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ようやく戻ってこれましたよ。
あの後何事も無く。…あったとしても、私が知らないだけかもしれない。エイダの話じゃ、廊下側と窓の下に警備の騎士さんが立っていてくれたらしいから。
それが、副隊長さんの指示か、フランドル公のお陰かは解らないけど、無事宿に到着です。
女将さんやご主人が笑顔で迎えてくれました。あーほっとする。
でも、あんなおっさんが居る以上、そろそろ去り時かしらねぇ。二人の相談すると、すぐに賛同される。
<俺達と一緒なら心配ないと思うけど、別の厄介ごとが起きそうだしな>
【確かに。原因の一端にフランドルがあるなら、あやつに同行して、グランドに向う手もあろう】
うーん。でも昨日来たばかり、ということは何か別目的があっての事だろうし。ロウエンにある大使館、というか領事館みたいな所にいらっしゃるから、そこにお世話になるのもなぁ…身の置き場としてはこの上ない安全な場所だろうケド、気詰まりだし。
それに…。
「シェロンの王都っていうのを視てみたいんだよね。玄関口でこれだけしっかりしているなら、王都も一見の価値があると思うのよ」
<シェロンの王都。悪くはないな。ここほどではないけどさ>
おや?とブランをみると、耳を少し伏せている。この姿で、困ったときに彼が良く見せる姿だ。
<大きな街だから、ここほど目が行き届いていないっていうか、当然「影」の部分もあるってことさ。まぁ、この大陸のなかじゃ治安はいいほうだから、次の目的地としてはいいと思うぜ?>
最初に一番安全な場所に来たからね。仕方ないといえば仕方ないかな?なんといっても、元居た場所が、治安国家日本。世界でも有数な「安全な」国だったもんね。それでも、裏に回れば色々あったけどさ。
【しかし、その男が中央よりの人物であれば却って危ないのではないか?】
シュルツの懸念ももっともだ。あ、そうだ。
「仕事しなきゃいいのよ。休暇って事にして。そうしたら、気付かれずに済むじゃん?私としては『王都』を見たいだけだし」
観光しましょう、観光。
<ほんと、ふざけはた性格。でも、まぁ、一理あるな>
【左様。ところでブラン、王都に『ツテ』は?】
<あるぜ?レギオンさまもご存知の魔族が一人住んでいる>
【ああ、アレか。我の『ツテ』と同じだな】
…だから、過保護が過ぎるんだけど。あ、そうだ。
「報酬を受け取りにギルドに行ってくる。ついでに護衛雇ってくるわ」
<お袋さま!?>【ご母堂!?】
「こっちのやり方も学ばなきゃいけないのよ?貴方たちが居る間に、ね」
私の言葉に黙ってしまった二人。思わず勝った!と内心ガッツポーズ。
呆れたような溜息が返って来る。そういえば、表層意識読めるんだっけ。あはは。
<俺達も行く。相手を見定めてから決める。いいよな?>
…拒否権はありそうにないですね。なんだか、こんな展開ばっかり。
ギルドに行って、紹介された護衛は一組のご夫婦だった。丁度彼らも王都に用があっていくので、通常より割り引いてもらえるとの事。それはいいけど…いや、しかし。
「よろしくね。噂は聞いているわ。旅の間に歌を歌ってくれると嬉しい」
そういう奥様は、年はリーリアより7つ上の23歳、だそうだけど見えない…せいぜい変わらないか、下に見える。しかも、すっごく華奢で折れそうなくらいの肢体の持ち主。
それに反比例するかのようにご主人は…一言で言えば「熊さん」。縦にも横にも大きい。そして、奥様と同い年だそうだ。
ごめんなさい、奥様と別の意味で見えません。ええ、旦那と同じくらいに見えました。親子だといわれても少しも疑いません。
ちなみに、家の旦那(と、いって良いのか疑問だけど)は、最近50の大台を超えたところだけど、わりと若く見られがちで、40前と思われているらしい。実年齢を言えば「本当ですか?」と結構な確立で尋ねられていた。
私?20を超えた女性に年齢を聞いちゃいけません。とりあえず、今は16ってね。
それよりももっと驚いたのは、こんな華奢な奥様が剣士で、旦那様が魔法使いだってこと。しかも、この奥様、自分の身長ほどの大剣を易々と操るそうな。普段はご主人が背負っているので、外見的には彼が剣士に見えるけど。
二人ともランクは特A。冒険者のクラス分けは、こなした依頼の数と難易度によって、特S、SS、S、特A以下同様のパターンでFクラスまである。初心者はこのFから始めるのだけど、それを考えると凄い人たちだ。
しかし、こんな人たちが都合よく王都に行くタイミングで現れるなんて、…まさか、あの馬鹿息子たち、ご都合主義のスキルをカミサマ権限で発動させたんじゃないでしょうね?確かに人間への干渉はできないようになっているけど、それではカミサマとしての存在意義に関わるから、抜け道はいくつか用意してあったりする。「ご都合主義」もその一つだけど。
ちらり、とブラン達を横目で見ると、二人とも視線を逸らす…やっぱりか。
「え~と、あの、問題あり?使い魔なら、私達動物好きだから大丈夫だよ?」
心配そうに声を掛けてくれる奥様。レーエンさんとおっしゃるのだけど、彼女にいいえ、と首を振った。
「こんな高いランクのお二人に、本当にこんな金額で良いのかと…申し訳なくて」
「そんなこと!」と、レーエンさんは目一杯の笑顔で応えてくれた。
「丁度王都に戻るタイミングで依頼の話を聞いたから問題ないわよ。どっちにしても行く事になっているから、こっちこそ宿代や食事代を出してもらうだけでも充分だわ。でも、そっちこそ良いのかしら?言っちゃあなんだけど、食費かさむわよ、私もカレも食べるから」
あー。それは聞いています。冒険者ギルドの担当者さんが事前に説明してくれました。ええ、確かに、かかる費用はAランク一人雇うのと変わりません。でも、ご夫婦っていうのがポイントです。…でなきゃ、過保護二人が許してくれませんし、なによりスキル発動してまで動いてくれる孝行息子に悪いですから。
「よろしくお願いします。それじゃあ、明日の朝」
「ええ、貴女の宿まで迎えに行くわ、よろしくね」
にっこり笑顔で握手して、ギルドの契約書にサインして。
契約終了。