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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第三章

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ダンジョン調査

 ギデオンさんと一緒に、僕らは郊外のダンジョン調査に向かっていた。

 四人で歩きながら、僕はギデオンさんに質問する。


「あの、ギデオンさん。ダンジョン調査って、ギデオンさんみたいな部隊の隊長が直々にやるものなんですか?」

「まあ、そうだね。自分は若輩の隊長だから、こういう仕事が回ってくるんだ。それに、危険度の高いダンジョン調査は、霊触者でないと受けることができない。うちの部隊では、霊触者は二人しかいないからね……それに、まだ未熟だ。だから、こうして自分が調査をしている」

「あんたも大変ねぇ。ってか、あたしらと二歳しか違わないとか、なんか変な感じ」


 森を歩きながら、フレイアが「にしし」と笑う。

 ギデオンさんは微笑み、僕らに言う。


「きみたちにとっても、自分にとっても、今回はありがたい。一人では調査に時間がかかるけど、今回は早く終わりそうだ」

「あの、ギデオンさん。調査の内容は?」


 リアが興味津々といった感じで、メモの準備をして言う。


「まず、今回発見されたダンジョンは迷宮型でね。階層調査、魔獣調査が主な仕事になる」

「ふむふむ……階層調査とは?」

「そのままの意味さ。そのダンジョンが何階層まであるのか調査する。でも、調査規定で五階層までの調査しかできないんだ。五階層以上あるダンジョンは上級ダンジョンに分類され、そこに入る霊触者は命懸けになる」

「なるほど……興味本位の質問ですが、これまで発見されたダンジョンで、最も深いダンジョンは何階層ですか?」

「確か、四十七階層だったはず。一級霊触者が調べ、戻って報告した記録が残っている。その霊触者は報告と同時に死亡したから、その記録が本物なのか不明と言われているけどね」

「なるほどなるほど……興味深い」

「ははは。リア殿は、『知恵の道』を歩む研究者らしいな」


 ギデオンさんが笑うと、リアは恥ずかしそうに頷いた。

 僕も言う。


「魔獣調査はそのまま、魔獣の調査……ですよね」

「ああ。十種類の魔獣を調べ、報告する。それ以上調べても構わないし、追加報酬にもなる」

「調べ、報告……!! 私の得意分野です。お任せください!!」

「助かるよ」

「はいはーい!! あたしとユウトは戦うわ。そのために来たんだからね。てかリア、あんたも戦いなさいよね」

「わ、わかってますよ」

「ははは。きみたち、実に面白いチームだね……と、到着だ」

 

 到着したのは、草に覆われた岩石の割れ目だ。

 入口は広く、三人で列になっても通れるくらいの広さがある。

 

