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…なんというか、凄い。


その一言に尽きた。

よく、漫画やアニメでは見る。あと規模は違うけど大食い選手権とか。


でも、実際に目の前でされると、言葉も無い。

次々と消えてなくなる料理。正比例して積み上げられていく空になった皿や鉢。

けれど、食べ方は綺麗。それは、動きの端々に食事に対する思いと、食材やそれを作った人への感謝を感じられるからだろう。

しかし、レーエンさん。ご主人のエルグさんは兎も角、貴女のその細っこい体のどこに、それだけの食べ物が入るんですかっ!?




大学生の頃、バイト先の先輩とお昼がかち合ったことがあった。混んでいた訳じゃないけど、顔見知り同士、なんとなく相席して一緒に食事を取ったときの衝撃に似ている。

それまで女子校育ちだった上、男兄弟にも縁が無く、兄貴代わりの幼馴染なんて、一緒に食事をする機会なんか無かったし、父も自宅に部下や友人を連れてくるタイプではなかったので、あまり男性の食事風景を見ることが無かったからだ。


瞬く間に(あくまで印象としてだけど)消えていく料理。ゆうに自分の三倍は食べる相手に呆気に取られた記憶がある。

あまつさえ「それ、食べないのか?」と人の皿の上に乗っていたから揚げを、ひょいとつまんで口にされた。

余談だけど、それがきっかけで付き合いだした。1年半くらい。向こうが就職して、会えない時間が増えていき、自然消滅した。彼の後輩で、同じバイト先の知人がずっと後で、彼女が出来たって事を教えてくれた。

心配してくれた彼女に「仕方ないよ」と笑って見せた。思ったよりショックじゃない自分に呆れたと同時に、やっぱりきちんと「キリ」はつけなきゃ、後味が良くないと思い知ったのもこの時だった。




今となっちゃ、いい思い出だわね。






ロウエンから王都まで人の足で10日くらい。泊まる宿はお二人が定宿とされているところ。安くて美味しいご飯が食べられるそうだ。主要街道だから、整備がしっかりされているとの事だが、賊が出ないわけではない。


そして今日、初めて二人の「戦い方」を見た。


まぁ、お約束通りの盗賊さん?…「さん」を付けるのも我ながらどうよ?と思いはしたけど。

エルグさんを警戒してか、やたら頭数は多い。何人かが、私とレーエンさんを見て意味ありげな笑いを浮かべている。

何を考えているか凡そ見当は付いたけど。

数メートル離れた距離で頭数に物を言わせてゆっくりと包囲してきた。ブランは私の肩に乗り、シュルツが足元で威嚇の唸り声を上げる。


と、私とレーエンさんの前にエルグさんが一歩進み出た、同時に無詠唱で起きたのは風による防御の渦。低い竜巻のような風の輪の中心に私達がいる。風の勢いに押されて数人が転んだ。

「ちっ!やっちまえ!」

頭目と思われる男の声と同時に相手が動く。それより早く、レーエンさんが飛んだ。あっという間に、賊の一人の腕が落ちる。いつの間にか、彼女の腕にはさっきまでエルグさんの背中にあった大剣が握られていた。

「なっ!」

彼女が飛び出したと同時に、エルグさんが私を後ろに庇ったまま、軽く地面を足で叩いた。


<地の防御結界か…しかも、対物理攻撃だと?>

ブランの半ば驚き半ば呆れた「声」が聞こえた。

【先程の風の結界も、威力が半分以下に抑えられていた。恐らくは賊への威嚇と、足止めであろう。本気ならば風を受けたものの殆どが無傷では住むまい】

風の力を有するシュルツには相手の力の出し加減ですら解るらしい。



そうしている間にも、レーエンさんの剣は賊を倒していく。命までは取らない…でも、あれはいっその事一思いに倒してあげたほうが相手のためかもしれない、などと不謹慎にも思ってしまった。

彼女が狙うのは利き腕か、足。完全に切り落としてしまうものもあれば、どうするのか腱の部分を切っていたりもする。動きだけを見れば綺麗だと思ってしまった。舞うように彼女は動く。酷く楽しげに。


「落ち着いているのだな」

ふいに声が聞こえ顔を上げると、エルグさんの視線とぶつかった。…っていうか、旅を初めて三日目。初めて声を聞きましたよ!

「護っていただいている以上、目を逸らすのは失礼に当たります。…例え、それがどのような姿でも」

それが礼儀だ。平和な日本なら兎も角、日常茶飯事とまではいかなくても、これから何度でも目にするだろう。



慣れるべきではない。しかし、自分だけ目を閉じ耳を塞ぐわけにはいかない。


その動作が、この先一人になった時自分自身を危機に晒すことに成りかねないから。



「若いのにたいしたものだ」

お礼を言うのも場違いな気がして曖昧に笑ってみせる。本当に便利だよな、日本人的この笑い方。

本音を言えば目を塞いでしまいたい。スプラッタ映画は好きじゃない。いくらエルグさんが気を利かせて、魔法で血の臭いとか防いでくれても、生々しさは隠し切れない。

吐かずに居る自分を褒めてやりたい。悪夢には魘されそうだけど。



「いい加減、止めなくてはいかんな。これ以上やると後であいつは酷く落ち込む」

狂戦士…ふといそんな言葉が頭に浮かんだ。賊の大半は既に戦意どころか動くことすら出来ないで居る。

私達を結界の中に残したまま、エルグさんが動いた。見ると風魔法を操り、レーエンさんの動きを封じ込めていく。


<呆れた男だ。無詠唱なのも規格はずれだが、その上二種類の魔法を同時に使うとは…知らぬものが見たら魔族と誤解されるぞ>

【あの容姿でか?】

言葉に詰まったブランだったが、今度は別の意味で黙り込んだ。




あーえー…えと、12禁?あ、いやぁ、アレは十五禁くらいいくかも。

振り上げられた利き腕を易々と封じ、その後頭部に手をやり引き寄せ…ご夫婦だからね、別に良いんだけど。殺伐としたこの風景には…似合わない光景です。はい。







あー、ごちそうさまでした、まる。



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