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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第三章

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37/70

試験後、そして

 試験当日の朝。

 岩都バスティオンの空は、曇りがちな灰色をしていた。

 石畳に湿った空気がまとわりつき、まるで空そのものが重く沈んでいるようだ。


「……いよいよだ」


 僕はペンを握り直しながら、静かに息を吐いた。

 試験会場は『ダンジョン協会』の二階、特別教室。

 広い石造りの部屋に、受験者がずらりと並んでいる……みんな霊触者なのかな。


「五百問……五時間……地獄ね……」


 隣の席ではフレイアがすでに青ざめていた。

 リアは付き添いとして教室の外で待っているが、最後に見たときは「ユウトなら大丈夫」と「フレイアさん……頑張ってくださいね」と応援してくれた。

 僕は、青ざめてブツブツつぶやいているフレイアに言う。


「フレイア、落ち着いて。焦ると解ける問題も解けないぞ」

「わ、わかってるけどさあ……あたし、数字とか理屈とか苦手なんだってば」


 誰にでも得手不得手はある。僕は暗記とか計算は得意……というか、『好き』の部類に入るけど。

 試験官が声を張り上げた。


「四等級昇格試験――開始!!」


 試験用に配られた問題用紙をめくると……わかるわかる。過去問で見た問題ばかり。しかもこれ、百年分の過去問同士を組み合わせて新しい問題にしている。

 百年分の問題、すべてを読む時間はなかったけど……二十年分をこの七日で読み込んだ。大まかな問題はだいたい理解できそうだ。

 僕はすぐに文字を追い始めた。


(へえ、よくできてるな……)


 内容は、魔力理論、精霊循環の基礎、共鳴理論、そしてダンジョンの構造学。

 実戦だけでなく、理論や倫理まで問われる総合問題だ。


(面白い……問題集百年分、無理してでも全部買って、旅に持っていきたい)


 僕はすらすらと答えを書いていく。時間が経つのを忘れるほど集中していた。

 ちらりと横を見ると、フレイアが頭を抱えていた。

 ペン先で机をトントン叩き、口を半開きにして問題をにらんでいる。


(……だ、大丈夫かな)


 不安になったが、試験中なので声はかけられない。

 僕はただ、自分のやるべきことをやるだけだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 そして、五時間が経過した。


