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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第三章

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地の精霊神像

 ぼんやりとした灯りが、白い天井を照らしていた。

 湿った岩の匂いと薬草の香りが入り混じった空気の中、誰かの息遣いが聞こえる。

 ベッドの上には、ケガをしたギデオンさんが寝ている……そう、ここは騎士団の詰め所の治療室だ。

 ギデオンさんは身じろぎをした。


「ギデオンさん!! ……気がつきましたか」


 リアの声が静かに響いた。

 ベッドの上で目を開けたギデオンさんが、重そうにまぶたを持ち上げる。

 彼の体は包帯で覆われ、鎧は脇の机に外されていた。

 腕を動かそうとした瞬間、顔が苦痛に歪む。


「……ここは……自分は……」

「岩都の騎士団詰め所です。あのあと意識を失って、僕たちが運んだんです」


 僕が言うと、ギデオンさんは「……そうか」と身体を起こした。

 僕はギデオンのそばに椅子を引き寄せた。


「ずいぶん長く眠ってました。二日ほどです」


 ギデオンはかすれた声で息を吐いた。


「……二日か。……部下たちは? 自分の隊は、どうなった……?」


 その問いに、僕とリアは言葉を失う。

 彼の瞳には、焦燥と怒りが混ざっていた。


「それが……消息不明です」


 僕は慎重に言葉を選んで答える。


「救助隊が出ましたが、帰還したのはごく一部。ダンジョンの奥で何かが起きているみたいで……」

「くそ……!!」


 ギデオンさんは上体を起こそうとしたが、痛みに呻き、再びベッドに倒れ込んだ。

 包帯の隙間から、赤黒い滲みが広がる。

 リアが慌てて彼の肩を押さえた。


「無理をしないでください!!」

「寝てはいられない!! 自分の部下たちが、まだあの中に――」

「落ち着きなさいよ。ギデオン、あんた、そんな身体で出たところで、ダンジョンにも辿り着けずに魔獣の餌になるのがオチってわかんないの?」


 フレイアが言うと、ギデオンさんは歯を食いしばってうつむく。

 腕組みをしたままのフレイアは冷静に言う。


「あんたが倒れたら、誰が部下を助けに行くのよ。冷静になりなさい」


 ギデオンさんは苦しげに息を吐き、拳を握りしめる……その手は震えていた。

 こんな時に思うことではないが、フレイアが冷静で驚いた。


「……すまない」


 ギデオンさんは唇を噛み、うつむいた。

 目を閉じたその瞼の裏に、倒れた部下たちの姿がちらついているのだろう。

 やがて、詰め所の扉が開くと、重厚な鎧をまとった騎士が入ってきた。


「……ギデオン。意識が戻ったようだな」

「副団長殿……!! 申し訳ございません。すぐに部下の救出を開始します。動ける騎士を」


 そこまで言うと、重厚な騎士がギデオンさんのセリフを手で遮り、首を振った。


「……すまないが、今動ける騎士はもうほとんどいない。先ほど報告があった……南、東、西のダンジョンでも行方不明部隊が出た。今、この国のダンジョンで何かが起きている。ダンジョンの一時閉鎖の検討も始まった」

