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週末更新が危ういので。
私ののほほん、とした感想とは裏腹に、その魔力を感じたのか、揃って此方を向いた二人の顔は見る見る真っ青になっていった。
「キャ…キャシー?」
「義姉上?」
うふふ、と対するキャサリンは酷く楽しそうだ。あー違うか、あれは怒っていらっしゃいますねぇ。
ちゅどーーーん。
漫画にでもあるような擬音と共に、部屋の一角が崩れ落ちた。
<とりあえず、俺がキャシーのところに呼びに行って、シュルツがお袋さまの後をつけたんだけどよ。正直代わってもらいたかったぜ>
膝の上でしみじみとブランが言う。向こうの騒ぎなど全く見ない振り、だ。
<シュルツが遠話でここのことを教えたらな、それまで近くに居た虫達が一斉に離れていきやがった>
あー、それは悪いことをしたわね。主に虫さんたちに。
【ご母堂…】
溜息交じりのシュルツに内心苦笑で答えて、顔を上げる…なんていうんだろう、ごごごごご…っていう効果音がとても似合いそうな、キャサリンの気配だ。そして、少しずつ後退りしていくご兄弟。
…まぁ、ここまでにしておいて差し上げよう。これ以上、この華美なお部屋が荒れるのは見たくないし、使用人の方々も気の毒だしね。
よっこいしょ、と心の中で勢いをつけ、キャサリンへと向っていく。立ち上がった途端、下に落とされたブランは器用に降り立ち、シュルツも立ち上がった。
「その辺になさってください、奥方さま」
にっこりと笑顔を作って彼女の耳元に一言囁くと、驚いた顔と共に、手の中の魔力が急速に消えて行った。
「ご存知だったんですか?」
小さな、私にしか聞こえない、小さな声に笑いが深くなる。
シェロンの宰相補佐の奥方が、魔族というのは結構有名な話で、ギルドの書庫で調べ物をしているときに知った事だ。王都なのだから、それなりの数の魔族がいるにも関わらず、ブランとシュルツ二人揃っての「ツテ」と言われたときすぐに彼女のことが思い当たったほどである。
まぁ、彼女の「ペット」達が理由で、普段はキャサリンだけが別宅に住んでいる、というのはこちらに来て初めて知った話ではあるが。
「キャサリン…その者と知り合いだったのか?」
「『その者』ではございませんことよ。リーリアですわ」
「…すまぬ」
笑いたいのを寸前で堪える。そっと後ろを伺うとウォルフさんも肩を震わせていた。うん、気持ちは良く解ります。
「フランドル公の関係者とワタクシが関わり無いと何故思われますの?」
え?という顔をして、子爵(いや、もういっか)が私の方を見る。え~ちゃんと言いましたよ、お迎えに見えた騎士さんにも。そちらのおぼっちゃまは直接一緒に居たとき会ったじゃないですか?
「ランスーリンさまはご存知でいらっしゃいますが?」
うわぁ、我ながら嫌な言い方だねぇ。でも、それ位言ってもいいよね。これだけ迷惑かけられているんだから。
今度は自分の弟へと視線を向けるけど、向けられた本人こそ驚いた表情をしている。これなら、私だって読める『兄上はご存じなかったのですか?』だ。
もう一度私の方に視線が向けられる…やれやれ、面倒くさいなぁ。
「この使い間たちは、旅の安全にとフランドル公にお貸しいただいている者たちです」
「私もフランドル公に申し付けられ、彼女の傍におります」
…嘘じゃないですけどね、ウォルフさん。あくまで暫定的に、ですが。ほら、副隊長さんが驚いた顔をしているよ。ま、知ったことじゃないけどさ。
「と、いうわけでランスーリンさま」
はっとしたように私を見る。驚きの顔はそのままなのが、ちょっと笑える(失礼なのは充分承知だけどね)。
「護衛のお申し出は大変ありがたいお話ですが、重ねてお断り申し上げます」
全く何にも含んじゃいないが、色々含みを持たせて言ってみる。<悪党>と声が聞こえたが、聞こえない振りは得意。
「ご苦労様でしたわね、リーリア。宿に戻ってもよろしくてよ」
「キャサリン」
「義姉上!」
「黙りなさい」
鶴の一声。うん、素晴らしい。黙り込む、男性陣に笑いが再びこみ上げるが…頑張りました、私。
「お二人には言って聞かせることがございますわ。よろしいですね」
一応、私には後姿しか見えないけど…向こうにいるレックス御兄弟の顔色は、青を通り越して、グレーゾーンとなっていた。
ご健闘をお祈りいたします。
お屋敷を出て(その前に、執事さんや使用人の人たちから、口々に歌声を褒めていただいた。ありがとうございます)暫く歩いた後、ウォルフさんと顔を見合わせて、思わず吹き出した。暫く笑いが止まらずに、道の隅に寄って大笑い。
道行く人たちが気味悪そうに見て足早に去っていくけど、気にしちゃいられない。
「いや、聞きしに勝るカカァ天下だ」
「そんなに有名なんですか?」
漸く笑いが収まって、近くの茶店(喫茶店みたいなお店ですオープンカフェってカンジかな?スイーツ有なので嬉しい)によって、飲み物と軽食を頼む。結構時間が立っていたようで、朝、宿を出たのに、もうお昼を過ぎていた。
まぁ、ウォルフさんの場合、本人は「軽く」のつもりだろうが、私視点でが「がっつり」昼食なんだけどね。
「噂では、子爵殿の百夜通い、とも言われているらしいな。真偽のほどは知らんが、ステアから否定の言葉を聞かないから、おおよそ事実なんだろう」
馴れ初めは、彼女に命を救われた子爵が(一説には、刺客に立ち向かうキャサリンに子爵が一目惚れしたとの話があるらしい。真偽はご本人たちのみしかわからないけれどね)感謝の意を伝えたときに返ってきた笑顔に心を奪われた、とか、何とか。
それが、子爵の行動派の理由なんだろうな。成せば成る、ですか?しかし、百夜通いとは、小野小町ですな…悲恋じゃなくて良かったと思います。
食べ終わった後、笑ってウォルフさんが手を差し出した。
「観光に着たんだろう?良かったら、案内しよう」
らっきー♪
笑顔でその手を取った私に、すでに諦めたのか何も言わず付いて来る二人がいた。
ちょっと修正しました。お気づきになられた方、申し訳ないです。