表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/56

15

「万一の時があったら、足手纏いは私です」

はっとしたようにレーエンさんが顔を上げる。本当にいい子だわ。本気で私の心配をしてくれている。出会って間がないっていうのに凄く有り難い事だと思う。

「なら、本当に知らないほうが生存率が高いって事もありえますよね」



特Sと特Aクラスが組んでやる仕事だ、半端なものじゃないことくらい想像できる。

「…正直、知っていようがいまいが、命を惜しむ相手ではないがな」

ため息と共に吐き出された言葉に、私は苦笑を浮かべた。危険度MAX,ね。でも、命の保障はどんな立場だってできはしない。それは、「あちら」の世界で思い知った。

「それなら、余計知らないほうがいいです」

黙り込んでしまった三人に、我知らず笑みが浮かぶ。若いわね。相手のことを心配して、一生懸命になっている。相手がそれでいいって、言っているんだから、妥協するのも一つの道なんだけど、そこまで割り切れないのかな?


ただ単に、知ってしまったら色々面倒だな、って思っているだけなんだけど。


<…お袋さま>【ご母堂】

完全に呆れた声が聞こえるけどね。だって、仕方ないじゃん。知ったところでどうなるものでもなさそうだし。

まだ考え込んでいる彼らに、やれやれと心の中で嘆息する。しゃーないなぁ、おねーさんが折衷案を出してあげよう。

<誰がおねーさんだよ>

はい、そこ、余計な突っ込みはいれない。



「ギブアンドテイク」

顔を上げた彼らに、内心の思惑は兎も角、にっこり笑顔を見せる。…しかし、需要と供給って訳されたのは何故だ。


「私は歌謡いです。まだ、多くの世界を知らない為、色々なところを回りたい。ですが、女の一人旅は危険です。護衛を雇うにも相応の金銭がかかる。みなさんに付いて行けば、色々回って、なおかつ護衛代はかからない」

「危険にも首を突っ込むよ?」

「命の保障もできないときがある」

「どこにだって危険は転がっていると思いますが?普通に生きていたって、明日の事は誰にも分かりませんし」


突然、笑い声が聞こえ、そちらを見るとウォルフさんが大爆笑してる。おや、こんな風に笑うことができるんですね、旦那。


「俺たちの負けだ、レーエン、エルグ。お嬢さんは、こっちが思っているよりも大人だ」

…すんません、ばばぁで。

「いいだろう、今は話さない」

「ウォルフ!」

怒りを含んだ声を上げたレーエンさんをひと睨みでウォルフさんが黙らせる。うーん、表立って現れない力関係ってやつですか?



「それと…その『半魔』殿達は、ステアの所へ戻っていただこう」

その言葉に、ブランとシュルツが同時に顔を上げる。

「えっ!?」

「…半魔だったのか」

良く分かりましたね。フランドル公お墨付きの化けっぷりだったのに。

立ち上がり、私の背後に回ると彼らは元の姿に戻った。振り返るレーエンさんとエルグさんが息を呑む気配がする。まぁね、何日も一緒に居て気が付かないほど、彼らは完璧に「使い魔」を演じていたからね、無理もないと思いますけど。



「てめぇ、オレ達に戻れとは、どういうことだ」

「よさぬか、ブラン。…理由をお聞かせ願えるか?」

こういう時はシュルツの方が冷静よね。でも、実は本気で怒ると彼のほうが手におえなくなるらしい。ブランからの情報なんだけどね。

大人しいタイプほど怒らせたら怖い、って奴ですね。そこまで、詳細な性格設定してませんから、私のせいではありませんよ。

<…お袋さま。駄々漏れだってば>

気が抜けたようなブランに笑ってみせる。



「理由は至って簡単だ。彼女をできるだけ危険から遠ざけるため、だ」

「我らが居らぬ方が安全、と?」

「いかにも」

ウォルフさんの口調が妙なものになっているな。敬意を表した口ぶりだけど、なんだか駄々っ子をなだめる響きがある。

「貴公たちのように力あるものが彼女の傍に居れば、それは十分彼女を狙う理由になる」

「それを防ぐために我らがいるのにか?」


しゃべらせることをシュルツに任せたのか、後ろからひょい、とブランが私を抱き上げた。

思わず、足を上げて背もたれを飛び越える…って、何歳児だよ、あたしゃ。

見てくれの割りに力があること、と思わず感心してしまう。…問題は、人を横に立たせて肩に顔を埋めている事だ。…重いし痛いぞ、馬鹿息子。

そんな様子をシュルツばかりでなく、他の皆様も呆れたように見ている。

「随分と懐かれているんだね」

呆れたような笑いを含んだレーエンさんに苦笑を返す。


「確かに彼らが居たほうが戦力的には有利だが」

「でも、逆に言えばこちらを警戒させてしまうことにもなるわね」

「然り」

頷くとウォルフさんは、顔を上げブランとシュルツに視線を向ける。当然真正面から視線を受ける形に私もなるんだけどね。


…うん?


「だとしたら、リーリアを連れて行く意味がない。彼女はいわば、我らの隠れ蓑。力有る存在は彼女を際立たせ仇となる」

<何考えているのかわかんねぇけど、策士だよな>

(少しは冷静になったみたいね)

<ん?まぁな。悪りぃ、みっともないとこ見せちまった>

小さく笑うことで気にしていない、と示すと私たちは対峙?しているシュルツとウォルフさんへと視線を向けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