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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第三章

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33/70

岩石平原を抜けた先で

 ドゥーン火山道を抜けて、僕たちはついに岩石平原へと辿り着いた。

 炎と硫黄の臭いが消えたのは助かったけれど、今度は別の意味で過酷な地形だった。


「ひどい平原ね……岩、岩、岩ばっかり。岩石地帯っていうか……」

「平原に、岩や尖った石が大量に転がっている感じですね」


 フレイア、リアが言う。

 確かに、辺り一面、大小さまざまな岩と石が無数に転がっている。

 地面は平坦だが、割れた岩板や尖った石がそこかしこに散らばっていて、足を踏み出すたびに靴底がギシギシと軋む。


「うわ……歩くだけで足の裏が痛いわ」


 フレイアが斧槌を杖代わりにしながら、ぶつぶつと文句をこぼす。

 彼女の額には、火山の熱気を抜けてもなお汗が残っていた。


「ブーツに穴が空くかも……もっと頑丈なの、バストリア山岳騎士国で買おう」


 僕も同意して息を吐く。

 目の前には岩の海が広がっていて、気が滅入りそうだ。

 見渡す限り、灰色と茶色の世界。風が吹くたびに、砂混じりの音が耳を掠める。

 リアが地面に手をついて、小さく呟いた。


「……ここ、昔は山岳帯の一部だったんでしょうか。地殻の隆起で崩れて、岩の大地になった可能性がありますね。なぜ平坦なのか……興味深い」

「なるほどな。ってことは、騎士国が山岳地帯に拠点を構えてる理由も分かる。天然の防壁ってわけか」


 僕の言葉にリアが頷き、ブツブツ言いながらメモを取ってる。

 確かに、この岩石平原を大軍で越えるのは不可能に近い。

 馬は足を取られるだろうし、車輪はすぐ壊れる。進軍するには人の足しかない。まさに人を拒む大地。

 それは同時に――防御の地形でもある。

 なるほど。『守護の道』を歩む国、バストリア山岳騎士国……名前に恥じない堅牢さだ。


「ねぇユウト、さっきから思ってたんだけど……ここ、音が変じゃない?」

「音?」

「ほら、ほとんど反響がないの。岩が多いのに、声が吸い込まれてく感じ」


 フレイアが辺りを見回す。

 確かに……耳を澄ますと、風の音すら小さく、妙に静まり返っていた。

 熱はもう感じないのに、息苦しいような圧迫感がある。まるでこの地全体が眠っているみたいだった。

 けれど、沈黙が長く続くことはなかった。

 ドォン!! と遠くで地鳴りのような音が響いた。


「……今の、聞こえたか?」

「うん。たぶん戦闘音です」


 リアが鋭く反応する。

 フレイアはすぐに斧槌を構え、あたりを見渡した。


「この先……煙が上がってる!! あそこ!!」


 フレイアが指を差した方を見る。

 僕は目を凝らす……確かに、遠くの岩の陰から黒い煙がゆらめいていた。

 単なる煙ではない。何かが燃えている。


「行ってみよう。みんな、警戒を怠らないように」

「了解!!」

「わかりました!!」


 僕たちは岩の合間を縫うように走った。

 転がる石を避けながら進むたび、足首がひねりそうになる。

 それでも、遠くから聞こえる金属音と咆哮が確信をくれた――誰かが戦っている。

 やがて、視界が開けた。

 そこでは、十数名の騎士たちが魔獣の群れと激突していた。


「あれは……ロックリザードです!!」


 リアが叫び、手に精霊導器である弓を持つ。

 ロックリザードは、岩の皮膚を持つ巨大なトカゲのような姿をしていた。硬い鱗、尾が地面を叩くと、転がっている岩をで粉砕している。

 対する騎士たちは、全員が重装備。分厚い鎧に身を包み、背には大盾を背負っていた。

 まるで動く要塞。足並みを揃えて陣を組み、魔獣の突進を正面から受け止めている。


「うわ……全員、鎧重そう」

「すごい……でも動きが揃ってますね」


 リアが息を呑む。

 盾が一斉に前へと突き出され、魔獣の爪を受け止めた瞬間、金属の音が岩原に響いた。

 大盾が轟音と共に地を叩き、土煙が舞う。その一撃で魔獣の突進が止まった。

 そして、盾で魔獣を受け止めた男が叫ぶ。


「隊列を崩すなッ!! 前線維持ッ!! ロックリザードを左に誘導しろッ!!」


 低く、通る声。

 全員がその声に従い、ぴたりと陣形を変える。

 その中心に立つ男こそ、この部隊の指揮官だった。

 燃えるような金色の髪、白鋼色の鎧に刻まれた盾の紋章。

 その瞳は濃いブルーだけど、まるで燃えているように見えた。


「あの人が隊長か……? でも、かなり若い。僕らとそう変わらないんじゃないか?」


 僕が呟くと、フレイアが頷く。


「でも、強そう。精霊力を操ってるから、霊触者っぽいね」

