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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第三章

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36/70

四等級へ向けて

 ダンジョンの最奥――そこは、岩肌が黒く光る広間だった。

 重く湿った空気の中、僕たちは最後の魔獣と相対していた。


「――来るぞッ!」

「わかってる!」


 巨大な岩蛇。

 全身が鉱石のように硬化し、目は紅く、地鳴りを響かせながら這い寄ってくる。

 フレイアが一歩踏み込み、炎の精霊術式を展開した。


「術式展開、『爆焔衝破(ばくえんしょうは)』!!」


 轟音と共に炎の奔流が炸裂。

 岩蛇が地面に潜った瞬間、地面をマグマ化するフレイアの精霊術式をモロに喰らい、岩をも焼き尽くすマグマによって燃える岩蛇となった。

 苦しいのか、地面から飛び出しのたうち回っている。


「よっしゃトドメ!!」

「僕もやるぞ!!」

「私もです!!」


 刃が赤く輝き、岩蛇の首を両断する。

 リアの風の矢が、ドロドロに溶け始めた岩蛇の身体に突き刺さる。

 僕のハルバードが、岩蛇の頭に突き刺さった。

 もともと発声器官がないのか、岩蛇は断末魔を上げることなく死に、そのまま消滅した。


「っしゃあ! やったわね!!」

「ふぅ……やっと倒せたな」

「お疲れ様、ユウト、フレイアさん」


 フレイアが斧槌を肩に担ぎ、リアが汗を拭いながら笑った。

 岩蛇が消えたところを見ると、淡く光る青い結晶が見えた。


「これが……『核』か」

「そうね。よーっし、ダンジョン協会からの依頼、完了ね!!」

「そうですね。ダンジョンボスを討伐したので、このダンジョンはゆっくり消滅するはずです。まあ、魔力の吹き溜まりがまた発生すれば、ダンジョンとして復活するでしょうけど」

 

