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「グランド、ですか?」

「ああ、ステアが一旦来るようにと、使い魔経由で連絡を寄越してきた」

ふーん、まぁスポンサーさまですからねぇ。聞いたわけじゃないけどソレくらい解ります。


「で、だな」

すっごくいいにくそうなウォルフさんにレーエンさんが呆れたように息を吐いた。

「ここから陸沿いに行くと遠回りになるんだ。途中山越えもあるしね。で、今来た道を引き返して、ロウエンから船で行こうと思っているんだ」

あー、そういうことですか、お気遣いありがとうございます。

「私のことなら大丈夫ですよ、それにロウエンに行くからって副隊長さんにお会いするとは限りませんし」



会って気まずいのは私より副隊長さんだと思う。まぁ、罪悪感が無いわけじゃないけどね。色々考えもしましたし、でもやっぱり答えは一つしかない。彼と私では決して相容れない。私が自分の主張を変えるつもりが無い以上、彼に歩み寄ってもらうしかない。傲慢な考えだとわかっているが、どうしようもない。


そして、彼は自分の主義を変えないだろう。歩み寄るために努力はしてくれるかもしれない…でも、彼には無理だ。


最終的に私を放り出して自分だけ生き延びろ、などと。




「それもあるが…元来た道を引き返すんだ。意味は解るな」

心の中が一瞬ぎり、と痛む。目を閉じ、ゆっくり息を吸うと静かに自分の掌を見つめた。

「大丈夫、とは言いません。でも、行きます」

来た道を返す、というのはマーサが死んだ場所のすぐ近くを通るということだ。そう、ウォルフさんは言いたいんだと思う。


「あと、馬車は置いていく」

へ?と目を丸くするとレーエンさんが説明してくれた。少しでも行程を早めるために、最小限の荷物だけでロウエンに向かうとのこと。荷物は別の便でフランドル公のところに運んでもらうらしい。うーん、宅急便みたいなものかしら。


「エルグが一頭、レーエンとリーリアで一頭」

計算が合いませんね。首をかしげてウォルフさんを見ると、彼は唇の端を上げた。

「俺の荷物はレーエンたちの馬につけてもらう。エルグ一人より、お前たち二人のほうが軽いからな。俺は獣化して行く」

おおおおお、その手がありましたか。っていうか、アレですか?豹のお姿になられると。



よっぽど、きらきらの目で見ていたんだろう。そんな私に、エルグさんが大きくため息をついた。

「リーリアは閨以外で裸の男と戯れる趣味があるのか?」

へ?

「獣人の獣化、というのは服を着ていない状態と同じことだ。…まぁ、毛皮を着ているから、裸といえないわけではないが、人型に戻れば、何も着ていない姿となる」

ずざざざざぁ、と引いた私に罪は無いと思う。レーエンさんはキャラキャラ笑っているし、ウォルフさんは可笑しさを堪えるように、うつむき加減だし、エルグさんは苦虫を噛み潰した顔をしているし。

「俺は別に構わないぞ。今更恥ずかしがる仲でもあるまい?なんなら俺の背に乗っていくか?」

「いいえ!結構ですっ!」







獣化したウォルフさんは綺麗だった。


向こうの世界でブラウン管の先、とか動物園でしか見たことの無い生き物は、自分の知っている物より一回り大きな…豹、というより虎の大きさを持っていた。肉食獣の持つ優美でしなやかな筋肉の動きは、時を忘れて見惚れてしまう。

じっと見入る私に困ったような表情をすると、彼はするり、とその体を寄せてきた。

「…少しだけだぞ?」

エルグさんは明後日の方向を見て、レーエンさんはひたすら笑っているけれど。


か…かわえぇっつ!

自分の前でお座りをした大型肉食獣に理性など吹っ飛びましたよ、こんな機会二度とない!

至福です。向こうの世界じゃありえない体験をさせていただきました。はい。



馬の旅は…もう、何も言うまい、ですね。あの場所に近づいたら感傷にひたるかな、なんて心配はこれっぽっちも無かったです。ええ、それどころではありませんでしたよ。

話には聞いていましたし、小説の描写なんかにもありましたが、わりと話半分、って思っていたんですね、ええ。自分がいかに甘かったか思い知りました。


レーエンさんが下手なんじゃありません、後ろに私がいるからって相当気を使って進んでいてくださると思います。でも、急ぎの旅ですから、、のんびり馬に慣れる、なんて事していられません。…お尻の皮が一皮めくれる、って誇張でも何でもなかったんですね。こういう状態になるって、考慮に入れられていたのか、薬は山ほど購入されておりました。しくしく。



それでも、わりと穏やかに…本当に何事も無く、過ぎて行った。馬での強行軍のせいか、野宿はなしで。

シェロンという国は、街道に力を入れているので、主要な街道であるなら、多少の無理をすれば野宿の必要なく進めるのだとレーエンさんが教えてくれた。

妖魔の襲撃を警戒して、基本夜はしっかりとした宿に宿泊する。こういった場所は二重三重に結界が張り巡らされているから、多少高くついても強襲される確立が低いのだ。



でも、低い、というだけで皆無ではない。






王都まであと、2,3日という場所でそれは起こった。




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