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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第四章

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盾の兄貴分

 守護の国を出発してから三日。

 僕たちは、東へと続く街道を進んでいた。目指す先は、湖上王国ミルフェリア。

 『協調』の魂が息づく国だという。穏やかで、美しい、そして他国の争いを仲裁する中立の地。


 でも、そこに辿り着くまでの道のりは、穏やかとは言いがたい。

 岩壁と茂みの入り混じる荒野。ところどころに魔獣の足跡。そして、昼夜を問わず吹き荒れる冷たい風。

 そんな過酷な旅路でも……僕たちは、不思議と安心して進めていた。

 理由は、ただ一つ。


「リア、フレイア。右前方、動いた。距離三十、魔獣の迎撃用意!! ユウト、リアと共にフレイアの援護を!!」

「はい!!」

「よっしゃ、前衛おまかせっ!!」

「わかった!!」


 前を行くギデオンさんが、低く、的確に声を出す。

 その一言で僕たちは一斉に構えた。


「おっしゃ、叩き潰す!!」と、フレイアが叫び。

「援護は任せてください」と、リアが弓を構える。

 僕も、風属性にチェンジ。リアの隣で弓を構えた。

 そして、ギデオンさんの指示で警戒していると。


『ジャシャァァァァァ!!』


 地面がうねり、突如として大蛇のような魔獣が飛び出す。

 土色の鱗を持つ大蛇、グランドサーペントだ。


「自分が抑える。その隙に攻撃を叩き込め!!」


 ギデオンさんは一歩前へ踏み出し、巨大な盾を構えた。

 その盾は、まるで大地そのものを切り取ったような質感をしている。

 次の瞬間、轟音とともに地獄蛇の牙がその盾を噛んだ。


「フン、我が盾を、そんな矮小な牙で嚙み砕けるとでも? ──今だ!!」

「リア!!」

「はい、ユウト!!」

「おっしゃ、あたしにお任せ!!」


 僕とリアによる矢の連射、そしてグランサーペントが怯みギデオンさんの盾から牙を離す。そこでフレイアが斧槌の槌部分で、グランサーペントの頭を叩き潰した。

 魔獣は苦鳴を上げて地に崩れ落ち消滅……『核』だけが転がった。

 僕はそれを拾い、みんなに見せて言う。


「ふう、終わりですね」


 僕が息を吐くと、ギデオンさんが盾を地に突き立てた。


「すまない、少し押されたが、被害はないな」

「うん、完璧だよ。やっぱり頼もしいね、ギデオンさん」

「……自分は、それしか能がないのでな。それと、何度も言ったが……これから旅をする仲間なんだ、ギデオンで構わない」

「いやー……なんか、ギデオンさんは年上だし、兄貴分というか……呼び捨てしづらいというか」

「私も、呼び捨ては難しいです」

「あたしは最初からギデオンだけど。ってかリア、あんたユウトは呼び捨てだけど、なんで~?」

「べ、別に意味はありません!!」

「ははは。だがまあ、呼び捨てにしてくれるとありがたい」


 彼の言葉は謙遜でも、冗談でもなかった。

 本気でそう思っている声だった。僕も、呼び捨てで頑張ってみようかな。


 ◇◇◇◇◇◇


 日が暮れるころ、僕たちは街道脇の丘に野営地を作った。

 ギデオンさ……ギデオンは、大地に手を触れて精霊力を流し、四方を囲う壁を作った。

 そして、手早く薪を組み、フレイアに火をつけてもらう。

 僕らが水汲みに行ってる間、固めた大地で椅子やテーブルなども用意していた。

 

「すっご、椅子とかテーブルとか精霊力で作れんの?」

「ああ。土の質を変化させれば、ベッドを作ることもできる。リア、フレイア、今日はあちらの部屋で寝るといい。ベッドの上に草を敷いて、その上に寝袋を置けば、硬い地面で寝るよりましなはずだ。それに強度もある。このあたりの魔獣では傷一つ付けられないだろう」