「終了!!」


 魔導紙が消え、教室が一気に静まり返る。

 フレイアは魂が抜けたように机に突っ伏している。

 試験が終わると、試験官が回答用紙を回収し出ていき、入れ替わりでリアが入ってきた。

 リアは、僕たちのもとへ来る。


「……終わった。もう無理……うう、リアぁ」

「お疲れ様、フレイアさん。よく頑張りましたね」


 リアが微笑むが、フレイアは虚ろな目で天井を見上げた。

 僕はそんな二人を見ながら、ようやく肩の力を抜いた。


 ◇◇◇◇◇


 試験が終わった翌日、岩都の中央広場はざわついていた。

 周りの人たちの話に耳を傾けると、ギデオンさん率いる部隊が、北の峡谷地帯へ向かう出発準備をしているのだ。

 すると、僕らに気づいて近づいてきた。


「やあ、みんな」

「ギデオンさん。そこで聞いたんですけど……行方不明者を探しに行くって」

「ああ。行方不明になった部隊の捜索任務だ。国王陛下からの正式命令でもある」


 鋼色の鎧を纏ったギデオンさんは、黄土色のマフラーを整えながら、いつもの穏やかな笑みを見せた。

 だが、その目の奥には、決意とわずかな焦りが混ざっているように見えた。


「危険な任務ですね」

「それでも、行かねばならない。……自分には、『守る』という道しかないからな」


 その言葉に、僕は何も言えなくなった。リアもフレイアも同じだった。

 ギデオンさんの背中は、静かな炎のように揺らめいて見えた。


「すぐ戻るさ。その時は、また飯でも食おう」


 そう言って、ギデオンさんは馬にまたがり、騎士団の列の先頭に立った。

 岩の門が開き、鎧の音が重なり合って響く。

 その音が遠ざかるまで、僕たちは見送っていた。


 ◇◇◇◇◇


 数日後。

 『ダンジョン協会』の掲示板前に、僕とフレイア、リアの三人が並んでいた。

 これから、四級試験の結果が張り出される。

 そして、試験官が、協会のボードに結果が書かれた紙をペタッと貼る。試験を受けた霊触者たちがぞろぞろと集まり、僕らもその集まりに加わった。

 流れに押され、ボードの前にようやく到着。


「……よ、よし。結果、見よう」


 胸の鼓動が早くなる……そして、僕は名前を探した。

 そして――見つけた。


「……あった!! 僕、合格だ!!」

「うっそマジ!? すごいじゃん、ユウト!!」


 フレイアが肩を叩いてきた。

 僕は苦笑いしながら、今度はフレイアの名前を探した。


「えっと……フレイアは」

「…………ない」


 フレイアの名前はなかった。僕の合格に喜んでいたフレイアのにこにこ顔が、徐々に崩れ……僕の胸に飛び込んでわんわん泣き出した。


「……うわぁぁぁん!! あたしの五時間返せぇぇぇ!!」


 周囲の冒険者が振り返るほどの声量だった。

 リアが慌ててフレイアの肩を叩く。


「落ち着いてください、フレイアさん!! 試験は来月にもありますから!!」

「試験もうやだーっ!! てか、ユウトとリアいればあたしの等級五級でいいじゃん!!」


 確かにその通り……でも、フレイアは試験を受けて落ちたのだ。その慰めは必要だろう。

 僕はフレイアの肩をポンと叩いて言う。


「フレイア。試験は無理に受けることないからさ、あとは僕やリアのサポートしてくれよ」

「……ユウトって、ほんとずるいくらい優しいよねぇ」


 フレイアが涙目で笑う。

 リアも少し安心したように息をついた。


 ◇◇◇◇◇


 数日後の朝。僕たちは岩都の北門に立っていた。

 僕が四級になったことで、三級のリアと一緒に『中級ダンジョン』に入れるようになったのだ。なので、今日はダンジョン協会が管理する坑道型のダンジョンに挑戦することになった。


「じゃあ、今日は中級ダンジョン『セレス坑道』を調査だ。えーと、ダンジョン協会が管理するダンジョンのルールは……」

「ダンジョンボスの討伐後、現れる『核』を破壊、持ち出してはならない。そして『精霊力の吹き溜まり』を破壊してはならない、ですね」


 リアが言う。

 中級ダンジョンになると、ダンジョンボスは『核』さえ持ち出さない限り復活する。精霊力の吹き溜まりも破壊しなければ問題ない。

 ダンジョン協会の管理するダンジョンは、鍛える場所としては最適なのだ。

 僕が地図を広げると、リアが頷き、フレイアは気合いを入れて拳を握った。


「よっしゃー、試験落ちた分、暴れてやる!!」

「……暴れてもいいけど、やりすぎるなよ」


 冗談を言い合いながら、僕たちは岩都を出た。

 山岳地帯の風は乾いていて、少し冷たかった。

 岩壁に沿って進み崖道を抜ける。遠くには黒い峡谷が見える――ギデオンさんたちが向かった方角だ。

 北には行くなと言われたけど、今回向かうのはそのギリ手前。まあ、問題はないだろう。

 僕はふと、その方向に目を向けた。


「……どうしたの、ユウト?」

「いや……なんだろう。精霊力を感じるような……?」


 ふと、どこか弱々しい精霊力を感じた。

 リアが耳を澄ますと、厳しい顔をして言う。


「……誰か、来ます」


 風の中に、鎧のきしむ音が混ざっていた。

 その音がだんだん近づいてくる……僕たちは道の脇に寄り、警戒した。

 岩陰から現れたその姿を見た瞬間、僕の心臓が跳ねた。


「――ギデオンさん!?」


 全身に傷を負い、鎧はひび割れ、マフラーは血で染まっていた。

 肩に深い傷を負いながらも、彼は自力で歩いていた。


「ゆ、ユウト……? はは……北には、来るな、と」


 ギデオンさんが僕の名前を呼び、膝をついた。

 慌てて駆け寄り、体を支える。


「しっかりしてください!! 一体何が……」

「……部隊が……全滅した」


 その声はかすれていて、息が荒い。

 僕はリアとフレイアに「手当を!!」と叫ぶ。リアが薬を出し、フレイアは包帯を出す。二人とも傷の手当は得意なので、安心して任せられる。


「う、っぐ……」

「しっかりしてください。ギデオンさん、ギデオンさん?」

「…………ぅ」


 ギデオンさんの表情は苦痛に歪んだままだった。


「……北のダンジョンで……光を見た。そちらに向かったら、ダンジョンがあった……」

「ギデオンさん、今は喋らなくていい」


 僕は声をかける。

 リアは傷薬で消毒し、フレイアは傭兵流の包帯の巻き方で傷をふさぐ。


「光が、見えて……気付いたら、部下が何人か、消えてた」

「消えた……?」

「一瞬、見えた……何かが、高速で、駆け抜けていった、ような……ぅ」


 ギデオンさんの体がびくりと震え、意識が途切れた。

 リアが再び叫ぶ。


「出血が多すぎます。今すぐ町に戻らないと!」

「行こう、すぐに!!」


 僕たちはギデオンさんを担ぎ、岩都への道を引き返した。

 彼の黄土色のマフラーが風に揺れ、血を吸って重く垂れ下がる。

 胸の奥で、確かな恐怖が芽生えていた。

 僕は恐怖していた。ギデオンさんをこんな目に合わせるほどの強者が、どこかにいる。

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