「たぶん、地属性ですね。『守護の道』の精霊導器は『盾』……相性のいい属性です」


 おっと、今は分析している場合じゃない。

 前線の一角で盾が押し込まれ、魔獣が咆哮を上げた。

 その尾が振り抜かれ、近くの騎士が弾き飛ばされる。


「まずいっ!! みんな、援護しよう!!」

「はい!!」

「ふふん。騎士たち守りばっかで攻撃足りてないね。あたしの出番!!」


 僕とリアは即座に風の精霊力を集め、魔獣の尾の動きを止めるように風矢を放つ。

 矢は風を裂き、尾の付け根に突き刺さった。

 ロックリザードが呻き声を上げる。


「む、援軍か!?」


 騎士のリーダーがこちらを振り向く。

 その鋭い視線と一瞬、目が合った。


「僕たちは旅の者です!! 援護します!!」

「助かるッ!! 後方から援護を頼む!!」

「はい!! リア、行こう!!」

「ええ。フレイアさんは」

「もち、前衛っ!!」


 僕は岩陰に陣取り、矢を連続で放つ。リアは風の壁を展開し、飛び散る石礫を防ぐ。

 フレイアは斧槌を担ぎ、前線の端へ駆けた。


「ロックリザード、あたしの一撃ぃぃぃ!! 耐えてみなぁぁぁぁ!!」


 斧槌が赤く輝き、衝撃波が岩を砕くように前方を薙ぐ。

 熱風を伴った一撃がロックリザードの脚を砕き、巨体が崩れ落ちた。

 その隙を逃さず、騎士たちが一斉に突撃する。


「今だ!! 一斉に叩けェッ!!」


 騎士の号令が響く。

 剣と槍が一斉に突き立ち、魔獣たちが断末魔の咆哮を上げた。

 しばらくののち――岩石平原に静寂が戻る。


「……ふぅ。やっと片付いたぁ」


 フレイアが肩で息をする。

 騎士のリーダーは盾を地面に突き立て、深く息を吐いた。


「見事な援護だった。助かった、旅人たち」


 意外にも明るく響く声。

 近くで見ると、彼の鎧には無数の傷跡が刻まれている。それでも彼の眼差しは曇らない。戦士の誇りを背負っているのが分かる。


「いえ……僕たちも通りかかっただけです」

「そうか。しかし、きみたちの動きは素人のそれではない……他国の軍属か?」

「ち、違います。僕は旅人で、ユウト・カミシロと言います」

「私はリア・アルヴィーネ。研究者です」

「あたし、フレイア・ヴァレリア。傭兵!!」

「……不思議な組み合わせだな」


 男性は笑い、胸に拳を当てる。


「自分は、グラン=フォルテ騎士団盾騎士(シールドナイト)、第一部隊隊長、ギデオン・レオンハート。勇敢な旅人たち、助力感謝する」


 爽やかな挨拶だった。

 僕とリアは一礼、フレイアは軽く手を振った。


「キミたちは、バストリア山岳騎士国へ観光かい?」

「ええ、まあそんなところです」

「ならば、歓迎しよう。ここはバストリア山岳騎士国領。岩の守りと誓いの国だ。今は魔獣の活動が活発でな……この辺りも安全ではない」

「なるほど。国に入るにはこの平原を抜けるしかないと思って……タイミングがいいんだか、悪いんだか」

「よくここを越えたものだ。あの火山道を抜けたのか?」

「はい。ちょっと死にかけましたけどね……」


 僕が苦笑すると、ギデオンさんは大きく笑い声を上げた。


「ははは!! あの灼熱地帯を越えてきたなら、この辺りの魔獣も問題ないだろう……よし、岩都バスティオンまで我々が護衛しよう。改めて、助力の礼もしたい」

「もちろん構いません。騎士の護衛付とは、安心できます」

「任せろ。守ることは『守護の道』を歩む騎士にとって当然のことだ」


 ギデオンさんは片手を上げ、部下たちに号令をかける。

 盾を背にした騎士たちが整列し、再び進軍を開始した。

 その歩みは重く、揃っていて、一歩ごとに大地が鳴るようだった。

 僕たちもその後ろにつくと、ギデオンさんが僕らの隣へ来た。


「もう見えるだろう。あそこに見えるのが、我ら『守護の道』を歩む騎士の国、バストリア山岳騎士国だ」


 岩石平原の彼方に、険しい山々が聳えていた。

 その中腹には、白い石造りの砦が見える。

 バストリア山岳騎士国。守護の誓いを掲げる者たちの国だ。


「……すごい。まるで、要塞みたいな国だ」

「ははは!! その通り、バストリア山岳騎士国は、この世で最も安全で堅牢な国だ。観光が目的なら楽しむこともできる」

「はいはーい!! あたしら、ダンジョンに挑みにも来たのよ。あと、霊触者等級も上げにねっ!!」

「なるほど。ダンジョンが目的でもあるのか。それなら、『ダンジョン協会』へ行くといい。そこで、ダンジョンについて詳しく教えている」


 ギデオンさんは、僕らの疑問に詳しく答えてくれた。親切な人に会えて本当によかった。

 僕は、気になったことを聞いてみた。


「あの、ギデオンさんって……おいくつですか?」

「十八だ。ははは、若輩の分際でとよく言われるよ」


 なんと、十八歳。僕らの二歳年上だった。

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