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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第五章

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帝国へ向かう道

 ドラグ・ドミナ帝国。

 その国名を聞いただけで、背中に冷たいものが走る国だ。

 『支配の道』を司り、貴族、そして霊触者(レグナス)を頂点とした階層社会。

 弱者は服従し、強者は絶対。そんな価値観が法律よりも重い国。

 僕らは、その国へ向かって歩いていた。

 整備された街道を歩き、僕は言う。


「……なんか、景色が一変したなあ」


 ミルフェリアを出た途端、湖上の湿った空気は嘘みたいに消え、乾いた風に変わっていった。

 支配の国へ続く街道は、やっぱり空気が違う。

 草原は広いけど、どこか殺伐としていて、あちこちに焼け焦げた魔獣の骸が転がっている。

 整然としているくせに、物言わぬ力が支配しているようで息が詰まる。


「うぅ……なんかさ、空気がピリピリしてない?」


 フレイアが眉をひそめる。

 僕も同じことを感じ、フレイアを見て首を振って言う。


「湖上国とは全然違う感じだよね」

「その通りです。湖上国ミルフェリアでは、水の精霊力が多く、土地を潤していましたが……領域内から出ると、そこはもう水の加護がない土地です」


 フィオナが頷き、その場にしゃがみ込んで地面に触れる。


「乾いた土地……私は『巫女』という立場上、国から出ることがありませんでした。なので……水の加護のない大地が、こうも乾いているなんて……」

「フィオナ。この旅……ただ自分の目的だけを達するのではない。自分が知らないことを見て、学ぶことも同じくらい大事だと自分は思う」

「……ええ、そうですね」

 

 ギデオン、フィオナが互いを見て頷いていた。

 そんな様子を見て、フレイアが僕とリアにコソッと言う。


「ねえねえ……なんかさ、ギデオンとフィオナって距離近くない? なんかこう……分かり合ってるっていうかさ」

「……私もちょっと思います」

「実は僕も……まあ、二人は僕らより年上で大人だし、そういうのもあるんじゃないか?」


 まあ、僕も大学では二十三歳だったけど……今は十六歳だ。

 すると、ギデオンが言う。


「三人とも、コソコソしてどうした?」

「「「え、いや」」」

「ふふ……何かありましたか?」

「「「えと……別に」」」


 思わず三人の声が揃ってしまい、逆に不自然になるのだった。

 そんな会話をしながらも、僕たちの歩みは止まらない。

 しかし、国が変わると、旅の雰囲気も変わるものだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、ドグラ・ドミナ帝国までけっこうな距離がある。

 しばらくは野営をしながらの旅になる。

 夕方が近くなり、川沿いの小さな林で野営をすることになった。

 僕とリアで竈の用意、ギデオンとフィオナはテントの用意、フレイアは「イノシシ見つけた!!」と走って行ってしまった。

 そして、フレイアが大きなイノシシを担いで戻って来た。血抜きをして、内臓もすでに取り除かれている……さすが、いい手際だ。

 すると、イノシシを見たフィオナがゴクリと喉を鳴らす。


「……美味しそうですね」


 フィオナが呟いた。

 その瞬間だ。彼女のお腹が――ぐうぅぅぅぅ……と小さく鳴った。

 僕ら全員がフィオナを見ると、フィオナは顔を真っ赤にして俯いた。


「……えと、じゃあ、調理しようか」


 僕は笑いをこらえる。

 フレイアが爆笑し、リアも笑いをこらえていた。

 ギデオンはウンウン頷き、笑顔でナイフを取り出す。


「では、調理に取り掛かろう。ユウト、解体を手伝ってくれ」

「あ、はい」

「あたし、水浴びしていい? 血抜きとか内臓取りで汗かいた~……リアも行こ」

「いいですよ。フィオナさんは……」

「こほん。私は、解体を手伝います。水で洗浄などもできるので」


 こうして、それぞれの作業を開始した。

 肉を解体し、フィオナが洗浄し、僕は野菜などカットしてスープを作る。

 肉を塩コショウで焼くと、いい香りがした。

 リア、フレイアも戻り、いい音で焼ける肉を見て笑みを浮かべる。

 そして、食事が完成……焼いたイノシシ肉、野菜スープ、近くに成っていたオレンジみたいな果実だ。

 さっそく肉を食べる。


「うまっ、塩コショウ利いてて絶品!!」


 かなりジューシーな肉だった。

 イノシシ肉かと思ったけど、イノシシっぽい魔獣肉だ。鳥肉みたいにほぐれるのに、肉厚が合ってとてもジューシーだ。これはかなりうまい!!