「ここから先が、調査対象のダンジョン区域だ。岩盤の割れ目がそのまま入り口になっている。注意しろ、崩落も多い」


 ギデオンさんの声は低く落ち着いていたが、耳に響くたびに心が引き締まる。

 隊長という肩書きは伊達じゃない。歩く姿勢一つに無駄がなく、鎧がまるで身体の一部のように馴染んでいる。


「ずいぶん整備されてますね」


 リアがそう言って岩壁を見上げる。

 そこには鉄杭や支柱が埋め込まれ、崩落防止の補強がされていた。

 ギデオンさんは微かに笑いながら言った。


「入口だけ、事前に補強しておいたそうだ」


 やがて、目的のダンジョンへと到着した。

 山肌の裂け目が、黒い口を開けて僕たちを飲み込もうとしている。


「このダンジョン、以前は鉱山として使われていたそうだが……数年前から魔獣の反応が増えてね」

「なるほど、放置できないってわけか」

「そうだ。内部には『精霊の吹き溜まり』があるらしい。そこに魔獣が惹かれる」


 フレイアが斧槌を肩に担ぎながら唸った。


「つまり、戦えるってことね。久しぶりに思いきり暴れられそう」

「ふふ、頼もしいな」


 ギデオンの口調は淡々としているが、どこか嬉しそうだった。

 僕たちはランタンを灯し、ダンジョンの闇へと足を踏み入れた。

 岩壁の中を抜けると、湿った風と鉄の匂いが鼻を打つ。

 足元には古い線路のような跡があり、過去に採掘が行われていたのが分かる。


「きみたちは、ダンジョンについてどれだけ知っている?」

「……迷宮?」

「魔獣がいっぱい出てくるところ!!」


 僕とフレイアが言うと、ギデオンさんは「ははは」と笑った。

 そしてリアが言う。


「『精霊力の吹き溜まり』……といったところでしょうか?」

「さすが『知恵』の研究者。実にいい定義の仕方だ」

「「……えーと」」

「では、説明しようか」


 ◇◇◇◇◇◇


 この世界では、精霊力は風の流れや水の流れと同じく、目に見えぬ『自然の呼吸』として大地のあちこちを巡っている。

 しかし地形や地脈の歪み、戦乱による魔力残滓などが重なると、精霊力が行き場を失い、『吹き溜まり』を作ることがある。

 やがてそこに濃密な精霊圧が生まれ、生物たちの魂を刺激し、進化・変異を促す。

 その結果、通常の獣が魔獣へと変わり、棲み処を築く――それが、ダンジョンの原初的な姿である。


「このバストリア山岳騎士国は、そういう『吹き溜まり』の数が非常に多くてね。恐らく、ダンジョンは永遠に発生し続ける」


 バストリア山岳騎士国は、高山と峡谷が連なる場所に建国された国だ。

 地属性の精霊力が極めて濃く、その豊かな精霊力の流れは、地を肥沃にし、同時に「溜まりやすく、滞留しやすい」という特性をもっている。

 結果――バストリアではいたる山腹や渓谷、地下洞窟に精霊力の吹き溜まり=ダンジョンが形成されているのだ。


「現在、国が把握しているだけでも、大中小合わせて七百以上のダンジョンが確認されている。発見されると我々騎士が調査をし、小規模なら潰し、中規模なら残し、大規模なものは手遅れになる前にダンジョン協会と合わせて潰す……今、大規模なダンジョンは四つ残っているが、それらは『手遅れ』になりつぶすことのできなかったダンジョンなんだ」


