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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第一章

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学術都市国家アルヴ・ノア

 森を抜けると、すぐに村が見えた。

 なんてことのない農村だ。川が流れ、人が田畑を耕し、汗を流している。

 すると、リアと似たような学者風の男女が数名、こちらに向かって来た。


「副主任、お疲れ様です。お怪我は……ありませんね」

「ええ。私に問題はありません。ですが、面白い問題が発生しました」

「面白い問題、ですか?」


 と、リアと……研究員か? が、僕に視線を向ける。


「彼と神像の前で出会いました。彼は……漂魂者(メイリオン)である可能性が高い。風霊学術院に連れ帰り、研究したいと思います」

「「「な、なんと……!!」」」


 研究? さすがにこれは言わせてもらう。


「リア。僕はモルモットになるつもりはないよ。非人道的な薬物投与や人体実験をすると言うのなら、申し訳ないが」

「勘違いなさらないでください。あなたの命を脅かすことはしないと約束しましょう。ですが、情報の見返りに協力はしていただきます」

「……わかった」


 拘束し、牢に入れられ、非道な実験……うーん、そういう可能性もあった。外見が同い年の少女だからといって、マッドサイエンティストの可能性もゼロではない。

 だが、現状、ここで情報源を失うのは痛い。それにリアはそれなりの地位にいるようだ。明らかに、大学生だった僕よりも年を重ねている仲間が、リアを『副主任』と呼んだからな。


「ではユウト、馬車へ」

「ああ、わかった。ああ、一つ聞いていいかい? リア、きみはあの森で何を?」

「……大したことじゃありません。この村に来た時、風の精霊神像に呼ばれたような気がしただけです」


 馬車に乗り込み、走り出す。

 馬車……中世にあるような、普通の馬車だ。馬が三頭で引いており、乗っているのは僕とリアだけ。

 乗る前、研究員が「ご一緒に」とか「危険です」とか言っていたが、リアは拒否していた。

 二人きりなので、質問の続きをするか。


「リア。きみは『風霊学術院』とやらに所属しているのかな?」

「ええ。学術都市国家アルヴ・ノアの、精霊力研究機関の一つ、『風霊学術院』です。私はそこの副主任」


組織の構造を聞く。

学生研究生:研究生。

補助研究員:学生研究生から選ばれる。

正研究員:主な職員。

主任研究員:正研究員を束ねる。

副主任:主任研究員の補佐 (リアの地位)。

評議員・院長:学術院を統括する上層部。


「……変わっていますね。組織形態にそこまで興味がありますか?」

「もちろん。今はどんな些細なことも知りたいさ」


 馬車は揺れる。外を見ると、緑の多い平原を走っていた。

 道は舗装されており、しっかり踏み固められている。平原だが森もあり、川も流れており、遠くには大きな山が見えた。


「いい景色だな」

「学術都市国家は、八国家の中でも自然が多い国ですから」

「八国家……国は八つあるんだな」

「ええ。それぞれの『魂の道』を歩んでいる国です」

「……じゃあ、次はその、『魂の道』について教えてくれ」

「いいでしょう。ですが、話すとキリがないので、簡潔に」

 

 ◇◇◇◇◇◇


魂の道とは、人の魂が自然に共鳴する理念・方向性のこと。


破壊:破壊の力を肯定し、混乱を受け入れる魂。

秩序:規律と法の遵守を重んじる魂。

混沌:自由と予測不能性を好む魂。

協調:平和と調和を重んじる魂。

支配:統率と権力を重視する魂。

守護:他者を守ることに使命感を持つ魂。

知恵:知識と探求を重んじる魂 (リアはこれ)。

信念:一つの想いを貫くことを重んじる魂


「哲学的だな……」

「エレメンティアでは、人はこれらの『魂の道』に従い生きています。もちろん、これらに属さない人……『無道』の人もいます」

「リアは、『知恵の道』だっけ」

「ええ。知恵の道は学術……」


 知は光、愚は闇。学びこそが魂の進化を導く。無知を恐れ、探求を続けよ。真理は魂を自由にする。


「この信条のもとに、知を探求する。これらが『知恵の道』です」

「へえ……面白いな」


 研究者であった身としてはかなり惹かれるな。正直、悪くない。


「リアは、知恵の道を歩む、風の霊触者ってことか」

「ええ。ですが、ここが風の精霊の国だからといって、この国に所属する霊触者全てが風属性というわけではありません。どの属性の精霊と共鳴するかはわからないのです」

「じゃあ、きみ以外の霊触者は違う属性なのか?」

「ええ。風霊学術院には、私以外にも霊触者が何人かいますが、違う属性の方もいます」


 ふむ……なるほどな。

 なんとなく、世界観が掴めてきたぞ。


世界は八つの大陸に分かれ、八つの魂の道に従う国家が存在する

精霊力が満ち、霊触者はそれを操り精霊導器を具現化できる

属性は八つ。炎・水・地・風・雷・光・闇・氷


「……面白いな。科学的に解析できるかも」


 とりあえず、これ以上の知識は脳をパンクさせる。

 今は、これだけでいいか。


 ◇◇◇◇◇◇


 街道を進んでいると、見えて来た……が。


「……な、なんだ、あれ」


 まず、見えたのは大きな『城』だった。 

 そして……その周囲に浮かぶ、『岩』だ。

 いや、何を言っているのかと思うけど、岩が浮かんでいた。そして、浮かんでいる岩の上に建物が見えた……いやあ、こんな光景、日本じゃ見れないぞ。


「う、浮いてる。リア……あれは何なんだ?」

「一番大きな建物が学術都市国家アルヴ・ノアで一番の精霊力研究機関、『エレメンティア精霊研究城』よ。周りに浮いてる『浮遊石』の上にあるのが、それ以外の研究機関、私の所属する『風霊学術院』は、あの浮遊石の一つにあるわ」

「……すごい」

「ちなみに、一番高く飛んでいる浮遊石にあるのは、アルヴ・ノア最高院……この国を運営するトップたちの研究機関ね」

「……情報過多だ」


 馬車は正門を抜け、国内へ。

 石畳の上を走る馬車、道行く人々、窓を開けるといい香りもする……肉やパンの焼ける匂いか。

 文明レベルは中世ヨーロッパくらいかな。街灯もあるし、下水道設備も揃っているようだ。


「とりあえず、このまま『風霊学術院』に向かいます」

「ああ、たの……」


 すると、僕のお腹がグルルル、と鳴った。

 そういえば腹が減った。喉も乾いている。

 リアは、クスっと微笑んだ。


「その前に、まずは食事ね。風霊学術院の食堂で食べましょうか」

「ああ、悪いね……」


 少し、恥ずかしいな。

 僕は町の空気を深く吸い、少しずつ新しい世界に適応しようとしていた。

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