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街や村の周囲や城壁、個々の家々や宿に掛けられる結界は、対魔法用のもので、実際の物理的進入には、物理的対応…つまり、施錠などによるものだと教えてくれたのはエルグさんであった。

だから「やあやあ、こんにちは」と、入ってくる相手に「どうぞ、どうぞ」と門扉を開いてしまえば、それでお終い。開けた側に責任がある、という事になる。



通常の魔族ならともかく、理性を失った妖魔は、ある意味魔法が垂れ流し状態にあるので結界に引っかかるが、ヒトや別の手段で入ってきた…もしくは入らされた妖魔には意味はないのだ、と。


旅の途中、本来なら素通りするはずだった小さな村で、村長に呼び止られた私たちは、この近辺で2,3日前から妖魔と思われる「モノ」が現れると訊かされた。そして、できればなんとか退治してほしい、とも。


しかし、自分を含め彼らもギルドに属する存在だ。二重に依頼を受けることはできない。そう言おうとした時、どこからか悲鳴が聞こえ、女の子と小さな男の子が駆けてきた。

「おかあさんがっ!おかあさんがぁ」


ここで、無視できる人たちで無いこと位知っている。


子供たちが駆けてきた方向に向かって走り出した彼らを目で追い、私は小さく息を吐くと村長に向き直る。

「皆さんを安全なところに非難させてください。万一戦いの流れで妖魔が結界内に侵入しないとは限りませんから」

「あ…ああ」

はっとしたように、村長は顔を上げ、近くに居た人たちに次々と指示を与えた。流石に伊達に年は取っていないし、責任ある立場にも居ない、ってことね。



膝を折り、子供たちを抱きしめた。女の子は急に安心したのか大きな声で泣き出し、つられたように男の子も泣き出した。

「偉かったね。流石お姉ちゃんだね」

首筋にしがみつきひたすら無く少女の頭を撫で続け、服をぎゅっと掴んだ男の子を片腕で抱きしめる。

「この子たちをお願いできますか?」

頷くと、村長さんは傍に居たヒトに子供たちを託した。ほっと息を吐き、ウォルフさんたちの行った方に向かおうとした時、村長さんの暗い表情と同時に首筋に冷たい感触が当たった。



「申し訳ないが、貴女にはここで大人しくしていただく」

背後から聞こえる声は、静かではあるが有無を言わせぬ響きを持っていた。

「そうだ…暫くの間でいい、ここで大人しくしていて下さればいい。もし、動かれるようであれば…殺すな、とは言われているが傷つけるな、という命令は受けていませんからな」


何故だろう、不思議と恐怖はなかった。殺さない、という言質を取ったからなのか。でも、痛いのは正直ごめんこうむりたい。


「我々は言われた通りにいたしました。お約束は守っていただけるのでしょうな」

「無論」

思わず顔を上げて、村長の顔を見ると、目が合った相手は気まずそうに顔を背け去っていこうとする。

「待ってください、一体」

「できれば、口も閉じていただきたい、『黄金きんの歌姫』」

剣を収めた相手は、そのまま腕を首筋に回した。背後から抱きしめられているように感じられなくもないけれど、相手から漂う気配は、そんな甘さなど微塵も感じさせない。



「豹のウォルフ、か。また厄介な相手を」

その言葉に、思わず息を呑んだ。パニックになりかけた頭を必死で落ち着かせる。考えろ、考えろと自分の中で呪文のように繰り返す。


向こうはこちらが何者か知っている。

このタイミングで、妖魔が現れる。この町は規模は大きくないが、王都まで早馬で3日ほどの距離だ。落ち着いて考えれば妖魔が出た時点で、王都なり、一番近い騎士団や兵士の詰め所などに助けを求めるのが普通だ。それをわざわざ、通りすがりの相手に助けを求める事がおかしい。

罠だと気が付くのに、時間は掛からなかった。

一瞬、ここに音叉があれば、と考えた自分に自嘲する。ヒトの世に関わることができない制約を持った相手だからこそ、手放した。今更助けて欲しい、などと身勝手極まりない。



一度働き出した思考は、留まることを知らないように動き続ける。

無事に戻ってきたウォルフさんたちがこの状況を見たら。ヒト相手に後れを取る彼らではないけれど、妖魔と戦った後、しかも人質をとられた状態で、思うように動けない事は明らかだ。





…それに。


男が口にした「黄金の歌姫」。確かに、それはリーリアの幾つかある通称の一つではあるが、それが世に広まるのは、この先数年後のはずだ。今の自分は駆け出しの歌謡いでしかない。一体彼らの背後に居るのは何者なのだろう。私たちの何を知っているのだろう。


黙って、ひたすら待ってチャンスを掴むのも一つの手では有るけれど、でも。



悔しい。


ぐっと手を握る。



身の程を知らぬ力など必要ないと言ったのは自分だ。その言葉に嘘は無い…無いけれど、こんなときだけ、自分勝手な事を考えてしまう。力があったら。少なくとも自分を守るくらいの力があったら、と。


どうして、どうして、と考えても仕方が無いことを、自分で望んだ結果であることなのに、思考はそこでループする。







――ミツケタ!――


その瞬間、入り込んできた声ならぬ声。


――喚ベ。我ラハ、此処ニ居ル――



馴染み深いそれに、思わず声を出す。




「ウィン!」



更新が遅くなって申し訳ありません。近日中に続きをアップして、年内の更新を終了させていただこうと思っています。

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