「なっ……」


 ギデオンの表情が一瞬で凍りつく。

 その声は、かすれながらも怒気を含んでいた。


「それは……部下たちを、騎士たちを、見捨てるということでしょうか……?」

「そうではない。だが、無駄に犠牲を増やすわけにもいかん。今は待機命令が――」

「待ってなんていられるか!!」


 ギデオンさんはベッドの縁を握り、全身で叫んだ。


「彼らは自分を信じて戦っていた!! 自分が戻らねば、誰が救う!!」


 その気迫に、部屋の空気が張り詰める。

 しかし、彼の体はもう動かない……無理に動けば命を落とすだろう。

 ギデオンさんにこんな激情的な一面があることに驚いた。


「……リア、フレイア」

「ええ、そうですね」

「ま、いいんじゃない?」


 僕が何を言うか理解したのだろう。リア、フレイアは頷いた。

 僕も頷き、小さく息を吸い、言葉を発した。


「――じゃあ、僕らが一緒に行きます」


 ギデオンさんがこちらを振り返る。目を見開いて驚愕していた。


「ユウト、お前……何を」

「僕たちも霊触者です。魔獣の巣に行く覚悟ぐらい、もうできています。ほかの騎士たちが動けないなら、僕たちが代わりに助けに行きます」

「馬鹿を言うな!!」


 ギデオンさんの声が響いた。


「相手は正体すら不明の存在だ。並の魔獣ではない。死ぬぞ」


 その警告を、僕は静かに受け止めた。

 けれど、心は揺るがなかった。


「死ぬかもしれない。でも……見捨てるのはもっと嫌なんです」


 僕は拳を握りしめる。


「もちろん、安全を最優先した調査です。僕らだって死にたくないし」


 ギデオンの瞳が微かに揺れた。

 リアも口を開く。


「私も、行きます。救える命があるなら、見過ごせません」

「当然、あたしも行くわ」


 フレイアが腰に手を当て、軽く笑う。


「行かない理由なんてないじゃない。行けば間違いなく戦い、『破壊の道』を歩む者にとって、強者との戦いは望むところだしね!!」


 ギデオンは拳を握り、沈黙したまま天井を仰ぐ。

 そして、ゆっくりと目を閉じ……長い呼吸のあと、小さく呟く。


「……わかった。だが、指揮は自分が執る。勝手な行動はするな」

「はい」


 僕はうなずいた。

 ――これで決まった。四人で行く。行方不明の騎士たちを、必ず連れ帰る。

 副団長を見ると、ため息をつく。


「ダンジョン調査は、霊触者の特権だ。閉鎖の話もまだ『検討』だし、止めることはできん。それに……ギデオン。お前は怪我をして治療の最中だ。私が見たのは、包帯を巻き、傷だらけの状態でベッドで休むお前の姿だけ……」


