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屍累々。



酔っ払いの皆様が、床に机に撃沈していらっしゃる。

「じゃあな」

エルグさんがレーエンさんを抱え上げ、全く危なくない足取りで戻っていかれた。結構飲んでいたと思うんだけど、凄いわ、うん。


そして、ここにも凄い…と、いうか笊が居る。




どうして、こんな事になったかというと、きっかけは昨夜と似たり寄ったりで、別の酔っ払いが、わざわざ区切ってある私たちの席までやって来て、「歌え」と上から目線の命令口調で言い出したのが事の起こりであった。

なんていうのかなぁ、可愛い子供達のおねだりとか、綺麗なおねーちゃんの「お願い」なら聞いてあげてもいいけど、何が楽しくって、こんなむさいおっさんの命令を聞かなくちゃいけないんでしょうね?


きっちり無視していたら「てめぇ」って…ブランとシュルツが立ち上がる前に、男の顔が水浸し…もとい、酒浸しになっていた。グラスの持ち主はレーエンさん。

「勝手なこと言うんじゃないよ。この子はねぇ、今休養中なんだ」

「昨夜は歌っていたじゃねぇか!」

「アレは特別。アタシの為にだもの。…そうだねぇ、アタシと飲み比べして勝てたら、頼んで歌ってもらってあげるよ」


って、レーエンさん。面倒だから、一曲くらい歌ってもいいですよ。


そう思って立ち上がろうとしたところをエルグさんが軽く肩を抑えた。

「もちろん、負けたほうが、ここの代金を払うって事で」

この時点で、すでにレーエンさんは結構飲んでいた。それを見て勝てると踏んだのか、男が了承して、気が付いたら酒場に居る人たち殆ど巻き込んで…。






で、冒頭に戻ります。


ちなみに、最後の一人が潰れるのを見届けてから、レーエンさんはにっこり私に笑顔を向けて、「はい、アタシの勝ち」と、勝利宣言をして、そのまま寝てしまいました。




「少し、外に出るか?」


あ、笊の存在を少しの間忘れていました。片付けに見えた、宿のご主人は「あいつが来ると何時もコレだから」と苦笑混じりに言って、お代はその辺に転がっている人たちのツケにしておくから心配ない、とも言ってくださいました。



おお、満天の星。


不夜城東京…もとい、現代社会と違って、夜は当たり前に暗いんですよ。そして、星を遮る街の灯もここにはないから、夜空の星の数が桁違いに凄い。

現代社会の科学で考えれば、この世界にも宇宙があるって証明なんだろうケド、そんなことどうでもいい、って気になるくらい見事な星空だ。


そんな中を男の人と二人きりで歩く(ブランとシュルツは途中でさっさと部屋に戻って行った)。普通に考えればロマンチックなシュチュエーションなんだけど、いかんせん、甘さの欠片もない。

だって、ウォルフさんがね、さっきから何か言おうとしては辞めている、の繰り返し。告白とか愛の言葉とか…なんて勘違いするのは残念ながら、人生経験積みすぎております。だから、黙って向こうから言い出すのを待っていた。


こういったことに、焦りや短期は禁物…とはいえ、娘や旦那相手には、すぐにキレていたけどさ、あは。



「リーリアは」


漸く、搾り出した、と言っていいような声でウォルフさんが口を開いた。

「もし、俺が何も聞かずに一緒に旅をして欲しい、と言ったら、行ってくれるか?」

突然の申し出に一瞬言葉を失う。理由を聞こうとして、ウォルフさんを見上げ、口を閉ざした。

彼ほどの人が、ここまで逡巡して…悩みぬいての申し出だろう。今はまだ、仮定の域を出ないけれど、最終的に申し出る確率が高い。特Sを二つも持っている人だ、それなりに高い危険度もあるが、護ってもらえるだろう事も容易に想像できた。それくらいの自信がなければ、例え共通の知り合いがいたとしても、面識の浅い私に申し出る事はしないだろう。


それに、彼…彼らは、息子たちが理を無理矢理曲げて、私に「紹介」してくれた人物たちだ。


…この程度の事を、割と早く理解し、頭の中で処理をして、私は「いいですよ」と頷いた。

それこそ、少し前にウォルフさんが想像していた通りの表情と動きを見せて。

突然、笑い出した彼に、流石にむっとする。なんですか、それ?シリアスな話だと思ったら、実はお馬鹿な騙しネタですか?もしくは酔っ払いの戯言、とか。



「あ、ああ…すまない。余りにも『そのまま』の答えだったから…つい、な」

ナンデスカ、ソレ?基本的に私、沸点低いってご存知ですか?

「…本当に、悪かった。そして、リーリア、感謝する。その答えを導き出してくれたことに」




え、え、えええーーー。


ナンデスカ、コレ。何の罰ゲームですかぁ?

突然、跪いたウォルフさんは、私の手を取って、恭しく唇を落す。やーめーてー。それ恥ずかしいから。


昔、旦那に冗談でやらせて、その後とんでもない目にあったんだから~~~。




はぁはぁはぁ。

恥ずかしさと、消してしまいたい記憶で、真っ赤になっている私を面白そうに見上げて…やっぱり、からかっていたのですね。…ウォルフさんは笑いを口に乗せたまま、首を振った。

「からかってなどいない。お前の反応が余りにも可愛くて、つい、な」

たらしだー。たらしがいるよー。しくしくしく。私の根っこは日本人なんです。こんなシュチュエーションにも、相手の動きにも全く慣れていないんですぅ。




そのまま、手を引かれて宿に戻って行ったけど…何も言わない、ブランやシュルツを不審に思わないくらい、動揺しておりました。そして、そのまま着替えもせず寝てしまった。



翌日、不機嫌丸出しのレーエンさんとエルグさんがウォルフさんと共に部屋に訪ねてきた。



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