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寄り道 シェロン 3

「ヒースキングダム」において、正確に「神」と呼ばれる存在は、ただ二人、ミルドレンとレギオンだけだ。


俗に「神族」と言われるのは、彼らに認められ、その傍に在る事を許された者たち…ヴィダやブラン達を指す。

「神族」というより、「神属」といった方が正しいのだろう。神の一族ではなく、神に属するもの。

その殆どが魔族で占められているのは、寿命の長さもあるだろうが、人間――ヒトや獣人――に比べると、能力の違いゆえか、彼らを「見る」事ができるからに他ならない。

逢えば惹かれる。彼らはそういう存在だ。…私にとっては、多少マザコン気味の可愛い息子たちでしかないけれど、ね。



それは兎も角、ヒースキングダムの彼らの位置づけは、言い換えれば「閻魔さま」である。片や、死して赴く冥界の主、片や、魂を洗浄し、次の世へ送り出す天界の主。

レギオンは裁くものであり、ミルドレンは選別するものである。前世の業によって、次の生を決める。

だから、人々は彼らを敬いこそすれ、祈ることはしない。神は拠り所であって、絶対者であってはならない、という、あくまで個人的な考えから設定されたものだ。


神に属するものはその力をヒトに貸してはならない。…一部の例外を除いては、であるが…そういう世界だった。







「何がどう間違ったのか」

隣で熟睡するウォルフさんの髪を梳き、そっと溜息を吐く。

昨夜の彼は、その切羽詰った様子とは裏腹に酷く優しかった…が、容赦が無かった。私に意識を向けることで何かを忘れようとする気配すら見えたのだ。

少しばかり動くことが億劫になっております。まぁ、身体が若いせいか、動けないほどって訳ではありませんけどね。



「神属の…正確には、神属に傾倒する者たちの暴走、ね」

「そう、向こうで言う狂信者みたいなものよね。神を冒涜するヒト達への粛清って…何考えているのかしら」

ソファに座って自分の髪を弄びながらアキが口を開く。…何故ここに、しかもこんな状態のところに彼女がいるか、なんて聞かないで欲しい。因みにウォルフさんが起きないのは、彼女の術によるものです。万能だな。

「しかも、関わっている者の中には結構な大物も居る、と。私の存在とか『黄金の歌姫』の二つ名も、神属から洩れた可能性があるわね」

「みたいよ。四大に加護された歌謡いの存在は、そちらでは結構有名になっているらしいし、まぁ、何の説明も無く『殺すのは禁止』と、言われただけなら、拡大解釈して傷つけるくらいなら良いだろうって思っても仕方ないけどね」

下っ端にまで存在がばれていないだけラッキーよね、と慰めだかなんだか分からない台詞に思わず苦笑する。

訳の分からない連中に存在理由だけで担ぎ上げられるのはごめんだ。


「で、今後の仕事に私の存在が差し障るから、メンバーから外せ、ときたわけね」

ふと、アキの視線が私の手元にあることに気が付いて「触ってみる?」と、訊くと返事の代わりに私とは反対側――ウォルフさんを挟んで――に、腰を下ろした。

「うわ、さらさら…むさい外見からは想像ができないわよね。何か、腹立つわ~」

そう、彼の髪の毛は殆ど手入れもされていないのに、キューティクルばっちりのさらさらヘアーである。触り心地も滑らかで気持ち良い。

「でも、アキの術も凄いわね。ここまで遊ばれていてもピクリともしないよ」

「この手の術はハルの方が得意なんだけどね。『向こう』での貴女が持っていた四季のイメージが微妙に歪んで反映されているわよ」

あはは、春眠暁を覚えず、ってヤツですか?春に限らず、眠いときは眠いんですが。

「でも、術を掛けなくても、基本貴女が気を緩めていれば目覚めない思うわ」

ただし、少しでも殺気とか、私の気配が変わったら、自分程度の術は跳ね返して飛び起きる、と彼女は笑う。




「確かに、ハルが言うとおり貴女の好みど真ん中なのに…相変わらず、男に対して恋情を抱かないわねぇ」

アキの言葉に苦笑を見せて、熟睡しているウォルフさんを見下ろす。

「別に、旦那を愛していなかったわけじゃないわよ」

「知ってるわよ。でも、家族として、でしょ?…あの男に対してだってそうだったじゃない。だから選べなかったんでしょう?手を離したのは貴女自身だわ。…まぁ、妊娠していた事実を知っていれば別の選択をした可能性もあるけどね」

自分がしてきたことを全部知っている存在を相手にするのは厄介だ。言い訳も誤魔化しもできない。

薄く笑って流すと、仕方ないわね、と溜息を吐かれてしまった。




「で、これからどうするの?このまま出て行くなら手を貸すけど?」

「様子見、かな?下手に動くと、情報元を探られかねないし、いらぬ警戒の要因を増やすことも無いと思うしね」

それと同時に興味もわいた。彼らがどう動くのか、私に対してどういう行動にでるのか。

「悪趣味」

ぼそりと呟いた声に軽く肩を竦めることで応えた。伊達に付き合いが長いわけではない。お互い意思の疎通は言葉にしなくちゃできないけれど、何となく考えていることは分かる。



「一応、兄上が釘は刺しておいてくれたけど…却って逆効果になる恐れはあるわよね」

「そこまで『四大』に護られた存在…って?全く、本当に冗談じゃないわ」

大きく息を吐いて肩を落とした私に軽く笑って見せてアキは姿を消した。


その途端、まぶたが動き覚醒の気配を見せたウォルフさんを見下ろして、私は小さく嗤う。



ヒトの世とは、世界は異なっても本当に厄介なものだ、と。






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