 僕たちは頷き合い、岩蛇のいた広間を後にした。

 洞窟を抜けると、夕方の光が差し込み、岩壁に反射して黄金に輝いていた。


 ◇◇◇◇◇


 岩都バスティオンに戻ると、町の喧騒が耳に心地よかった。

 石造りの街並み、広場の噴水、鎧がこすれ合う音。

 その中を抜け、僕たちは『ダンジョン協会』の建物へと向かう。

 受付で報告を済ませると、職員の女性が笑顔で僕たちに証書を差し出した。


「ユウト・カミシロさん、フレイア・ヴァレリアさん。お二人には四等級試験への挑戦資格が与えられます」

「おおっ!! ついに!!」

「やったわね、ユウト!! ……でも、筆記試験かあ」


 フレイアが拳を突き上げるが、すぐにゲンナリした。僕は思わず笑ってしまった。

 リアが横でメモを取りながら頷く。


「試験用のテキストも、ダンジョン協会内にあるショップで販売していますよ。過去百年分全てあるので、いくつか買っていきましょうか」

「僕、とても興味あるから、買えるだけ買うよ」

「……あたしは一冊だけ」


 職員が笑顔で説明を続けた。


「試験は七日後の朝、協会の特別教室で行います。過去百年の出題範囲から選ばれた、五百問のテストです。四百七十点以上が合格となりますので、頑張ってくださいね」

「了解しました」

「……できる気がしないわ」


 フレイアの顔色が悪かった。

 リアはクスっと微笑み、僕は早くショップで買い物をしたかった。

 過去問、早く読んでみたいな。


「ユウトは、勉強好きですし、問題ありませんね。ではフレイアさん、私が勉強を教えますので頑張りましょうね」

「ぐっへぇぇぇ……いやだあ」

「さ、過去問買いに行こう。どんな問題なのか、出題範囲、出題傾向を見てみたいな」


 そんな会話を交わしながら外に出たところで、聞き覚えのある声がした。


「おや、ユウトたち。ちょうどいいところに」


 振り向くと、鋼色の鎧を纏ったギデオンさんが立っていた。

 黄土色のマフラーが夕日に揺れ、穏やかな笑みを浮かべている。


「ギデオンさん!!」

「自分の任務が終わったところでね。偶然ここを通りかかったんだ……いい報告をもらった顔だな」

「はい。四等級試験の資格を得られました」

「それは見事だ。ならば、祝いの食事でもどうだ?」


 ギデオンさんも仕事終わりらしい。

 僕らはもちろん、ギデオンさんと一緒に食事をすることに決めた。


 ◇◇◇◇◇


 岩都の中央通りにある食堂『鉄の杯亭』にやってきた。

 厚い木の扉を開くと、肉の香りと暖炉の匂いが混ざり合って漂っている。非常に空腹なので、香りだけでもうお腹がグウグウ鳴ってしまう。

 僕たちはギデオンさんに案内され、窓際の席に腰を下ろす。


「ここの獣肉のローストは絶品だぞ。この国で採掘された岩塩を使った塩で焼き上げているからな」

「いいわねー!! あたしの分、おかわり準備しておいて!!」


 フレイアはもう興奮しっぱなしだ。料理も届いていないのに、ナイフとフォークを両手に持っているし。

 料理が運ばれてくると、香ばしい匂いに空腹が刺激される。

 肉汁がしたたる焼き肉、岩塩スープ、焼き立てのパン。

 ギデオンさんが杯を掲げた。


「では、乾杯だ」

「「「乾杯!!」」」


 杯がぶつかり合い、暖かい笑い声が広がる。

 フレイアはエールを一気に飲み干して「おかわり!!」と叫ぶ。リアも半分以上飲み、僕は一口だけ飲んで運ばれてきた肉を食べることにした。

 肉は絶品……けっこうな量があったのに僕はおかわりを注文。フレイアは三皿食べ、リアも一皿では満足できないのか二皿目を注文した。

 そして、食事の話題はギデオンさんのことへ。


「ギデオン、あんたって、堅そうに見えて面倒見いいわよね」

「はは、自分はただ年上というだけさ」

「……二歳しか違わないですけどね」

「リア殿、言わないでくれ」


 笑いながらギデオンさんが肩をすくめる。

 穏やかで、温かくて――まるで兄のような存在だった。


 ◇◇◇◇◇


 食後、店を出た頃。

 夜風が冷たく、岩都の街灯が淡い光を放っていた。

 ギデオンさんの顔が少しだけ曇る。


「……実は、少し気になることがある」

「気になること?」

「ああ。ここ数日、うちの騎士団の一部が任務中に消息を絶った。報告が途絶えたのは、北の峡谷地帯にあるダンジョンでね……正式に、騎士団による大部隊での調査任務が開始される。その間、北部のダンジョンは封鎖となるだろう」

「行方不明、ですか?」


 リアが眉をひそめる。ギデオンさんは頷いた。


「通常の魔獣なら部隊が全滅することはない。だが、遺留品すら見つからない。忽然と姿を消してしまったんだ……」

 

 ギデオンさんが言うと、リアが考え込んで言う。


「奇妙ですね。騎士団の調査は、通常は二部隊体制です。一部が戻らない場合、もう一部は報告を優先するのが原則……」

「その通り。前回、自分たちが行ったダンジョン調査はともかく……正規の手順で行われる調査では、誰も戻らないなんてことは、まずないんだ」


 ちなみに、前に僕らとギデオンさんで行ったダンジョン調査は、僕らの訓練にギデオンさんが調査するダンジョンを当てた、という意味合いのが強い。

 ギデオンさんは、僕らに言う。


「ユウト、リア殿、フレイア殿。等級を上げて高難易度のダンジョンに挑戦するのは問題ないが……友人として言わせてくれ。北部にあるダンジョンに挑戦するのは、今はやめてほしい」

「……わかりました」

「感謝する。原因がわかり次第、きみたちにも報告しよう」


 ギデオンさんは「では」と歩き出し……振り返った。


「ユウト。もし自分が動くとき、君たちの力を借りることになるかもしれない」

「……もちろん。僕たちでよければ」


 そう答えると、ギデオンさんは静かに頷いた。

 それからしばらくすると、雨が降り出す。僕らは慌てて宿屋へ駆け戻った。

 部屋に戻り、僕は窓から空を見上げる。


「……雨、強いな」


 夜の岩都の空に、遠く雷鳴が響いた。

 それが、嵐の前触れであることを――僕たちはまだ知らなかった。

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