら、すぐに俺達にわかるように、ってね>



いつの間に仲良しさん?

【ご母堂がいらっしゃらなければ、馴れ合いはせぬ】

<「仲良し」じゃねーし>

心底嫌そうな二人に思わず笑みが漏れる。

「ありがとう」

人型に戻った二人の複雑そうな笑みが返って来た。






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