「いやー、地属性って便利ねぇ。ユウト、あんた真似できる?」

「できないよ。ギデオンさ……こほん。ギデオンが器用すぎるんだ」


 僕が言いなおすと、ギデオンは頷いて微笑んでくれた。

 リアは言う。


「ギデオンさん、お気遣いありがとうございます」

「気にしないでくれ。それと……」

「はい?」


 ギデオンはリアを呼んで耳打ち、リアは少し照れたように頷き、フレイアと二人で岩小屋へ。

 なんだろう……けっこう気になるような。

 するとギデオンが言う。


「ああ、すまない。あまり大きな声では言えないことでね」

「……えーと」

「岩小屋の隣に深い穴を掘って、四方を岩で固めた小屋を作ったんだ」

「……あ!! ああ、なるほど」


 僕も察した。

 ギデオンが作ったのはトイレだ。深い穴があるだけでもありがたい。最後は精霊力で穴を埋めるだけでいいからな。

 ギデオン、気遣いの天才でもある……うーん、僕もこんな男になりたいな。

 それからしばらくし、ギデオンの作った野菜スープを食べていると、リアが言う。


「ギデオンさん、旅慣れてるんですね」


 ギデオンは微かに笑って言う。


「騎士団にいた頃、よく辺境任務があった。サバイバルも含めて、叩き込まれたよ」

「へぇー。じゃ、料理もできたり? これ、めっちゃうまいけどさ」

「……多少はな。焦がさなければいい程度だが」


 フレイアがスープを飲み干し「おかわり!!」と叫ぶと、ギデオンがおかわりを鍋から掬う。

 僕もリアもスープをおかわり。ギデオンは苦笑しながら言う。


「任務中に食う味気ない携行食よりは、よほどマシな程度なんだが……喜んでもらえると嬉しいよ」


 焚き火の炎に照らされるギデオンの顔は、穏やかだった。

 ただ、復讐相手を、妹だった少女を追うだけじゃない。少しでもギデオンが楽しいと思えるような、そんな旅にしたいと僕は思った。


 ◇◇◇◇◇◇


 夜が更け、焚き火が小さくなったころ。

 僕は見張りの交代のために起き上がり、ギデオンの隣に座った。

 ギデオンは、静かに空を見上げていた。星々の光が彼の瞳に映っている。

 僕が隣に座っても無言だった。


「ギデオンさん、交代の時間です」

「ん? ……ああ」

「あの……聞いてもいいですか? 騎士をやめて、後悔はないんですか?」

「ある。だが……それと同じくらい、大事なこともある」


 彼は少し沈黙し、それから小さく息を吐いた。


「そうだな……少し、聞いてくれないか?」

「はい……僕でよければ」


 焚き火の火がぱち、と弾けた。


「騎士団を抜けるとき、自分には婚約者がいた。幼馴染で……騎士として出世すれば、いずれ婿入りし、爵位を継ぐ約束もあった」

「……」

「だが、出発前に婚約破棄されたよ。理由は『騎士団をやめるなんて許せない』と言われてね……妹のことは彼女も知っていたはずなんだが、その妹が生きてる可能性があって、今は敵となった……なんて、信じてもらえなくてね」

「……でも」

「構わないさ。それに、彼女には自分よりもいい縁談がいくつも来ていた。自分がいなくてもすぐ、新しい相手を見つけるだろう……」


 彼の声は淡々としていた。

 けれど、胸の奥に沈む痛みが、はっきりと伝わってきた。

 

「ギデオンさん……」

「すまないな、暗い話を聞かせて。それと……聞いてくれて、感謝する」


 ギデオンはゆっくり立ち上がり、焚き火に薪をくべた。

 その仕草がどこか寂しげで、でも、揺るぎなく強かった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌朝。

 朝霧の中、四人で街道を進む。

 遠くには、白い光を反射する大きな湖……『ミルフェリア聖湖』が見え始めていた。


「見て、湖!!」


 フレイアが指を伸ばす。


「ミルフェリア聖湖。湖上国ミルフェリアの象徴とも呼べる、『水』の精霊力で満たされた聖なる湖です。その水面は鏡のように光を反射することから『鏡水』と呼ばれています。ここから少し距離がありますが……『鏡の丘』と呼ばれる場所から湖上国ミルフェリアを眺めると、湖に浮かぶ白大理石の建築群が光を反射し、遠くから見るとまるで『空の都』のように見えることから、『天鏡の王国』とも呼ばれているんです……久しぶりに見てみたいですね」


 リアがうんちくを語り、ギデオンが静かに頷いた。


「『協調の道』を歩む国か……この目で見るのは初めてだ」


 僕は、彼の横顔を見た。

 どこか穏やかで、それでいて新しい何かを見つめているような目だった。

 きっと彼にとっても、この旅は新しい始まりなんだ。

 過去に囚われた盾が、再び前を向くための――そんな旅路。

 

「ユウト。『鏡の丘』には、『水の精霊神像』があります。先に行ってみますか?」

「うん、そうしよう。水の精霊力か……どんな力なのかな」

「新しい精霊力を手に入れる、か……ユウトと旅をしなければ、まず見ることのできない光景だな」

「お~い!! そこの三人、はやくはやくー!!」


 僕らは先に行ったフレイアを追い、歩き出すのだった。

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