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三章最終話です。

「氷結」

次の瞬間、冷たい感触と共に後ろの気配が無くなり、代わって柔らかな感触が私を包んだ。

「寂しいわね。呼ぶのは兄上だけ?」

耳元で囁かれる柔らかな声。音として聞いたことは無いけれど、よく知る「声」…って、え?え?


「…アキ?」

「久しぶり」

にっこり笑う相手を思わず凝視してしまった。

「なんで、胸があるの!ってか、女の人!?何で、どうしてっ!?」

「耳元で騒がない。…あ」

彼女が向けた視線の方向に目をやると、次の瞬間空気を切り裂く音と共に輝く紫電。

「派手にやったわね。夏人らしいわ」

「あれ、なっちゃんが?」

横で頷く気配と共に、静かな声が耳朶を打った。もう、こちらでは呼ばれることが無いはずの「私」の名前。



「リーリア、よ」

遠い昔、一度だけ彼の姿を見たことがあった。ほんの一瞬の邂逅ではあったけれど、彼だと解った、あの瞬間。

「ここでは、リーリアというの。ウィン」

「探した」

そっと頭に乗せられる手の感触に、思わず息を吐く。今まで存在として認識していても、実際に触れたことの無い相手だ。向こうも同じように思ったのか、自分の掌を見つめて、目を細めた。






『風の四季王』

私は彼らのことをそう呼んでいた。一人遊びの話し相手、風に乗せて声なき声を運んでくれた、幼い頃からの友人であり、半身。


「リーリア、ね。うん、解ったわ。私たちの事はいつも通りでいいから」

アキの笑顔に頷きかけてはっとする。いかん、流されるところだった。

流れる黒髪、枯葉色の瞳。色合いだけなら確かに「アキ」に違いないんだけど。

「で、なんでオンナノヒトなの?」

「…まだ、そこ突っ込むのね。悪いけど、私にも解らないわ。気が付いたら、この姿だったし…それに私だけじゃないもの」

思わずウィンを振り返って、男性の姿にほっと息を吐く。っていうか、これで女性だって言われたら、色々問題ありなんだけど。


「兄上じゃないわよ。春海、よ」

くすくすと笑うその声は柔らかく、耳障りのよいアルト。

「リンも?たしかに、十分女の子で通じるイメージだったけど…うーん」

いや、それもあるけど、アキさん性格変わりません?

不思議そうに首を傾げる彼女に、ソレを伝えると、「この性格も悪くないでしょう」と返ってきた。

今まで思考で済んできた意思の疎通が、実際口にしなくては通じなくなってしまったのは少し寂しいけど、こうやって触れ合えるからいいか、と納得させる。




「リーリア」

改めて呼ぶウィンに再び顔を向ける。「面倒だな」と小さく呟く声に、考えていることは一緒だと思わず口元が緩んだ。


しかし、こういう声をしていらっしゃったんですね、ウィンさん。ウォルフさんとは又違う、好みの低い声。

アイスブルーの瞳に白と見まごう白銀の髪。どれほど色濃い服装をしていたとしても、彼のイメージは「白」だ。踏み荒らされていない処女雪。

「この男、どうする」

示された方向を見て、思わず目を見開いてしまう。よく、漫画やアニメでみる姿ではあるが、実際見てみるとかなりシュールだ。


人間の氷り漬け。


「生きてるの?」

「当たり前だ。しかし、この世界は便利だな」

くすり、とウィンが笑う。その広げた掌には雪の結晶がきらきらと踊っていた。

…少し前にも言ったことはあるが、今のこの国の季節は夏である。念の為。

生きているなら、このままウォルフさんたちが戻って来るまで放っておこう、うん。



「イメージすれば力として発動する。属性は水、か。司る季節の持つ力に準じることになるな」

「因みに、私は風ね。夏人は火だけど、季節の属性からかしら、雷なんかを扱うのも得意よ」

いや、雷って夏だけのものじゃ無いと思うのですが…まぁ、日本人としてのイメージは夏の風物詩の一つですけど。


「じゃ、リンは?」

「アレも基本は風だ。土属性も混じってはいるがな」

春一番。本当にイメージが日本人的ですわね。

抱き寄せられる。柔らかなその感触に、改めて相手の性別を感じて思わずため息をつく。なんていうか、ないすばでぃのおねーさんって感じですな。ちょっとむっとするのは仕方ないですわね。あはは。




「良かった」

ほっと、息を吐きながらウィンが言う。

「突然、世界に俺たちが残された。お前が事故にあったのは分かっていた。俺たちは、いつもお前に寄り添っていたからな。だが、気が付くと、お前の居ない世界に俺たちは居た。お前が死ぬ時、俺たちも共に消える。俺たちが消えていない、という事は、お前の魂も何処かにある…そう思った」

「だから探したの。文字通り、風に乗って世界中のありとあらゆる場所を。貴女の生まれ変わりを。1,2度貴女の存在を一瞬感じはしたけど、すぐに消えてしまった…貴女の私たちを呼ぶ声も聞こえたけど、何処にいるか分からなかった。…でもね、感じたの」


私の叫び。助けを求める声。それに導かれるように此処に来たのだと、彼らは語った。


「俺たちを定着させろ。呼び名ではなく、真名で。お前が最初につけた、その名で我らを呼べ」



「冬樹」

イメージは雪景色の草原。吹雪に晒されながら、大地に根を張る一本の樹。


その途端、目の前のその存在が変化した。確かに、実体があって触れもしたし、その声も聞くことができたが、どこか希薄だった気配がしっかりと大地に根を下ろした、そんな感じだ。


「実」

文字通り、豊穣の秋。たわわに実る果実。一面の稲穂。

「二人も呼んであげて。貴女とは離れてしまったけど、私たちは繋がっている。貴女のこの世界の名が、私たちを通して彼らに聞こえたように、彼らの名も私たちを通して彼らに繋がるから」

頷くと息を吸い込む。青い空に上る積乱雲。海や山で笑う人々。

「夏人」

びしり、と空気が再び震える。さっきよりもだいぶ近い。「あの馬鹿」とウィンが呟く声が聞こえた。


「春海」

何故か、彼…いや、彼女か…の名を呼ぶとき、いつも何処からかビバルディの曲が聞こえる気がするのは刷り込みだろうか。

正確には「春水」なんだけど、字面的にこっちのほうがカッコいい、と言ったのは本人だ。

ふいに、風が体の回りを取り巻く。かすかに花の香りがするソレに誰がやったか気が付いて、思わず頬が緩む。







声が聞こえ駆けてくる人影が見えた。「空間移動できるのにね」と、抱き寄せたまま笑う声に、一緒になって笑う。


さあ、皆に彼らを紹介しなくては。



「私の守護者達です。名前は――」




年内最終更新です。

ノリで始めたこの作品ですが、多くの方にお気に入り登録をしていただき、感無量です。

来年は、仕事始めがとんでもないことになるのが目に見えておりますので、それが落ち着いてからの更新とさせていただきます。


本年は本当にありがとうございました。

来年もよろしくお願い致します。


それでは、皆様よいお年をお迎えください。

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