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「お袋さま」「ご母堂」
この言葉で彼らが自分の子供ではないことが判っていた。
半魔という存在は、私とレンの脳内の会話で生まれた存在だ。
「魔族」という、姿形はヒトでありながら、はっきりと「ヒト」とは一線を隔す存在。
設定が落ち着いたのは、レギオンが冥府の主となってから。彼の住む世界の住人としての存在として魔族を位置付けたのだ。
ヒトとは異なる生態系なので、両者の間には子は生し得ないはずなのだが、奇跡のような確立で「彼ら」は生まれる。
それがブランたち「半魔」だ。
彼らの基本設定は「ヒトでもなく魔でもない」ではなく、「ヒトでもあり魔でもある」だった。
それこそ、奇跡のような存在なのだから、どちらの世界でも受け入れられるモノであってほしい。それだけを願って設定した。
「けどさ、あんまり完璧な存在だと、狙われて厄介な事になるんじゃないか?」
当時、脳内である意味人格すら持っていたレンが、そうのたまったので、ある条件付けをしたのが、その魔力。
当然「魔」であるがゆえ、一般の魔力を有するヒトよりは当然強いが、魔族にあっては、一般的な…却って低いレベルにすらなる、ということだ。
だが、それではあんまりなので付加的な魔力も有する事にした。
魔は基本的に、魔力に対して万能だ。多少の得手不得手はあるが、一通りの魔法は使える。
しかし、彼らはそれができない。その代わりに一つの方向に特出する。
ブランが炎、シュルツが風。他の魔法が使えないのを補うかのように、彼らはその方面では最強を誇る。
彼らが普段取っている猫や狼の姿は、魔族特有の変身能力で、これはオプションとしてつけたままにしておいた。
だって、可愛いじゃん。
……いやいやいや。
それは、兎も角、その半魔のなかでも最強といわれた四人のうち、二人が自分の傍にいる。息子達の「命令」だろうが、彼らにも彼らの生活があるのだろうから、早いとここの世界で一人で生きていけるように頑張って二人を解放してあげなくちゃいけない。
そう思って只今ワタクシ、この街の「図書館」にいます。
図書館、っていうのは違うね。ここの「ギルド」の資料室、かな?一般に開放されていて、誰でも自由に利用できるようになっている。
しかも、息子達が与えてくれた能力の一つに「読み書きが不自由でないように」というものがあって、この世界のあらゆる言語が理解できたりする。
ありがたや、ありがたや。…こちら方面では充分チートかも知れないですな。
ちなみに、ごのギルドシステムもワタクシ無関係でございます。この建物自体が、各ギルドそれぞれの窓口があるいわば、色々な会社の営業所が集まったような場所だった。
もちろん芸人にもギルドがあって、仕事の斡旋とか、何かトラブルがあった時に代理人を立ててカタをつけてくれるとか(弁護士みたいだと思ったら、似たような職種があってびっくりした。「調停人」というのだそうだ)旅をするときに護衛の斡旋もしてくれるらしい。これは、冒険者ギルドと連結していて、個人でそちらに頼むより、色々な決まりを設定してくれているので確かだといえる。
元々リーリアは旅の一座としての登録だったので、改めて個人で登録してもらうことにした。
前に居た一座の名前を挙げると、受付のお姉さんにやたら同情されて(ギルド内では有名な話だったらしい)親切にしてもらっちゃったりした。そのまま、奥の部屋に入って、中に居る魔法使いに「オーラ」の色を識別してもらい登録のカードを作ってもらうのだが、その人に「不思議な色をしていらっしゃいますね」と言われてしまった。
貰ったカードの色は、シルバーグレイ。あの二人の「色」が混じった色だった。
ちなみに、このオーラ、一人一人微妙に違う色をしているらしくって、同じ色のものはないそうだ。
勿論、よく似た色はいくらでもあるが、専門家が視たら一目瞭然、なんだそうだ。
十人十色、とはよく言ったものだと思う。
さて、基本的な知識はレギオンに与えてもらったとしても、細かいところは解らない。当然だ、今までの記憶プラスこっちの世界の全知識を与えられたら、パンクしますよ私。そこまで、「脳力」全開じゃありませんもの、はい。
とりあえず、この世界は三つの大きな大陸と大小いくつかの島々で出来ているらしい。
あくまで「らしい」だ。だって、こっちには人工衛星も飛行機もロケットもない。測量技術だっておぼつかない。
知的生命体(と、いう言葉を使うのはすごく抵抗がある。昔やったシュミレーションゲームの名残なんだけどね)は、ヒト(一般的に言う「人間」ね)魔族、獣人(おお、ファンタジー)。「妖精とか、精霊とかはいませんよ」とレギオンに言われたけど、近い存在で「神族」がいる。レンしかり、レギオンしかり、彼らの周囲にいる、少数の存在。いわゆる「カミサマ」達だ。
ヒトと魔族、神族の違いは外見ではわからない。とはいえ、神族、魔族は全て人外の美貌を持つ、とはブランの情報。
そして、神々はヒトには不可視の存在らしい。…すみません、一部与えられた特権的(押し付けられた、ともいうけど)能力で、ワタクシ彼らが見えます。
魔族と獣人の一部は見ることが出来るらしい。だから、そこかしこに「神殿」とか「神話」とかがある。
魔族とヒトとの大きな違いは、内包する「魔力」にある。ヒトは魔法を使うたび、消費し(MPだわね)尽きれば当然使えなくなる。勿論体力と一緒で休息すれば回復はするけど、魔族にはそれがない。
だから、その気になれば、魔族がヒトを隷属させることは容易いが、気質として彼らは集団行動が苦手で面倒を嫌うと、シュルツが教えてくれた。
だから、ヒトを隷属させても持続できないので、やらないそうだ。
自分が関知していないこの世界の法則だけど、結構ご都合主義に近い出来だね。
そう言って笑ったら、基本設定者の気質が反映されていると思われる。なんて、言われてしまいました。
言っておくけど、神族、魔族の皆様そろってお顔の造作が素晴らしい、なんて設定していませんからね、私。
獣人は呼んで字の如し。彼らは独立した種族で、魔力が全く無い代わりに身体能力が半端無いそうだ。彼らも私の未設定の種族だったりする。
元の動物の身体能力を備えていて、背中から羽を生やして空を飛ぶもの、足が速いもの、色々だそうだ。
彼らとヒトの間の歴史は、やはり隷属するものさせるもの、の時代がある。いまだに奴隷みたいに扱っている国もあれば、場所によって差別の対象になったりしてもいるらしい。
シェロンは早くから、その制度を撤廃して、ヒトと同じ扱いをしているので、多くは騎士や傭兵、冒険者としての職業についているとの事だった。外見的特長で「いかにも」とわかるタイプと、外見では全くわからないタイプがいるとブランたちが教えてくれた。実際街中でも、「おお」と思うヒトもいれば、彼らに教えてもらうまで全く解らないヒトもいる。魔力が強く、オーラが見える者なら解るらしいが、私にそんな能力は無いし、欲しいとも思わないから別にいいけどね。
お袋さまらしい、ってどういうことかな?ブランくん?しかも、しっかりシュルツも同意しているし。…全く。