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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第三章

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バストリア山岳騎士国

 岩石平原を抜けてから、僕たちはさらに北へと進んだ。

 騎士団の護衛は安心できる。ギデオンさんはぼくらから離れ先頭を歩き、騎士たちも隊列を乱さずに歩いている……正直、カッコイイと僕は思った。

 やがて視界に入ってきたのは、まるで山そのものを削って築いたような巨大な城壁――それが、バストリア山岳騎士国だった。


「……すごい。まるで山が城になったみたい」


 リアが感嘆の声を上げる。

 確かにその通りだ。岩肌に沿って積み上げられた城壁は黒鉄のように重く、そして荘厳だった。

 門の上には、盾を掲げた騎士の紋章が刻まれている。

 ここが、『守護の道』を歩む者たちの国――バストリア山岳騎士国。


「こりゃまた、すごい城下町だねぇ。あたし、あんな頑丈そうな門、初めて見たわ」


 フレイアが正門をしげしげと見上げる。

 門の向こうには整然とした街並み。石造りの建物がきっちりと並んでおり、まるで国そのものが要塞のような、不思議な感じがした。


「なんだか……町の空気が引き締まってますね」


 リアが感心したように呟く。

 確かに、他国のような浮ついた雰囲気は一切ない。

 笑顔はあるけれど、それは穏やかで誇り高い笑みだった。

 守る者の国――それが空気そのものに刻まれている。

 そして、門兵の一人が、ギデオンさんに向かって敬礼する。


「ギデオン隊長、お疲れ様です!!」

「ご苦労」


 どうやらギデオンさんは、この国でも相当の信頼を得ているようだ。若いからと侮られることはない、誠実で真面目そうな人だし、信用できる。

 ギデオンさんは、門兵に何かを言い、僕たちの元へ。


「入国手続きは済ませた。このまま町に入って大丈夫だ。ところで、宿は決まっているかな?」


 僕らは顔を見合わせ首を振る。

 ギデオンさんは、町を指差して言う。


「この中央通りを進んだ先に、『岩窟亭』という宿がある。個室も広くサービスもいい宿だ。そこでよければ紹介できるが」

「いいんですか? ありがたい」

「気にするな。これを宿屋で見せればいい」


 渡されたのは、紋章の刻まれた指輪だった。盾のような意匠が彫られている。

 

「自分の紹介だと言えばいい。ああ、それと……時間ができたら、グラン=フォルテ騎士団の第一支部を訪ねてくれ。改めて、お礼がしたい」


 そう言って、ギデオンさんは敬礼して部下と町中へ。

 僕たち三人はその背中を見送った。


「すごい高潔な方ですね」

「ああ。騎士ってああいう人のこと言うんだなあ」

「お堅い感じするけどね~、でもあいつ、かなり強いよ」

「まあ、せっかくの紹介だし、行ってみるか。『岩窟亭』だよな」

「ええ。まずは宿を確保してから、ですね」

「んふふ、あんたらも旅慣れしてきたんじゃない?」

 

 僕らは、ギデオンさんおすすめの『岩窟亭』へ。

 煉瓦造りの三階建ての宿で、指輪を見せてギデオンさんの名前を出すと、一番いい部屋を三部屋用意してくれた。

 部屋は広く、温泉の町アドモニクスほどではないが高級感のある部屋だった。

 まだ昼前だったので、荷物を置いて貴重品だけを持ちロビーへ集合。

 

