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暫くの沈黙の後、肺の中全ての空気を吐き出すようにシュルツが息を吐いた。

「護れるか?我らが姫を」

だれが『我らが姫』だ。

「命に代えても」

ウォルフさんの言葉に、私は顔をしかめ、シュルツとブランは薄い嗤いを浮かべた。

「我らが姫は、ご自分の為に命を粗末にするものを厭われる。護る、とは対象者を生かし、なおかつ自分も生き残ること。そなたにそれができるか?」

「…鋭意努力しよう。できぬ約束はしない主義だ」

鋭意努力、ね。社会人だったとき良く使った逃げ口上だわ。



「…リーリア」

シュルツがこちらを向き、ブランもようやく私の肩から顔を上げる。…楽になったわ、うん。


「命を…でなくては我らは動かぬ」

ほー、責任転嫁ですか?そろって『違う』と聞こえたけど、うん、まぁ、そうだよね。もっと馬鹿息子に報告しなくちゃいけないんだもんねぇ、苦労させて悪いわね。

【誠意がありませぬな】

あるわけないじゃん。彼らとの接点を作った張本人だろうが?

<否定はしないな。今回の責任は主にある>

「ならば」

私の声に二人が膝を付く。やめてくれ、その芝居がかった仕草。

「主に伝えよ」

ちくしょー、乗ってやるぜ。

「「御意」」



「あ」


格好つけて消えようとした二人を呼び止める。

「これ、外して行って」

腕を突きつけてブレスレットを差し出すと、やれやれと首を振り…ちょっとまったぁっ~~~

にやりと笑って向ける人外の美貌二つ。こいつら、嫌がらせに出やがった。


「じゃあ、またな」


「ご健勝で。我が姫」



あ…あいつら。

「愛されてるんだねぇ」

ほう、っとため息とともにおっしゃるレーエンさん。エルグさんも苦笑いをしていらっしゃる。

よりによって、あの馬鹿息子ども。


人の手首を舐めていきやがったっ。しかも、最後に両頬にキス、というおまけ付きで。




「…篠笛…じゃないケーナ?」


ご夫妻はとりあえず宿にしていらっしゃるところに戻られ、私はといえばウォルフさんの部屋にお邪魔していたりします。

「リーリアの故郷ではそう呼ぶのか?シェロンでは『クラフ』と呼ぶ」

そういって、吹いてくれた音はやっぱりケーナだった。哀愁をたたえる音。癒しの音楽。

と、曲調が知ったものとなる。驚いて彼を見ると「古い民族音楽だ」と、教えてくれた。すでに題名も忘れられて久しい、音だけが継がれている音楽。


「El Conder Pasa」

「え?」


にこり、と笑って歌詞を紡ぐ。喉の調整をしていないから、鼻歌程度におさえて。ケーナを使って歌われる、有名な音楽。そういえば、リコーダーでもやったなぁ。

「そういう歌詞がついていたのか」

多分調べていけば、あっちの音楽がいくつかみつかるだろう。でも、それよりも私がしなくてはいけないのは、こちらの音楽を知ること。

でなくては、隠れ蓑の意味が無い。…まぁ、いくつか簡単な向こうの歌を覚えてもらおうとも思っているけどね。



「ああ、そうだ。衣装を揃えなくてはな」

え?一応持っていますよ?二枚だけど。

「移動が馬車になる。だから、増えても問題は無い」

「馬車ですか?」

却って目立たないかな?と、思ったら徒歩のほうが人数的に不自然だ、といわれた。特Aの護衛を雇えるほどの存在なら、そちらのほうがいい、と。

「それに…多分、これが最大の理由だが。野宿になる確率が高くなると、食材は兎も角、調理道具一式は必要だろう?」

あー、そうですねぇ。お三方の胃袋を満たすには普通の携帯食では難しいでしょうね。


「ところで、リーリア。食事は作れるか?」

「作れますよ?」

主婦暦ウン年、なめるんじゃない、ってね。

「助かった」

ほう、っと心底安心した息を吐いてから、ウォルフさんは説明してくれた。


レーエンさんは食べるだけのヒトだそうだ。エルグさんとウォルフさんは一応作れはするが、切る、ゆでる、焼く、が基本の人たちらしい。

味は二の次、腹さえ満たされればいい。レーエンさんもそれに文句は言わない。なんといっても、冒険者ギルドに所属しているのだ、旅の間はいろいろあってしかるべきだし、自分が作れないのなら、文句を言うのは筋違いだ、という理由で。



「だが、荒んで来るんだ…戦い方が」

それはもう、見ているほうが辛くなるほど、相手が気の毒になるほどに。


「任せてもいいか?」

「任されるのは構いませんが。お口に合うかどうかは責任は持てませんよ」

この間、市場に行ったとき見た限りでは、調味料やハーブなんか、なんとなく見知ったものが多かった。しかし、自分の設定した世界であるにかかわらず、何故に米や味噌、醤油がないんだ、ちくしょー。なんて思っちゃったけどね。


「よし、そうと決まれば市場に行くぞ。揃えなくてはいけないものが山ほどある」

山ほどですか?じゃあ、お金を持ってこなくては。

「金のことなら心配は要らない。支度金ならちゃんと貰ってあるからな」

待っていろ、とウォルフさんは言って、私に掌を出すように言う。言われたとおりにして…何考えているんですか~


落ちてきたのは金貨が十数枚。


「とはいえ、流石にリーリアに持たせて外に出るわけにはいかないからな。俺が持っていよう」

そういえば、知り合ったきっかけは掏り騒動でしたね。そんなに前の話じゃないのに、なんだか、遠い日のような気持ちになってしまう。



「ああ、そうだ」

急に思い出したように自分の荷物を探っていたウォルフさんが、お金と引き換えるように掌に載せた物を見て、思わず目を見開く。

「よくお分かりになりましたね」

掌に落とされたのは、あの日鞄ごと掏られたのど飴だった。

「あの薬売りは俺も時々利用するからな。話を聞いてすぐに思い当たったからついでのときに買っておいたんだ」

「ありがとうございます」

いいや、と彼は笑い、目を細めた。



「命には代えぬ、しかし、力及ぶ限りお前を護ろう」

静かに跪くウォルフさんに、小さく頷く。流石に、ここまできて茶々をいれるほど空気をよめないわけじゃないもんね。


でも、やっぱり止めてくれ。




活動報告にも書かせていただきましたが、今後週一の更新とさせていただきます。

(しかも、おっかさんとは限らなかったりします)

よろしくお願いします。


それでは、読んでくださってありがとうございました。

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