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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第四章

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次の目的地へ

 僕らは『青環会』の神殿を出た。

 もうフィオナは聖女ではない。それに、青環会にはやることが山積みだ。

 汚染がなぜ消えたのか、これから再び始まる可能性はないのか。

 なぜ『濁環』の幹部が突然消えたのか。導師ディスの目的は何だったのか。


 さらに、中央濾過塔の復旧もある。

 女王陛下も僕に対しては、あまり興味を示さなかった。

 いや、あれは……気まずさからかもしれないけれど。

 ともかく、この国で聞けることはもうない。


 協調の国、湖上国ミルフェリア。

 『濁環』という組織は表層に顔を出していたが、それ以外では平和そのものだ。

 内部争いもなく、水を尊び、精霊を敬い、静かで、穏やかだった。


 ……でも、この国の強さを僕は知った。

 水の力が、ただ優しいだけじゃないことも。

 神殿を離れ、湖を囲う街路を歩きながら、僕は仲間たちに問いかけた。


「さて……これから、どうする?」

「決まってます」


 フレイアが言う。


「ローレライ=ヴェルイーナ、ディス=ヴォルテクスを追う」

「だね。あんなヤバい奴、野放しとかありえないし。あたし、今度こそローレライ=ヴェルイーナをブッ倒す……いい目標できたわ」


 フレイアも腕を組む。


「自分は、ディス=ヴォルテクス……奴を必ず討つ。これは……妹のためでもある」


 ギデオンが静かに頷いた。

 そして、最後にフィオナへ視線が集まった。

 昨日までとは違い、彼女はもう青環会の『聖女』ではない。けれど、その姿勢は少しも揺らいでいなかった。


「……私も参ります。あの雷過導師ディス――彼を、このまま放置してはなりません」


 言葉こそ静かだが、その奥は熱い。

 決意というより、覚悟……いや、『恐怖の先にある勇気』みたいなものが漂っていた。

 僕は頷き、歩く速度を少し落として言った。


「となると……問題は次の目的地なんだけど」

「ユウトは何か心当たりがあるの?」


 フレイアが覗き込んでくる。


「うん。昨日、地図を少し見せてもらったんだけど……ミルフェリアから一番近い国がある」


 僕は言った。


「――ドラグ・ドミナ帝国。『支配の道』を司る国だ」


 足が、みんな同時に止まった。


「うわあ……あそこか」


 フレイアの顔が明らかに嫌そうになる。


「……最悪の国だな」


 ギデオンも渋い顔だ。


「支配の国……」


 フィオナが呟くように言った。

 僕は説明を続けた。


「国の理念は 『支配こそ秩序の完成』……弱者は従うべき存在、だってさ」

「性格悪すぎ~!!」


 フレイアが声を上げる。

 リアが眼鏡をクイッと上げて言う。


「『支配の国』は完全な貴族制度。中でも、竜騎士爵という貴族が実権を握ってて、奴隷制が合法です」


 リアは、次の言葉を言いにくそうに言う。


「それと……他国の魂の道を『下位の道』と見下しています」

「ムカつくわねー」


 フレイアが「けっ」と女の子にあるまじき声で吐き捨てた。

 ギデオンの声が低くなる。


「だが、ユウトの旅路で避けては通れんだろう。『孤独の道』を深めるのだろう?」

「うん。行ける国は全部見たい」


 僕らが歩く湖上の路地に、乾いた風が吹き抜けた。

 ミルフェリアの涼しい湿気を含んだ風とは違う。

 ドラグ・ドミナへ行けば、こんな穏やかな空気はもう感じられないのかもしれない。


「そっちにディス=ヴォルテクスやローレライ=ヴェルイーナがいるかわからないけど……行けるなら、まずはそっちに行きたい」


 僕の言葉に、仲間たちは黙った。

 手掛かりはない。だけど、そこに行かなきゃ何も進まない。


「……そうですね。手掛かりがないのなら、前に進むしかありません」


 リアが小さく呟く。

 その言葉に、全員が頷いた。


「行こう」


 僕は言い切った。


「前に進めばきっと、出会う時がやってくる。その時は全力で戦えばいい。もっともっと、僕らも強くならないと……フィオナ、これから頼りにさせてもらうよ」


 フィオナは驚いたように僕を見た。

 でも、すぐに小さく微笑む。


「……はい。私も、皆さまと一緒に参ります」

「ま、決まったね! ヤバそうだけど!」


 フレイアが笑う。

 リアも頷く。


「そうと決まれば、準備をしないといけませんね。町で旅の買い出しをして、支配の国へ向かうルートを確認しないと」


 そうやって、少しだけ場の空気が和んだ。

 僕はふと背後を振り返った。

 水の向こう、湖面に浮かぶ白い神殿。

 昨日まで聖女としてそこに立っていたフィオナは、静かにその光景を見つめていた。


「……大丈夫?」


 僕が声をかけると、フィオナは目を閉じ、深く息を吸った。


「ええ……ただ、見ていただけです。でも――私はもう、後ろを向きません」


 その横顔は、昨日よりもすこし強く見えた。

 気のせいじゃないと思う。

 すると、ギデオンが言う。


「フィオナ、辛ければ言ってくれ。自分は……」


 フィオナはふっと笑った。


「はい。ギデオンさんには……きっと言ってしまいますね」


 ……まただ。

 二人の距離が、昨日よりほんの少し近づいている。

 僕はわざと前を向き、歩く速度を少し上げた。

 盗み聞きするより、この距離感のほうがまだ安全だ。


「次は、『支配の道』か……」


 僕は、歩きながらこれまで歩んだ道について考える。

 知恵、破壊、守護、協調。

 七つの道の内、四つの道、そして国を見た。

 残りは支配、混沌、信念……この三つを見て、僕は自分が歩む『孤独』がどんな道なのか、最後はどうなるのか、わかるのだろうか。

 

 湖上国ミルフェリアから、ドラグ・ドミナ帝国へ。

 協調の国と、支配の国。

 水の民と、竜の民。

 僕は、みんなに言う。


「次の国でも、全員で乗り越えよう。僕たちは、仲間なんだから」


 僕がそう言うと、四人は自然に歩調を合わせてくれた。


「当たり前ですわ」

「うん!」

「自分はいつでも戦える」

「……はい、ユウト様」


 その声を背に、僕らは歩く。

 支配の道――ドグラ・ドミナ帝国へ向けて。

 ここから始まる旅が、どれだけ過酷なものになるのか。

 まだ誰も知らなかった。

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