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騎士さんに連れられてやってきたのは大きなお屋敷だった。


とはいえ、応接間とかに通されるわけではなく、玄関ホールから一つ中に入った部屋。なんというか、パーティなんかがあると、そこを一旦通って中に入るような、それなりの贅は尽くしてあるけど、主賓系じゃない部屋?って場所だった。


当然、椅子もなければ、テーブルも無い。


騎士の人たちは、一部は外に、位の高そうなヒトは玄関ホールで控えている。中に通してくれた執事のおじさまも礼儀正しくはあったけど、ここに案内しただけで、さっさと下がって行ってしまった。

どうやら、ウォルフさんはここの屋敷に心当たりがあるらしく「全く…」と溜息を吐いて黙り込んでしまっている。



すると、向こうの扉からヒトが入ってきた。先程の執事のおじさまが先に入って恭しく扉を支えながら頭を下げているので、こっちも膝を折ってお出迎え。ウォルフさんも軽く腰を折り、頭を下げる。

なんつーか、しっかり宮中の礼儀作法が身についている、ってカンジ?侮れないわ、ほんと。


「楽にしなさい」

穏やかな、初めて聞く声に「誰だろう?」と思いながら顔を上げる。

見たところ、30代後半から40そこそこってカンジのおにーさん。…ここの国は、美形しかおらんのかい?…あ、いやそういう訳でもないか、と思い返す。ブラウンの髪に碧の瞳。…どこかで見た顔立ちに心の中で首を捻る。



「そなたがリーリアか」

「はい」

声を掛けられ、もう一度軽く礼をとる。向けられた視線はそのまま私の後ろに移った。

「兄が共に来た、と聞いているが、そなたは獣人であろう?何故に偽った?」

微かに香る魔法の残滓。全く魔力がないって訳じゃないから、なんとなく解る。ご教授くださったのはブランとシュルツだけど。

「偽ってはおりませぬ。リーリアは私にとって妹も同然の娘。加えて知人より頼まれし者。お出でになった方々の誤解をあえて解かずにいましたのは、旅において、その方が周囲にあらぬ誤解を抱かせずに済む慣習故にございます」

おおお、なんつーか、澱みないっていうか、準備してありました的な言い訳ですねぇ。

「…まぁ、よい。私が用があるのは、その娘のほうだ。口出しは無用。よいな」

是、とも否、と答えず、ウォルフさんは頭を下げた。…言質とったほうがいいですよ?この方、結構策士ですから。



「娘…何ゆえ、我が弟の申し出を断った」

おとうと…弟、さん?えーと、この方の弟さんって言われても、ねぇ。嫌な予感はてんこ盛りですが。

「申し訳ございません、弟君のお名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」

少し驚いた顔のご主人に、後ろに控えていた執事さんが何か耳打ちする。軽く眉を寄せてから、ご主人はもう一度此方を見た。

「我が名は、レックス。アルベルト・ロッシェ・ツァイ・レックスという。この名に聞き覚えはあるか?」

ああ、やっぱり赤蜜柑はジンクスになりそうでイヤです。

「はい、失礼いたしました。閣下」

もう一度ゆっくりと腰を折る。いい加減疲れたんだけどね。おばさんをあんまり立たせちゃいけません。って、リーリアはまだ16だったっけ。

「では、我が弟も存じておるな?」

「ランスーリン・レナード・ツァイ・レックスさま、ですね。ロウエンでお世話になりました」

「うむ。ならば、もう一度問う。何ゆえ、弟の申し出を断った」


おとーとのごたごた(恋愛沙汰っていうのは、流石に、ねぇ?)おにーちゃんが出てくるのかよ?ちっとはまともなお人だと思っていたんだけどなぁ。がっかりだぜ。


「分不相応でございますので。ランスーリンさまにもそう申し上げました」

嘘は言っていないぞー。思いっ切り湾曲しているけどさ。

「ほう、それにしては、なかなかの苦言を呈したときいているが?」


苦言?そんな事いったかなぁ?


首をかしげた私に、レックス子爵は眉を寄せる。それねぇ、あんまりやってると皺になって消えなくなりますよ。

「なんでも、不可能を可能にしたら、お前のものになる、と申したそうではないか?」

へ?は?あ、ああ。…やれやれ。

「閣下…少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「ほう、言い訳を聞かせる、と?」

まーさーかー。誰がっ。

けれど、そんな事億尾にも出さないで、執事さんへと視線を移す。

「ご迷惑でなければ、水を一杯頂戴できませんでしょうか?」

視線で主人に問う執事さんに、鷹揚に頷く子爵。ううん、いい主従関係ですわね。

程なく持ってこられた水…っていうか、おお、薄めた紅茶ですか。流石お貴族さまですね。



お礼を言って子爵様に一礼。「お耳汚しではありますが」そう言って、歌うは「スカボローフェア」フルバージョン。


終わって、頭を下げると、遠慮がちな拍手が聞こえた…い、いつの間に。

部屋の周りには使用人の人たちが、集まっていた。子爵さまも少し驚いた表情の後、苦笑交じりの拍手を送ってくださる。

「内容はともかく…声と歌は素晴らしいものだった」

「ありがとうございます」



膝を折り頭を下げる。と、向こうのほうから、慌しい足音と扉を開ける音が聞こえ…。


「兄上っ!」

「帰ったか、ランス。早かったな」

おや、お出かけでしたか?副隊長さん。…しかし、早かったなって、なんです、それ?

「何事です!兄上!リーリアを屋敷に呼びつけるなど!」

「お前が動こうとしないからだ。ふむ、だがお前が気に入るのもわかるな。悪くはない」

ちょっとまて、断ったぞ、私は断ったんだぞ。

「身分などなんとでもなる。それに別に貴族に括る気はないからな」




ヒトの話を聴けー―っ。


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