「じゃあ、町を見て回ろうか」

「せっかくですし、『ダンジョン協会』にも行きませんか?」

「あたしも行きたい!! ダンジョン、気になる!!」

「霊触者等級も上げないとな。そういや……フレイアの等級は?」

「知らないわよそんなの。等級とかキョーミないし」


 そんな話をしつつ、僕らは宿を出た。


 ◇◇◇◇◇◇


 城下町は、想像以上に活気があった。

 広い石畳の通りの両脇には、鎧職人や鍛冶屋、薬草商、武具屋がずらりと並んでいた。

 カンカンと金属を打つ音、鉱石を磨くザリザリという音が途切れることなく響いている。


「わぁ、見てユウト!! 全部、金属細工のお店ばっかり!!」

「本当に。鍛冶の国って感じだな……どの店も鉄と岩の匂いがする」


 フレイアが楽しそうに店先の鉱石を眺める。

 岩都バスティオンはまさに山の都だ。岩の大地から掘り出した資源をもとに発展してきたらしい。

 人々の服装も質実剛健で、装飾よりも耐久性を重視しているのが見て取れた。


「観光にしても、見どころいっぱいね。ほら、あそこの建物、温泉施設だって!!」


 フレイアが指差した先には、湯煙が上がる岩造りの宿。

 山岳国らしく、地熱を利用した温泉施設が各所にあるらしい。


「フレイアさん、もう温泉ですか?」

「ふふ、戦いのあとは癒やしでしょ……まぁ、今日はその前に用事があるけどね」


 そう。今回の目的は観光ではない。

 僕たちはこの国で、霊触者等級――いわゆるランクを上げるため、『ダンジョン協会』を訪れる必要があるのだ。


「協会はどのあたりにあるんでしょう?」

「確か……この街の中心部にあるって宿屋の主人が言っていた。噴水広場を抜けた先だったはずだ」


 僕たちは通りを抜けながら、街の中心へと向かう。

 途中、石像や騎士のモニュメントがいくつも立ち並んでいた。どれも盾を掲げた姿をしている。


「『盾を掲げる者』……守る者たちの象徴、って感じですね」

「守ることこそ、魂を磨く道――『守護の道』の理念か」


 この国の人々は、誰かのために立つことを誇りとしている。

 それは僕の『孤独の道』とは正反対の生き方だった。

 ――けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。守る力、誰かのために生きる意思。僕がこの世界に来てからずっと、どこかで探していた感情かもしれない。


「ん? ユウトたちじゃないか」


 その声に振り返ると、白鋼の鎧に黄土色のマフラーを巻いた青年が立っていた。

 ギデオン・レオンハート。さっき別れたばかりの、盾騎士だ。


「ギデオンさん!!」

「やはり君たちか。観光を満喫しているようだね……どうだい、我が国の印象は?」


 ギデオンさんは笑みを浮かべて近づいてくる。

 相変わらず整った顔立ちだが、戦場で見たときより柔らかい雰囲気をしていた。


「すごいです。どこを見ても騎士ばかりで、町全体が要塞みたいで」

「はは、そうだろう。我らの国は『防壁の国』とも呼ばれている。山そのものが我々の城壁なんだ」


 ギデオンさんは誇らしげに胸を張る。

 その姿がまさに、『守る者』という言葉そのものだった。


「これからどこへ?」

「ダンジョン協会に行こうと思ってます。霊触者等級の更新と、ダンジョンについて聞こうと思いまして」

「ならばちょうど良い。案内しよう。自分も協会には顔を出す用がある」

「え? 騎士様がなーんでダンジョン協会に?」


 フレイアが言うと、ギデオンさんは笑う。

 

「ははは。ダンジョンは騎士にとっても、いい訓練場になる。ダンジョン協会と騎士団は連携しているんだ。魔獣が溢れるような危険なダンジョンを潰すこともあるからね」

「なるほど……私も知りませんでした」


 フレイアが納得し、リアがメモを取る。

 そのままギデオンさんの案内で、街の中央へと歩き出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 バスティオンの中央には、巨大な噴水広場があった。

 中央の像は、巨大な腕を持つゴーレムのような形をした岩の生物だ。両腕を掲げ、手には黄色い石を持っている……そう、『地の精霊神像』だ。

 水は岩の割れ目から湧き出しており、清らかに光を反射していた。


「これは『地の精霊神像』だ。地の大精霊『グランドゥーラ』を模した像らしい」

「これが、地の大精霊……!! スケッチしなきゃ」

「なんかゴーレムみたいねぇ」


 リアはスケッチ、フレイアはジロジロ眺め、ドゥーン火山道で出会ったゴーレムと重ねているようだ。確かにゴーレムみたいだな。

 ギデオンさんは言う。


「ははは。逆だよ、ゴーレムが大地の記憶から『グランドゥーラ』の姿を真似たと言われているんだ。『守護の道』の象徴……実に壮大だ」


 ギデオンさんの声には、深い敬意と決意がこもっていた。

 彼にとって、この地の大精霊は単なる像ではないのかもしれない。

 まるで、生きる理由そのもののように感じた。 

 僕は地の大精霊を見て思う。


(……さすがに、こんな国のど真ん中で触れるわけにもいかないか。大騒ぎになるかもしれないし)


