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お気に入り登録…え?600件突破って…うわぁぁぁ。
調子に乗って連日投稿です。一応会社休み中のみではありますが、はい。
「説明を、ヴィダ」
流石に、あの屋敷で泊まる度胸は私には無く(当たり前だ、俺だってイヤだ。とはブランの台詞)王都の中心より少し離れた場所にある宿に泊まることにした。
実は、この宿レーエンさん、エルグさんご夫妻ご推薦の宿屋。なんといっても、料理が美味しい(あのお二人の基準は、まずそこから始まる)ペット可で、レベルの割りに立地のせいか、中心街にある宿よりもお値打ちだということで。
お二人から話が通っていたのか、同じランクでも、一番良いお部屋に案内していただき、ほっと一息ついた。
食事は大変おいしゅうございました。食べきれない量に「あのお二人のご紹介でしたので、つい」とご主人が苦笑いしていらっしゃったけど…いくらなんでも、比べる基準が…ねぇ?
「母上」
思うんだが、こいつはツンデレか?他の人がいると無表情なくせに、二人でいると急に甘い…いや、甘えたになる。それはレンとレギオンにも言える事だけど、あの二人は他者の事など気にしない。
「我にも良くは解らぬ。解るのは母上に対する慕わしい気持ちのみ」
人に膝枕させて言う台詞ではないと思いますが?ちなみに、ブランとシュルツはヴィダを呼び出すといったら、早々に退散…もとい、一旦帰郷した。
「我ら魔族とて、親兄弟はある。それと同じくらい…多分、それ以上の思慕を母上に持っている。しかし、それは我が主上に抱く畏敬の念とは全く違うものだ」
まぁ、畏敬と思慕を同じにされても困りますが。
「冥界の君がお与えになられたのは、あくまで『好意』悪しき気持ちを抱かぬ程度。それとは別に我らの中には『思慕』がある。多分、母上が我らの有様をお決めになられたからであろう」
腰に手をやり…腹に顔を埋めるのか、こいつは。やることが外見とミスマッチだこと。
「イヤ、か?」
あーそんな不安そうな顔をしなくていいのよ、坊や。
よしよしと頭を撫でてやると、嬉しそうな顔を見せた。蕩けるような顔の魔族って、心臓に悪い。まぁ、それ以上の息子たちのおかげで耐性はついているけどさ。
「忠誠ではない、基本は思慕だ。母上を犠牲にしようとは思わぬが、母上の犠牲になろうとも思わぬ。親子とはそうであろう?」
ヒトによって違うだろうけどね。嫌いじゃないわよ、その考え方。
まぁ、いいわ。私も魔族を敵に回すような事態にはなりたくないしね。…でも、そうすると。
「陰魔や妖魔、は?」
「あれは魔族ではない」
膝の上から聞こえる底冷えのする声。
「…ごめん」
「母上?」
体を起こしてヴィダが私の顔を覗き込む。
「気安い気持ちで彼らを設定した私にも罪はあるわ」
「母上…」
そっと引き寄せられて、私は彼の胸に顔を埋める形になった。
「ちょ、ちょっとヴィダ!」
流石にこういうシュチュエーションは慣れていませんよ。年は重ねていても経験値少ないんですから。
「申したはずだ、あれは『魔族』ではない。魔族の誇りも気概もとうに捨てた存在。己の欲望にのみ忠実なもの。自ら道を外したもの」
頭に重みが加わり、ヴィダが顔を寄せてきたのが解る。
「道を外すは本人の責任。母上が悩むことは無い」
全く、本当に、この子達は。
ぐりぐりと彼の肩に顔を押し付けると、微かに笑う気配がした。
「ああ、そうだ。ロウエンの副隊長が職を辞して王都に向った」
……へ?
顔を上げると、笑いを含んだ紅玉の瞳とぶつかる。
「目的はわからぬ。用心召されよ」
唐突に消えて、体のバランスを崩した私は、そのままベッドに倒れこんだ。
「副隊長さんが王都へ?しかも、騎士隊を辞めて?」
思い浮かぶはあの黒さを滲ませた笑顔。嫌な汗が背中を伝う。
「と、とりあえず、王都は広いし、そうそう出会うこともないよね。うん」
まさか、職を辞してまで自分を追いかけてくる、なんてことは無いだろうから、なにか他の目的があっての事だろう、とか。
そうそう、都合よく出会うことなどないだろう、とか。
少しばかり以前と違い美人さんになったとはいえ、自意識過剰じゃん、自分。
そう考えて、納得すると安心して眠りに付いた。
わざわざヴィダが警告してくれた理由とか、副隊長さんの情報網が並ではない事など、すっかりと頭の中から抜け落ちていた。
次の日、食堂で手を振る彼の姿を見て、思わず回れ右、をしたくなったのは当然だと思いません?