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せっかくだからご挨拶しようと、渋るブランとシュルツを連れて、グランドの領事館に来ると、丁度視察が終わってフランドル公が戻っていらっしゃるとの事。最初は渋っていた門番の人だったが、腕輪を見せた途端、態度が豹変した。…一体どんな魔法をかけたんだ?公。



満面の笑顔で出迎えてくださった公は、お茶を出しに来たメイドさんを下がらせると、部屋に結界を張った。気が付くと本来の姿に戻った、ブランとシュルツが私の両側に座っている。

「久しぶりですね、シュルツ。それにブランも元気そうで何よりです」

「どうして、てめーがこんな時期にこの国にいるんだよ」

…あー、一応隣国のお偉いさんなんだから、言葉使い改めようね。

「構わぬよ、リーリア。彼はフランドルに対していつもこのようなものだ」

そうですか、はい。相変わらず表層意識を読んで答えるのは辞めてください。名前で呼ばれるなんて初めてだわね。まぁ、「お袋さま」とか「ご母堂」なんていえないわよね。



茶を口にする。…色と香りで「おや?」と思ったけど、これ、緑茶?


「如何です?リーリィ。わが国特産の『リョクチャ』です。変わっているでしょう」

「あ、はい。美味しいです」

いい茶葉を使っていらっしゃる。出す温度も丁度いい…けど、ティーカップですか。あはははは。

「よろしければお帰りになるときに差し上げますよ?」

「嬉しいです。ありがとうございます」

これは本音。まさか、この世界でお茶を飲めるとは思わなかった。…日本人よね、我ながら。


「なに、物でリーリアを懐柔しているんだよ?てか、何だよ、そのリーリィって」

「可愛らしいでしょう?」

にこにこにこと笑う公に、良い様に遊ばれているわね、ブラン。シュルツは達観したように黙ってそれを見ている。




「シュルツ、一つ聞いてもいいかな?君達は、何故それほどに彼女に執着する?」

「面白いから、だろうな」


え?はい?はいー?


「見ていて飽きぬ。考え方も独特で面白い。そうは思わぬか?カースティア」

「……確かに。公の場所で私を大笑いさせたものなど今まで居なかったからね」

そこですか?そこなんですか?

「だろ?おもしれーよな。考えていること丸解りなのに、次に何が飛び出すか、何をしでかすか、わっからねぇ」


…こいつら、人が黙って聞いていれば。



「ほう」

我ながら底辺を這う声とはこういうものだと感じる。声は違うが、旦那に対して本気で怒ったときの声音と一緒のモノ。

「皆様、ワタクシのことを、そんな風に思っていらっしゃったと?」

はっと、三人の視線があつまる。特に、ブランとシュルツは私が懐から取り出した「音叉」を見て顔色を変えた。

「おふ…リーリア、悪い!悪かった!今のは冗談だって」

「もちろんです、我が貴女をそのように思っているなど…!」

「リーリィ?それは何だね?」

事情を知らないフランドル公が、それを見て不思議そうに首を傾げる。

「ばっ、馬鹿野郎!」

「…ほう、『馬鹿』ですか?」

「いや!違う!今のはフランドルに言った台詞で…って、おぃ」

軽く音叉をテーブルで叩く。唯一の魔法は、微弱な私の魔力でも扱えるように、別の工夫がされていた。


唯一ゆえに、最凶をミルドレンから。最強をレギオンから。…普通逆だと思うけど。


ぴきり、という音と共に、あっけなく結界は消え去り、ブランとシュルツは吹っ飛ばされた。そこに新たに現れた『魔族』によって。

「ヴィダ…」

「戻れ」

ぱちん、と指を鳴らせば、ブランとシュルツの姿が消える。ものすごい音に慌てた人の気配が近づいてくるが、彼は息を吸うのと同じ動作で結界を張りなおし「大事無い。下がれ」とフランドル公の声色で領事館の人たちを下がらせた。


「初めから我を選べば良かったものを」

「それだと被害が大きくなりますでしょう?」

あの二人は、本来の主の前に強制送還。…理由を聞かされこってり絞られる事でしょう。


「リーリィ…彼は…まさか」

「見えるのは初めてか。フランドル。我が、この娘の本来の守護者、あの二人を使わしたものだ」


ヴィダ。ヴィヴィディダ。創造はじまりの時より存在する、最強で最凶の魔族。レンの腹心であり、レギオンの片腕…なんで、こんな設定のまままかり通って存在しているんだろう、こいつ。

古いキャラだから、愛着は深いけどね。


しかし、間違っては居ませんけどね。本当の事は言えませんし、ヴィダが私の守護者っていうのも嘘じゃない。だけどまさか、最強で最凶の魔族を引き連れて歩くわけにはいかないでしょう?だから、初めにレンに言われたとき、丁重にお断り申し上げたら、折衷案としてレギオンが持ち出したのが、この『音叉』で彼を呼び出す方法。叩き方をいつもと逆にすれば、それが呼び出しの音となる。


ちなみに、近くに叩くものが無ければ指で弾くのも可、だ。私以外には鳴らせないような仕組みにもなっている。


「心せよ、フランドル。この娘には我が付く」

そういい残すと、彼は現れたときとは真逆に音もなく消えていった。

どさり、と音を立てて公がソファに沈み込む。すみませんねぇ、お騒がせして。まぁ、お陰様で溜飲は下がりましたが。

にっこりと笑顔を見せれば、大きく息を吐いたフランドル公は、気分を落ち着かせるためか、いい加減冷め切ったお茶を一息で飲み干した。

「勉強させてもらったよ。キミを本気で怒らせてはいけない、とね」

流石というべきか、訊きたい事は山ほどあるだろうが、それを全て呑み込んで彼が言ったのはその一言だけだった。


いえ、私とてそうそう呼び出しませんよ…色々面倒ですもん。




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