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お気に入り登録がなんと1000件越え…うわぁぁぁ~ありがとうございます。
と、いう訳で一人感謝祭。三日連続投稿しまっす。
あまりにも有名な豹頭王のサーガは、古い友人の愛読書で、未完のまま作者の方が亡くなった事を酷く嘆いていた。
しかし、その豹頭王がリアルにいらっしゃるとは。
惚けていた私に、その人は軽く首をかしげ(かっ、かわええ)人通りの邪魔にならない程度に道の端に移動してくれた。その間中、私はポカンと口を開けたまま、相手の顔を凝視していた。
「大丈夫か?怪我は無いか?」
何と素晴らしい、低い声。うわぁぁ、ど真ん中ですぅ。…私の場合、姿形よりも、声とか話し方から入っちゃうからね。
え?ああ、好みのタイプってやつ?
みゃ~う。
軽い肩への衝撃と共に、すりよる毛並みに、思わず息を吐く。
「よかった、無事?」
すりすりと甘えるように体をこすり付けるブランと、足元にそっと寄り添ってくるシュルツに、体の力が抜けかけた。
「おっと」
腕への力が強くなり、そこで私はようやく現状を思い出して、顔を上げた。
うわ、本物。
ねーさん、貴女がここにいらっしゃったら、二人して狂喜乱舞していたことでしょう。いや、実際人目とブランたちが居なかったら、やっていたかもしれない。
「失礼な態度を取って、申し訳ありません」
いかんいかん、いい年したおばさんの取る行動じゃない。常識的な行動を心がけましょう。
深々と頭を下げる。お礼と謝罪はきちんと、それがマナーです(なんか、某公共CMみたいになってきたな)。
「助けていただいて、ありがとうございました」
「いや、助けたほどでもない。…失礼だが、どこかでお会いしたかな?」
いいなぁ、この声。ずっと聞いていたいです。
…いや、いかん、いかん。
軽く首を振ったので、さっきの言葉の否定と思われたみたいだ。
「そうか、俺を見る目が妙に懐かしげだったからな。おかしな事を言って申し訳ない」
「とんでもないです。私の方こそ不躾な態度で申し訳ありません」
ひたすら頭を下げるけど、ブランとシュルツには表層意識はだだ漏れなので、足元と肩から呆れた気配が漂ってくる。
懐かしかったかぁ。そうだね、あの話よりも一緒に思い出した友人が、だけど。
「構わない。お嬢さんはきちんと礼節を護り謝罪された。気にすることは無い」
「ありがとうございます」
いやーよかった、よかった。心の広い方で。ほっと一息つくと、彼はかがんで顔を覗き込んできた。
うわあああ~リアルですっ!近づかないでください~大型猫科はツボなんです~。思わず抱き寄せてかいぐりかいぐりしたいです~
なんて、やっていたらぴしり、と頬を叩かれた。…ブランのしっぽで。
その様子を見て、豹のおにーさんがくすり、と笑う。…ううう、百面相…見られましたよね。ぐっすん。
表情に大きな変化は無いけれど、笑うと琥珀色の瞳が細められる。
「面白いお嬢さんだ。俺はウォルフという、見ての通りの豹の獣人だ。お嬢さんのお名前をお聞きしてもいいかな?」
ウォルフさん。豹なのに狼さんですか。まぁ、あくまで『むこう』の世界の意味合いですが。
礼には礼を、当たり前の事。うわぁ、我ながら母校の方針身についてるなぁ。
「重ね重ね、失礼いたしました。リーリアと申します、歌謡いでございます」
スカートの端を持って軽く腰を折る。
「ご丁寧にいたみいる。ところで、先程腰のものを盗まれたようだが、大丈夫なのか?」
あー、あれですか。うん、掏ったというより、盗っていったよね。ナイフ使って切り取って。ただ、妙に感心しちゃったのが、アレだけの雑踏で、ナイフ使って、獲物だけを切り取っていったその腕前なんだよね。
傷どころか、服に傷一つついていない。この状況じゃ、切られても不思議じゃないのに、凄いわ。
ただ、刃物使うなんて掏りとしちゃ亜流、三流以下なんだよ…って昔読んだ漫画か小説にあった台詞。
「多分、盗んだ人は、確認したら落ち込むか、悔しがるかどっちかだと思います」
だって、あの中には、雑踏を歩く際に喉を痛めるといけないと思って買った飴と、そのお釣りの銅貨数枚しか入っていないんだもん。
惜しいというなら、あの飴よね。薬草が入っているもので、結構イイお値段したから。
それを話すと、ウォルフさんは「そうか」と一言呟いて頷いた。
何かが引っ張る感じがして、見るとシュルツがスカートの裾を引っ張っている。珍しいわね、こうやって動作で意志を伝えようなんて。
「それじゃ、失礼します。本当にありがとうございました」
「ああ、気をつけて」
うーん、首から上以外は、人型なんですね。残念です、おっきな肉球触ってみたかったのに。
<…お袋さま。なんつーか駄々漏れ>
【豹頭王と騒いでおられたが、既知の方か?】
(違うよ。豹頭王っていうのは、向こうの世界の小説の主人公。その姿そのままだから騒いじゃった)
まぁ、私よりも騒ぐ人はいるけれどね。もう会うことも無い友人を思い出して笑う。彼女なら私の何十倍も騒いだろう。
<けど、豹頭王っていうのも、強ち間違っちゃいねぇな。流せば、あっという間に広まってあいつの二つ名が増えるだけだ>
【知っているのか?】
<ああ、といっても俺も直接知っているわけじゃない。豹一族のウォルフ。剣一本で上り詰めた、傭兵ギルドの特Sクラスの兵士だ。冒険者ギルドにも登録しているはずだぜ?そっちも確か特Sだ>
うわ、凄いの一言しかでないわね。二つのギルドの特Sって。ひとつのギルドですら数えるほどしかいないってきいたことあるもの。
しかし、剣一本か、ホントリアル豹頭王だわ。
<縁は大事にしろよ、お袋さま。あの男、自分から名乗ることは少ないぜ>
そこで、ふと気がつく…まさかとは思うが。
【ご案じめさるな。神とて続けてのご都合主義は発動できぬ】
語るにおちたな。まぁ、分かっていはいたけれどね。
<それにだ、何もかも早々都合よくは行かない。…いくら、ご都合主義ったって、その後の縁を紡ぐのはヒトだ。こっちがお膳立てしたって、本人同士の気が合わなければ見合いなんて潰れるだろう?それと同じだ>
…あ、そう。しかし、よく「見合い」なんて言葉を知っていたわね。
<ああ、主に教えてもらった、お袋様向こうじゃ見合い結婚だったんだってな>
全く、あいつは余計な事ばかり。
遥か彼方の子供達が居る場所に向って、「あっかんべー」。