 精霊神像は一体ではない。

 もっと目立たない森とかに安置されているかもしれないし、あとで調べてみよう。

 僕はギデオンさんを見る……精霊神像を見る瞳は、どこか悲しみを帯びているように見えた。

 なんとなく、思ったことが口に出てしまった。


「ギデオンさんの『守る』って言葉、すごく重みがありますね」

「……当然だ。私は、『守れなかった』過去を持っているからな」


 その一言に、空気がわずかに沈む。フレイアとリアが顔を見合わせた。

 ギデオンさんはすぐに微笑みを取り繕ったが、その笑みは少し寂しかった。


「妹を……亡くしたんだ。数年前、この国を襲った『スタンピード』でね」

「……スタンピード」

「なにそれ?」

「スタンピード。確か、ダンジョン内の魔獣が暴走し、外にあふれ出る現象ですね。ダンジョンの魔獣が溢れて外に出るなんて、本来は『あり得ない』はずですが……」

「そう、『あり得た』場合の結果は、悲惨なものだ。数万の魔獣が溢れ出し、国内にも多少の被害が出た。その『多少の被害』が……」


 ギデオンさんの妹、なのだろう。

 その瞳に、一瞬だけ炎のような光が宿る。

 怒りでも悲しみでもない。――決意の光だ。

 僕は何も言えなかった。ただ、その横顔を見つめることしかできない。


「それ以来、自分は『守る』ということを誓った。誰一人、同じ悲しみを味わわせぬように……それが、私の『魂の道』だ」


 ギデオンさんの声は穏やかだが、芯が通っていた。

 彼が歩む『守護の道』は、悲しみから生まれた誓いだったのだろう。

 リアが小さく頷き、優しく言葉を添えた。


「ギデオンさん……きっと、妹さんも誇りに思ってます」


 ギデオンさんは少し驚いたように目を見開き、そして微笑んだ。


「ありがとう、リア殿。……そう言ってもらえると、少し救われる気がする」


 その笑みは今度こそ、柔らかく温かいものだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 噴水広場を抜けると、目の前に立派な建物が現れた。

 黒岩と白石を交互に積み上げた重厚な外壁、入り口には盾と剣の紋章が刻まれている。

 その上には、『バストリア・ダンジョン協会』の文字。


「ここが協会ですか」

「そうだ。ダンジョンの登録、調査、そして霊触者等級の認定などを扱っている。各国にあるが、我が国の協会は特に厳格だ」


 ギデオンさんの案内で中に入ると、内部は想像以上に広かった。

 天井の高いホールに、受付がずらりと並んでいる。

 行き交う人々の装備は様々だが、全員が霊触者。精霊導器以外でも武装しているんだな。


「すごい。全員が霊触者なんだ……」

「ああ。バストリア山岳騎士国は特にダンジョンが多い。霊触者が集まる国でもある」

「受付に行きましょうか。試験概要を確認しましょう」

 

 リアに言われ、僕たちは受付へ。

 ギデオンさんが受付対応をしてくれたので、スムーズに話が進んだ。


「では、自分は協会長と話があるからこれで」

「はい。あ……ギデオンさん、これ」


 僕はギデオンさんに借りた指輪を返した。

 ギデオンさんは頷き、協会の二階へ続く階段を昇って行った。

 さて、僕ら三人は再び受付へ。リアが受付に言う。


「では、霊触者等級試験の申込ですね」

「はい。私は三級なので……こちらの二人が受けます」

「かしこまりました」

「その前に、この国にあるダンジョンですが、最も等級の高いダンジョンは、霊触者等級何級で入ることが可能でしょうか?」

「はい。現在確認されている最上級ダンジョンは四つ。グラン=ホロウ、鉄壁迷宮(アイアン・ベール)沈黙の祠(サイレンス・グロウ)崩落の縫合線(フラクチャー・ライン)の四つ。全て三等級以上の霊触者二名以上のグループで探索可能となっています」