 吹き溜まりに閉じ込められた精霊力は、長い年月のうちに「生命の型」を変えていく。

 本来は普通の狼、熊、蛇、鳥――それらが精霊力の圧を浴びて変質し、魔力の塊である「魔獣」へと進化する。

 多くは精霊と獣の中間にあり、「精霊の意志を持たぬ精霊獣」とも呼ばれる存在だ。

 そして、さらに長い年月を経て、部の魔獣は「守護者」と呼ばれるダンジョン主となり、精霊力を循環させる中枢として機能するようになる。


「ダンジョンを破壊するには、『精霊力の吹き溜まり』を破壊するか、ダンジョンボスを倒せばいい」

「おー、わかりやすいじゃん。ねえねえ、ダンジョンってお宝あるって聞いたけどマジ?」

「もちろん。中規模以上のダンジョンにはボスが存在する。そのボスの持つ『核』は、装備として非常に優秀な素材になる。それにただ売るだけでも莫大な財産になる」

「おー、いいわね」


 フレイアが興奮した。

 ダンジョンか。かなり奥が深いな。


「……む、来たか」


 ギデオンさんが装備していたメイスを手にする。

 ほどなくして、最初の魔獣が現れた。

 岩のような皮膚を持つ四足獣。目だけが赤く光り、地を蹴るたびに石片が弾け飛ぶ……こいつは小さいが、ロックリザードだ。

 ギデオンさんが精霊導器である大盾を手に、前に出た。


「自分が受ける!! ユウト、フレイア殿、側面を取れ!!」

「了解!!」

「おう!!」


 ギデオンさんの大盾が地面を叩くと、重い衝撃が響いた。

 魔獣の爪が盾に当たるたび、火花が散る。まるで金属同士の戦いのようだ。

 リアが弓で狙いを定め詠唱が重なり、風の矢がロックリザードの目に突きささる。

 そこに僕がハルバードで前足を両断。


「今だ、フレイア!」

「おっしゃ!!」


 轟音。

 フレイアの斧槌が、まるで隕石のように落ちた。

 衝撃波が岩壁を震わせ、魔獣の頭部が粉砕される。


「……ふう、守りがいるっていいわね」


 フレイアが笑いながら汗を拭った。


「隊列も完璧だ。君たちの連携は見事だ」


 ギデオンさんがそう言うと、リアが少し照れたように笑った。


「ギデオンさんの指揮が的確だからですよ。まるで……守られてるって感じがします」

「それが、僕たち騎士の務めだ。仲間を生かすために立つ。それだけだ」


 その言葉に、彼の覚悟の重みを感じた。


 ◇◇◇◇◇◇


 その後も、ダンジョンを進みながらいくつかの群れと遭遇した。

 僕とフレイアが前衛、リアが支援、そしてギデオンさんが守り、全体の制御。

 それぞれが役割を理解し、息を合わせる。

 気づけば、これまで以上に安定した戦闘ができていた。


「ふふ、やっぱり連携っていいわね。ユウト、前より呼吸が合ってる気がする」

「お前が突っ込みすぎないからな」

「うっ……言わないでよそれ」

「仲の良いことだ」


 ギデオンさんの笑い声は、岩壁にこだました。

 規律に厳しい人かと思っていたが、笑うとどこか兄貴分のように優しい。

 やがてダンジョンの最深部に到達した。巨大な空洞が広がり、天井から滴る水滴が静かに響く。

 中央には、青白く光る結晶柱。精霊力の吹き溜まりだ。


「小規模だが、魔獣の質も悪くない。新兵の訓練場として残してもいいな……」


 ギデオンさんがメモを取っていた。リアも同じようにメモを取り、キョロキョロしている。

 僕とリアは、最深部の部屋中央の地面を見ていた。


「なんか、すごい精霊力を感じる……ダンジョンだから?」


 フレイアが呟く。

 確かに、精霊力の流れが脈打つように動いている。

 ギデオンさんも頷く。


「ダンジョンの魔獣は、精霊力を媒介に血肉を得る。これほどの濃い精霊力なら、すぐに新たな魔獣が生まれるだろう……よし、調査はこんなところか」


 調査を終え、帰路につく。

 外へ出ると、山風が冷たく頬を撫でた。

 ギデオンさんは深く息を吸い、空を見上げる。

 日が傾き始めている。岩都はそう遠くないので、野営するまでもないだろう。

 

「……さあ、帰ろうか」


 その声は、どこか寂しそうだった。

 僕も、リアも、フレイアも、ギデオンさんが何か悲しんでいると気付いた。


「……ああ、すまないね。どうしても、夕日を見るといろいろ思い出してしまって」

「……家族のこと、ですか」

「ああ。以前、少しだけ言ったね……魔獣の大量発生、スタンピードで妹が亡くなったと。あの日も、夕方……夕日が赤く染まっていた」


 ギデオンさんは小さく微笑んで言う。


「すまない、変なことを言ったな。さあ、帰ろう。戻ったら食事を奢らせてくれ。いい店を知ってるんだ」


 その夜、町に戻った僕たちはささやかな打ち上げをした。

 岩塩のスープ、焼いた獣肉、そして香ばしい黒パン。

 テーブルの向こうで、リアとフレイアが笑いながらワインを注ぎ合う。

 ギデオンも珍しく杯を傾けていた。


「この国の戦士たちは、こうして勝利の後に静かに杯を交わす。派手な祝宴はない。ただ生き残れたことを祝う。それが我々の流儀だ」

「いい風習ですね」

「……ああ。だが、今日ばかりは少し賑やかでもいいかもしれん」


 その笑顔を見て、僕は確信した。

 ――この人は、まだ『守るもの』を失っていない。

 そして、きっとその想いが、これから訪れる嵐の中で光になるんだろう。

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