 そういい、踵を返した。

 ギデオンさんは立ち上がり、副団長に頭を下げた。


「……死ぬなよ、ギデオン」

「はい!!」


 こうして、僕らを含めた新しいダンジョン調査隊が結成された。


 ◇◇◇◇◇◇


 ギデオンさんの頼みで、ギデオンさんの家に向かった。

 壊れた装備を取替えるのと、着替えをするためだ。女性陣は家のリビングで待ち、僕はギデオンさんの私室で支度を手伝った。

 出発の準備を整える中で、僕は一つ思い出していた。

 強い痛み止めを飲み、顔をしかめているギデオンさんに聞く。


「ギデオンさん。一つ聞いていいですか? この国にある『地の精霊神像』の場所を知りたいんですけど」

「精霊神像? 中央広場にあっただろう?」

「街中のじゃなくて、野外にある場所がいいんですけど」

「あることはあるが……」

「じゃあ、ダンジョン調査の前に行ってもいいですか? やりたいことがあるんです」


 やることはもちろん、『地』の精霊力を手に入れるためだ。

 ダンジョンの調査にも役立つし、新しい精霊導器も使えるだろう。

 ギデオンさんに了解を取る。そして、ギデオンさんは自室のドアを開け、隣の部屋へ。

 そこは、鎧やメイスなどが並ぶ『武器庫』だった。


「久しぶりに使うことになるとはな……」


 ギデオンさんは、白銀色に輝く胸当てに近い鎧を装備。左腕を覆う籠手を装備し、腰当にはメイスを下げ、背中に丸盾を背負った。

 右腕は完全にフリーだ。左側を重点敵に守る軽鎧。今までの装備と違うな。

 そして、黄土色のマフラーを巻く。


「よし、準備できた」

「なんだか、今までの騎士みたいな鎧と違いますね」

「これは、プライベート用の鎧だ。今の自分は大怪我でベッドで臥せっている状態だからね。騎士ギデオンではなく、ただ一人の『守護』を歩む霊触者だ」

「……かっこいいです」

「ははは、ありがとう」


 お世辞でも嘘でもない、本音が漏れた。

 ふと、マフラーを見る。


「このマフラーは、そのままなんですね」

「ああ。亡き妹からの贈り物だからね……常に精霊力を流し、破れないよう強化を施している」


 徹底しているなあ。

 リビングに戻ると、リアとフレイアも驚いた。


「わあ、新しい装備ですね」

「かっこいいじゃん!!」

「ありがとう。では、出発しよう。今から出発すれば、二日もあれば行けるだろう。その前に、精霊神像だったな……道中にあったはずだ」


 僕らは岩都を出て、精霊神像に向け出発するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 町を出て、北に向かう途中の分かれ道を進んだ先、岩山の裂け目を抜けた先に、それはあった。

 大地を割って生えるようにそびえ立つ巨大な石像。

 ゴーレムみたいな形。全身は岩と鉱石で形作られ、手には黄色い石を持っている。

 地の精霊神像――この国の守護神だという。


「これだ。が……何をするつもりなんだ?」

「ま、見てなさい。驚くよ~?」


 フレイアがにやにやしながら言い、リアはメモの準備をする。

 僕は一歩、神像の前に進み出た。

 風、炎と手に入れ、ここでは地属性。

 精霊神像に触れると、ゴーレムの持つ石が黄色く輝いた。

 そして、大地から精霊力があふれ、僕の身体に吸収されていく。


(……すごく、温かい。これが大地の……えっ!?)


 錯覚だろうか。

 僕は、漆黒の空間にいた。

 そして、目の前には岩石……いや、違う。

 下半身がない、上半身だけの『岩の巨人』が、僕を両手でそっと抱きしめようとしていた。

 サイズが半端じゃない。百、二百メートル以上。顔の部分は空洞で黄色い光が瞬いている。

 両手の大きさが、もう表現できないくら大きい。

 間違いない、これが地の大精霊、グランドゥーラ。


『…………』

「……あ」


 その瞬間――グランドゥーラが、嬉しそうに微笑んだ気がした。

 会えてよかった。そんな風に言い、僕に精霊力を与えてくれる。


「ユウト!!」

「……うん、大丈夫」


 リアの声が聞こえるが、僕は返事だけをして動かなかった。

 体の奥で、何かが混ざり合っていく。

 地の精霊力が、僕の中に流れ込んでくるのがわかった。

 それは重く、しかし確かな安定をもたらす力――大地そのものの力だ。


「……これが、地の精霊力」

「今のは、いったい……ユウト、キミは何の『魂の道』を歩んで……?」

「……もうギデオンさんも無関係じゃありませんよね。説明します」


 僕はギデオンさんに説明した。

 『│漂魂者メイリオン』であること、そして精霊神像に触れると精霊力を大精霊から与えられること。これで三つ目の属性であり、精霊導器も使い分けることができること。


「『孤独の道』……聞いたことがない。なるほど、『│漂魂者メイリオン』とは……」

「言えなくてすみません」

「いや、いい。むしろ頼もしい。つまり、ユウトは新しい精霊力、そして精霊導器を得た、ということか」

「ええ。一応は……」


 地の精霊導器と念じると、右籠手と合体した丸盾が現れた。

 丸盾……うーん、このサイズだと自分しか守れない。


「やっぱ最初はしょぼいわね。あたしらいないともっと強くなるんでしょ?」

「多分……」

「私たちはもうユウトの仲間ですから、視界に入るだけでも弱体化するでしょうね。見たいなら、完全に撤退後に、こっそり見るとかじゃないと」

「めんどくさー」

「待て、弱体化とはどういう意味だ?」


 こうして、僕らは北のダンジョン調査をすべく、出発するのだった。

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