 みんな、美味しそうに食べていた……が。


「……美味しい。うん、絶品ですね」


 フィオナが、一人で四人前くらいの肉を食べていた。

 骨付き肉みたいにしたんだが……しかも、一人一キロくらいの大きさ。十キロ以上あった肉が、あっという間に半分以下になっていた。

 僕らが唖然としていると、フィオナが視線に気づく。

 そして、自分の足元に転がる骨を見て顔を真っ赤にした。


「あ、えと、その……わ、私、けっこう食べる方なので、その」

「すごいな。自分の三倍は食べているぞ」

「……あぅ」

「あはは!! いいじゃん、もっと食べたら?」

「フィオナさん、食べられるって良いことですよ。旅は体力ですから」


 するとフレイア。ニヤリと笑い、人差し指でフィオナの胸をつついた。


「なるほどねぇ。食べた肉はこっちにくっつくみたいねぇ。リア、羨ましい?」

「な、なんで私に言うんですか!!」

「ふ、フレイア様、その、恥ずかしいので……」


 普段は割と冷静なのに、こういうところが年相応で可愛い……僕とギデオンは笑っていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 食後の自由時間。

 リアは膝の上に開いた分厚いノートにペンを走らせていた。

 旅の記録――リアがずっと付け続けているものだ。

 僕はそっとリアに近づいて言う。


「リア、また書いてるんだ?」

「はい。少し整理しておかないと、後からわからなくなりますから。最近は特に情報量が増えましたし……」


 ページを覗き込むと、びっしり書き込まれている。

 図もあるし、地図もあるし、『濁環』との戦いのメモまであった。


「リアって、すごいな……」

「いえ、私はただ……怖いんだと思います」

「怖い?」

「はい。何も知らずに進んで、突然大切な人を失う――そんなの、嫌なんです」


 そう言うリアの横顔は強くて、それでいてとても優しかった。

 僕は苦笑して言う。


「僕ら、ずっとまっすぐに進んできたもんなぁ。君が全部まとめてくれて、正直助かってるよ」

「そ、そんな……ユウトに褒められるなんて……ふ、不意打ちです……」


 リアは急に視線をそらし、耳まで赤くなった。

 こういうところが照れ屋なんだよな、彼女は。

 

「こほん。とにかく、『知恵』の私が、これからも旅の記録をしますので。ユウトはまっすぐ、自分の思う道を進んでくださいね」

「うん、わかった。ありがとう、リア」


 笑顔でお礼を言うと、リアは顔を背けるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日、街道を進んでいると、いきなりフレイアが止まった。


「――来る!!」


 フレイアの警告と同時に、草むらが激しく揺れた。

 黒毛の魔獣――四足の狼型だ。

 しかも、一匹二匹じゃない。けっこうな数がいる。


「囲まれた……!!」


 僕はハルバードを具現化。他のみんなも精霊導器を手にする。

 けれどフレイアがスッと前に出る。


「任せて。ちょっと試したい……あの刻印、どれくらい使えるのか試したかったんだよねぇ」


 僕は息を呑む。

 フレイアの左腕に刻まれた刺青。

 灼壊導師ローレライ=ヴェルイーナの『灼炎』が、赤く輝き始めた。

 僕は嫌な予感がした。リアも止めようとしたが、その前に言われる。


「大丈夫。クソ忌々しいけど……この力、普通に言うこと聞くし使えるのよ。ほんと……ムカつく!!」


 炎が踊るように生まれ、フレイアの周囲に広がる。

 通常の炎よりずっと、ずっと熱い。熱風が僕の頬を刺すほどだ。


「第二術式発動、『灼炎』」


 フレイアが指先を弾く。

 瞬間――草原が閃光に包まれ、突撃してきた魔獣が三体まとめて焼き尽くされた。

 燃え上がる炎は、ローレライのそれに似ている。

 だけど以前フレイアが出していた炎よりもはるかに鋭く、熱量があった。


「くっそ……なんでうまく使えるのよ」


 フレイアは忌々しそうに、自分の胸に刻まれた刺青をひっかく。


「まあ、使えるなら使うわ。他にもできそうなことあるしね……」


 ローレライ=ヴェルイーナ。彼女が言っていた血筋……フレイアはやっぱり、あの灼壊導師に連なる者なんだな。

 リアは言う。


「フレイアさん……一応は気を付けてください。その刻印、まだ詳細が判明していませんから」

「わかってるよ、フィオナ……でもね、使えるなら使う。力になるなら使う。それが『破壊』の本質でもあるからさ」


 フレイアは笑った。

 その笑顔には、炎みたいな強さが宿っていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 魔獣を倒してから数日……湖上国ミルフェリアからドグラ・ドミナ帝国までの道を進んだ。

 そして、魔獣に遭遇して戦ったり、雨の中キャンプしたり、食べ物がなくなって魔獣狩りをしたりと、なかなか過酷な道を進み……ようやく見えてきた。

 丘を越えた先に、巨大な黒色の石造りの門が現れた。


「うわ……あれ、全部黒い石?」


 フレイアが驚く。

 リアは、腰に下げた辞典を開いて確認する。


「黒竜石……の、門ですね。この国で採掘される、最も硬い鉱石です」


 そして、街道を進み正門前に到着。

 フィオナが息を呑んだ。


「……壮観ですね」


 門の柱には巨大な竜のレリーフ。

 そしてその上には――竜の頭蓋骨を模した王の紋章。

 圧倒的な力の象徴だ。


「ここが……ドラグ・ドミナ帝国」


 僕は喉を鳴らした。

 不安が胸に広がる。でも同時に、僕たちは進まないといけない。

 フレイアが、僕の肩を軽く叩いた。


「ユウト。大丈夫だよ。怖いなら、アタシが全部燃やしてあげるから」

「いや燃やすのは勘弁して……」


 僕が言うと、フレイアは楽しそうに笑った。

 リアは苦笑しつつノートを辞典を閉じ、フィオナは小さく息を整え、ギデオンは小さく息を吐いた。

 みんなの気配が、僕の背中を押す。


「よし……行こう」


 僕たちは歩き始めた……帝国の門へ続く道を。

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