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お久しぶりです。新章スタートです。

どうして、こうなった。




顔を上げると…そこそこの身長差なので、結構辛い体制になる、しかも密着した状態なら尚の事。



目が合った相手は、甘い笑顔を口の端に載せ問うように軽く首を傾げた。それに、笑顔を返し――色々なモノを総動員させて、だが――ここ数日、スパルタともいえるカーマイン達の特訓のおかげで、身体に覚えこまされたワルツのステップを踏む。

しかし、甘い。アメリカのケーキ(結構偏見入っているかな?でも、アメリカのケーキって市販、自作問わず日本のケーキより更に甘いんだよね)に粉砂糖乗せて、メープルシロップをかけたくらいに甘い笑顔だ。胸焼けしそうだ…油断ならないものも持っていらっしゃるようだけど。


しかし、OL暦ウン年…身につけたスキルは半端ないっすよ。いくら、鳥肌が立つような状況でも笑顔で乗り切って見せましょう。




「流石、王宮付きの謡姫。見事なステップをお踏みになる」

「恐れ入ります。閣下のリードが巧みでいらっしゃいますから、安心して踊れますわ」

柔らかな笑顔が返事の代わりだった。途端に周囲から幾つかの男性の悲鳴が聞こえる…どうやら、踊っている最中に足でも踏まれたらしい…無理もないだろう。


魔族に優るとも劣らぬ顔立ちは、柔らかな薄茶色のウエーブが掛かった髪に縁取られている。紫水晶アメジストの瞳は柔らかな光を宿し、周囲の女性のみならず、男性すらも魅了する。

纏うのは白い法衣。一見シンプルに見えるそれは、目を凝らすと銀糸と白い糸で細かい刺繍が施されている。光沢のあるベルベット系の材質は、上物であると同時に、それなりの質量があるはずだ…同じ布で作られたドレスを見たことがあるが外見からは考えられない重さがあった…何年か前、寒い時期に社交界で流行ったと王妃様に見せていただいた。…まぁ、余りにも重くて、ダンスも儘ならないと、すぐに廃ってしまったらしいが。

それを重さを感じさせずに軽がると着こなす…侮れない。割と細身に見えるから、いわゆる「細マッチョ」だと推測する。



音楽が鳴り止むと共に、作法に従い深く腰を折る。見ることはできないが、向こうも胸に手をやり足を引いているはずだ。

身体を立て直すと、目の前に手が差し出され、エスコートされる。踊っていた女性を家族、もしくはそれに準ずる相手のところまで連れ帰るのが、ここの王宮のマナーだった。



皇太子自ら連れてきた、ということもあって、王宮内の扱いは悪くはない。歌を披露したらありがたいことに陛下も妃殿下もお気に召してくださった。完全な君主制ということもあるのか、侍従や侍女の躾もしっかりしている。ただの歌謡いに対してきちんと接してくれる。立ち居地的には、お客と使用人の間、みたいな感じだ。仕事の時以外は好きにしていて良いとも言われている。






さて、そんな立場の私なので、この場の保護者は内務大臣のルーセント卿だ。爵位は侯爵…私の保護者なんか、勤めるには大物過ぎるが、カーマイン曰く、本人の希望、なんだそうだ。亡くなった母上が魔族だった関係で、かなり好意的に接してくださる。


セレスや侯爵のことからも分かるのだが、この国はシェロンに次いで魔族への門扉が広い。とはいえ、彼らは基本人間との関わりを最小限に抑えるので、国に使えることは稀なのだが。




「素晴らしい踊り手をお借りでき、光栄でございました」

「恐れいります。閣下のリードが巧みでいらっしゃったおかげでございましょう」

無事、保護者の下に帰還できました、ってね。頭の上で白々しい社交辞令が聞こえるので、恥らった振りをして下を向き侯爵の後ろに隠れるように下がる。


近くで笑う気配がする…アキとハルだわね。ったく、放っておいてくれ、ってーの。



「歌姫殿、楽しいひと時をありがとう」

「恐れ多いことでございます」



膝を折って礼をとる。暫くすると「もういいですよ、ご母堂」と囁く声に、顔を上げる。


「やれやれ」

十分離れた場所に移動した相手の後姿に、溜息一つ。ダンスを数曲相手しただけだけど、すっごい重労働した気分だね。

「傍から見ても見事でしたよ。ここ数日の特訓は無駄にはなりませんでしたね」

「オソレイイリマス」

魔族の血を引く相手にネコを被る気はないので、彼は巣の私を知っている。笑顔を貼り付けながらの棒読みの台詞に、小さく笑って、再び視線を先程の相手へと移す。数人の貴族に囲まれ談笑しているのは、グラントの王族の血を引く青年。




「新興宗教の教祖さま、ね」

呟く私の口調に何か感じたのだろう。頭上からの気遣う視線に、軽く首を振る。

「いくら祈ったところで、あの子達は『叶える』者ではないわ。そう定義つけたはずなのにね。何を基準に宗教に走るのやら」

「『見た目』でしょう」

間髪問わず返ってきた台詞に、顔を上げると困ったような表情と目が合った。魔族の血を引くだけあって彼も相当の美丈夫だ。

「聞くところによると、周辺を相当『美しいもの』で固めている、とか。彼にとって美しいことが正義であり、全てなのですよ。それが悪いとは申しませんが、聊か短絡的にも思えます」



なんというか、流石カーマインの側近の一人、ってね。この方も歯に着せぬ物言いをされますこと。

「そうすると、私は『論外』よね」

「ご母堂は十分お可愛らしいです。それが分からぬものなど放っておかれればいい」

「…ありがとう」

なんていうか、うちの子達は…孫に至るまで甘いわねぇ。マザコンならぬ、ババコンですか。





「褒めてくれたお礼になるかどうかわからないけれど」


テラスに誘い、ゆっくりと口を開く。紡ぐはゲームの中の一曲。アニメにもなった、リズム系の乙女ゲーム。



この歌を歌う度に思う…一人じゃない、と。




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