「なるほど……現在、この二人は六級ですが、三級に上がる最短試験はありますか?」

「そうですね……三級のあなたがいれば、上級ダンジョンに挑戦することが可能です。まずはお二人が五級試験を受けて合格し、三級のあなたと三人で上級ダンジョンをクリアすれば、早く昇級できると思います」

「わかりました。では、二人を五級試験登録してください」

 

 リアがずっと喋っている。

 僕は理解できたが、フレイアは首を傾げていた。


「なんか難しい話してる? ねえユウト、試験とか言ってるけど、難しいのかな」

「どうだろう。試験用の教本とかあれば嬉しいな。暗記は得意だし」

「あたしヤダ……うげぇ」


 フレイアはゲンナリしてしまった。

 そして、リアが僕とフレイアに、何やら鉄板のようなものを渡す。


「はい、試験です」

「「…………???」」


 意味がわからず、フレイアと同じ方向に首を傾げた。

 リアは「あ、すみません」と軽く謝って言う。


「五級試験は簡単です。この『精霊反応板』に精霊力を流すだけ。五級に値する精霊力の出力を出せれば、その場で合格できます。筆記試験は四級からですね」

「なーんだ!! 楽でいいじゃん……ほい、おしまい」


 なんと、リアの鉄板は真っ赤になっていた。

 受付に渡すと仰天していた。


「な、なんと。ここまで精霊力を込めることができるなんて」

「ラクショーよラクショー。ユウト、あんたも」

「ああ。精霊力を込めるか……」


 僕は、鉄板に精霊力を込めた瞬間──なんと、鉄板が砕け散った。

 ギョッとするリア、フレイア、受付さん。

 僕は一番驚いた。


「く、砕けた……? こんなの、初めてで。まさか……精霊力が、計測できない?」

「えと……合格、でいいんでしょうか?」

「は、はい。合格です。五級認定とします」


 僕とフレイアは、霊触者等級五級へと上がった。

 受付から離れ、三人で喋る。


「ねえ、なんでユウトの砕けたの?」

「なんでだろう……僕にもわからん」

「……恐らく。ユウトの精霊力が不安定だからかも。ユウトは属性を切り替えて戦える稀有な霊触者ですよね。反応板がうまく機能せず、砕けた……とか」

「ま、まあ合格だしいいか。それより、これでダンジョンに入れるんだよな」

「ええ。私は三級なので、二人を連れて上級ダンジョンに入れます。が……まずは、初級ダンジョンで、ダンジョンがどういう場所かしっかり調べましょう」

「えぇ~? 上級でいいじゃん」

「ダメだって。僕らは初心者なんだ。ちゃんと段階を踏むべきだぞ」

「むー」

「ダンジョンの案内人でもいれば、わかりやすいんですけどね」


 と、三人で喋っていると、ギデオンさんが戻って来た。


「おや、キミたち……どうやら、昇級できたようだね」

「あ、ギデオンさん」

「ははは。そうだ、歳も近いようだしギデオンで構わないよ。さっそくダンジョンかい?」

「ええ。そう思ってたんですけど……」


 僕は、ダンジョン初心者三人で挑むことを伝える。

 すると、ギデオンさんは考え込み、頷いた。


「……もしよければ、これから自分が行くダンジョンに行くかい?」

「「「え?」」」

「実は、新規発見されたダンジョン調査に行くつもりなんだ。協会長に呼ばれたのも、新規発見ダンジョンについての情報を共有するためでね。三級以上の霊触者を部隊から呼びに行こうと思っていたんだ。リア殿、きみは確か三級だったね」

「はい、そうです」

「ダンジョンについて知りたいのなら、自分が教えよう。それに、二級の自分がいれば、そう危険な目にあうこともないと思う。どうする?」


 僕らは顔を見合わせ、同時に頷いた。

 そして、三人揃って礼をした。


「「「よろしくお願いします!!」」」

「任された。調査は数日かかる。二日後の朝、ここに来てくれ。では」


 ギデオンさんは出て行った。

 こうして、僕らはギデオンさんのダンジョン調査に同行することになった。

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