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寄り道 シェロン 4

さて、この状態をどう表現したものか。


一言で言えば「空気が重い」である。漫画でいう描き文字の効果音ならば「どよ~ん」とか、掛け網効果とか、縦線とか。

朝食もいつもより少ない。…あくまで、「いつもより」だ。普通で考えれば十分すぎるほどの量があります。

時々レーエンさんが、私の方を見ては、何か言いたそうに口を開くけど、その度にウォルフさんやエルグさんの無言の圧力にあって口を閉ざしてる。

でも、基本的に事なかれ主義の私は、敢えて何も突っ込みません。て、いうか正直勝手に苦悩していてくれって感じだしね。だから、この場の空気を和ませるような事もしないし、こっちから何か聞くなんて事、絶対にいたしません。



まぁ、知っているから言える事なんで、何も知らなかったら何らかの行動はしていたかもしれない。

それくらい、居た堪れないというか、疲れる状況だったりする。

そんな状態で出発です。おかしい、今日一日は休ませてくれるはずじゃなかったのか、と思っていたら、どこから調達したのか、馬車でした。二頭立て。残りの一頭はウォルフさんが乗られます。

人の足で、王都まで三日。馬車ならば、二日といったところでしょうか。もう少し早い時間に出れば、深夜にでも着くような距離ですが…疲れましたよ、重っ苦しい雰囲気のままの旅なんて、しんどいだけです。

だから、翌日の昼過ぎ、王都の外壁が見えたときには正直ほっとして息を吐いてしまった。それに気づいてウォルフさんが苦笑を向けた。それに苦笑を返す。


エルグさんも不機嫌だけど、それに加えてレーエンさんの発する気が半端なく暗い。けど、微妙なんだよね、私を慮って怒ってくれているっていうのはありがたいんだけど、加えて私が何も聞かないことに対しても怒っているみたいなんだよね。

何故それが分かったかというと、自分たちと別れることになって寂しくないのか、見たいな事をぽつり、と口にしたから。

寂しくない、といえば嘘になるけど、この旅自体が「仕事」だからねぇ。それを伝えると、むっとした顔をして口を閉ざし、それきり一言もしゃべらなってしまった…まぁ、もう少し言い方ってものもあったかもしれないけど、こればっかりはねぇ。



考え方の差異か、エルグさんやウォルフさんは、自分の中で今回の事は仕方が無いことだと折り合いをつけたようで、特にウォルフさんは、あの翌朝から何事も無かったように振舞ってる。それだけ、大人、というか経験値の差だろうね、そういった意味なら私も自分の中で「仕方が無いこと」というかオンオフでの折り合いのつけ方は練れているんだよね。

若いっていいなぁ、なんて思ってしまう。エルグさんも不機嫌さは隠そうとしないしね。




と、ウォルフさんが顔を上げ剣の柄に手を掛けた。その様子を見てエルグさんもレーエンさんも身構える。

外壁の門にいた集団。その内の一騎がこちらに気がついたのかすごい勢いで近づいてきた。慌てて数騎がそれを追いかけてくるのが見える。


「リーリア!」

若い男性の声。ウォルフさんの手が剣から離れた。…知り合いなのかな?…って、近づいてくる相手の姿に気が付いて私は目を見開いた。

「カーマイン?」

青年…カーマインは馬を下りると馬車の下に来て私に向かって走り寄ると呆気にとられている周囲を尻目に御者席にいた私を抱き上げ腕の中に閉じ込める。

「よかった無事で」

抱き上げられた状態で抱きしめられている私としては思考が追いつかない。周囲も目を丸くしたまま動けずにいる。



流石というか、その状態からいち早く立ち直ったのはウォルフさんだった。馬から下りると、優雅な動作で腰を折る。

「…殿下、ここは街道の真ん中です。旅人たちの邪魔になりますゆえ、移動をご進言申し上げます」

おお、凄いですね。レックスさんちでも思いましたが、上流社会のノウハウが身についていらっしゃる。ほんと、何者ですかアナタ様。

「ウォルフか、久しいな。ああ、あまりの嬉しさに我を忘れていたようだ。そなたの言うとおりだ、ここでは邪魔になる場所を変えよう」

そう言って私を抱き上げたまま、自分の馬へと向かう。慌てたのは周囲の騎士さんたちだ。と、いうかこの状況に正直、どう対応して良いのか分からなくてうろうろしていらっしゃる。



「…え、と、あの、殿下」

「ふむ、軽くなったか?」

「…誰と比較していらっしゃいます?」

「それは、もちろん…あ、いや分かっている。…ふ、変わらぬな」


私を馬に乗せると、身軽な様子でその後ろに乗り馬首をめぐらせる。…知っていたけど、相変わらずゴーイングマィウェイな奴。まぁ、一国の王子だから仕方ないか…って、あれ?

「よく分かったわね」

一応声を潜めて周囲に聞こえないように声を掛けると、軽く首をかしげた彼は、すぐに小さな笑みを浮かべた。

「この世界でヒトとして貴女を知っているのは俺だけだから」

「そうですね、何故自分の元に来ないのかと、随分拗ねていらっしゃいましたから」

ふいに掛けられた声にそちらを向くと、見事な黒髪の青年と目が合った。カーマインが黒髪天然パーマなら、こちらは黒髪長髪ストレート。まぁ、外見のモデルが、某守護聖初期バージョンだからなぁ。


「セレス?」

「はい、ご健勝そうでなによりです、リーリア…母上」

最後の一言は唇を動かすだけのものではあったが、にっこり笑って私も頷いた。

「会えて嬉しいわ。そう、貴方たちはすでに主従なのね」

「ええ、厄介極まりない主です」

「セレス!」

くすくすと笑いあう私たちに、少し離れたところに居る騎士さんたちが驚いた顔をしている。だろうなぁ、後に「氷河を渡る風」の二つ名を冠する宰相となる存在だもんねぇ。


誰だよ、こんな二つ名考えたの。

カーマインとセレス。わらしべ長者ならぬ、国取り物語の主と臣下。彼らの話は、この二人が出会ったときから始まる。

ヒトを曳き付けてやまないカリスマ性の持ち主のカーマインと、冷静沈着の代名詞であり、希代の軍師でもある魔族のセレス。

大陸に一大帝国を作り上げた、若き皇帝と軍師の物語。


…まぁ、現実はどうなるか分からないけどね。




「成し遂げてみせるさ。楽しみに待っていろ」

考えていることを読んだ様にカーマインが言う。

「はいはい」

頑張ってね、とセレスを見て口だけで動かすと、困ったような笑顔が返ってきた。





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