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いつもと位置が違います。
私たちが今居るのは、この宿の「貴賓室」とも呼べる部屋。我々の世界では、スイート…もしくはインペリアルクラスのお部屋でございます。
一時的にしろ、ここを借り切るのはそれなりにお金がかかりますが、全額ウォルフさんもち、だそうです(レーエンさん談)しかも、ルームサービス付き。流石に、いつもほどの量ではありませんが、朝食と呼ぶには程遠い量の食べ物が並んでいます。
「とりあえず、食べてくれ…リーリア」
私に振りましたね。確かに朝ごはん前でしたけどね。いいですよ、ここは応えて差し上げましょう。ですが、貸しはきっちり返していただきますからね。
「レーエンさん」
実は私レーエンさんに抱きこまれています。部屋のベットより数段ふかふかのソファに座り、片手を頭に、もう片手を肩にがっちりと抱え込まれています。
「ご飯にしませんか?私お腹すきました」
いえ、実はあんまり…というか、ぜんぜん空いてなんか居ませんけどね。この雰囲気で、どうやって、と思うわけですよ。
レーエンさんばかりでなく、エルグさんですら、不機嫌を隠そうともしてないんですから。
決して、二日酔いとかではなくて、っていうか、二日酔いって経験したことないんだそうです。アレだけ呑んで、なんて羨ましい、鋼鉄の腎臓を持っていらっしゃるんでしょう。
某詩人の方がおっしゃっている「天使のバスケットボール」。うふふ、いつか経験していただきたいものです、はい。
「そうだね、『腹が減っては戦は出来ぬ』っていうし」
誰ですか、そんな格言、この世界に持ち込んだのは。とりあえず、離してくれたレーエンさんにほっと一息。いくら細くて小柄でも、流石というか、なんというか、きつくはないけれど抜け出せない。そんな抱き寄せられ方をされておりました。
レーエンさんに続いて、エルグさんも食べ始めたのを見て、そっとウォルフさんに視線を移すと、「助かった」と口だけ動かして、彼もまた食事に取り掛かり始める。
ふふふ、皆さん朝からお元気ですこと。なぁんて見事な食べっぷり。…こっちの食欲まで奪ってくださってありがとう。
少し冷めた紅茶でパンを流し込んで、果物を2,3切れ。とりあえず、朝ごはんは取る習慣だから、少しでも食べる様にしているけど、目の前の料理の量を見ると聊かウンザリしてしまう。まぁ、ちょこちょこ小分けして食べているから、問題は無いのだけどね。
同じ量なら回数増やして食べたほうが太らないっていうし。
リーリアは未だ成長期だから、無理なダイエットは禁物。まぁ、気にする体形じゃないし。
食器を載せたワゴンを片付けてもらって、ウォルフさんが気遣って、果汁と軽いお菓子を取ってくれた。そういえば、旅をしていた最初のころ、ご夫妻が私の食の細さに驚いて、無理やり詰め込もうとして体調を崩したことがあったんだよね。それ以来、二人とも私の食事に対しては何も言わなくなった。「ちゃんと自己管理しているから大丈夫」を信じてくれたみたいで。
しかし、ホールド続行ですか?しかも、エルグさんも私の隣に来て…見た目はともかく、過保護なにーちゃん、ねーちゃんに挟まれた末っ子の気分です。実の姉がそういうタイプではなかったから、なんだかこそばゆい。
この先触れることがあるかどうか分からないから、この場を借りて言えば、私の姉って言うのは4つ違いで、会社経営をしている。
いわゆるキャリアウーマンってやつだ。独身。…いや、バツイチ。子供はいないから、うちの娘たちを溺愛しまくりだ。でも、その愛情は私には向いていない。
あ、仲が悪いとかそういうのではない。友人言わせると「他人行儀」。姉妹、というより友人同士…親友とか、すごく仲のいい、というレベルではなく、普通の友人。いや、知人って言われても否定できないかもしれない。
本人曰く、肉親に対する愛情が希薄らしい(姪っ子たちは別格よ!とは、本人の弁)。直接言われたもんね、「あんたが死んでも泣かないだろうけど、内海(姉の会社の副社長で、親友。既婚者の男性)が死んだら、号泣するかも」…内海さんの奥さんも姉の友人なので、二人して抱き合って泣くんだろうなぁ、ってこの時ぼんやり思ったんだよね。
きっと、私の葬式のときも、ぼーっとしている旦那を尻目に、先頭きって仕切っていたんだろうな。目に見えるようだわ。
さて、それは兎も角、現状です。
「約束は守る」
ウォルフさんが静かに口を開いた。これは、レーエンさんやエルグさんに向けての言葉だ。
「リーリアに話して、理解してもらって…共に来てもらう」
「あ、それいいです」
驚きに開かれた三対の視線が集まった。…照れるじゃないか。なんつって。
「説明いりません」
「リーリア?」
だって、ねぇ。
「聞いても聞かなくっても後戻りできないのなら、聞きません」
面倒、じゃん?
「しかし、リーリア。それでは」
最近気が付いたんだけど、エルグさんって、有る程度気心が知れると結構話すんだよね。とはいっても、必要最低限だけどさ。
「知らないほうが幸せなら、それに越したことないじゃないですか…それに」
にっこりと笑顔。我ながら腹の中グレーだね。…真っ黒だとは思いたくない。
「知らないほうが秘密を守れますから」
おお!なんて我ながら健気な発言。
足元のシュルツとブランの大きなため息が聞こえたのは、気のせい、だよね。