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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第三章

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ドゥーン火山道

 ドゥーン火山道――それは、生きた炎が大地を焦がす灼熱の道。

 空気が重く、足元からはじわりと熱が伝わってくる。まるで、大地そのものが呼吸をしているようだった。


 僕たちは、ドゥーン火山道を抜けて岩石平原へ向かう途中にあった。

 目指すは『守護の道』を歩む国――バストリア山岳騎士国。

 けれど、そこへ辿り着くためには、この危険な火山地帯を越えなければならない。


「うっわ……まるで鍋の中に入ってるみたいね」


 フレイアが顔をしかめて言う。

 頬にはうっすらと汗が滲み、斧槌を杖代わりに地面に突いていた。


「確かに……これは暑いな。普通の人間なら、ここに入って数分で気を失うんじゃないか? 僕らは霊触者だから耐えられるけど……」


 僕は額の汗を拭いながら返す。

 あたり一面、焼けた岩肌が続き、地表の裂け目からは時折、真っ赤なマグマが噴き出していた。立ち込める硫黄の匂いが鼻を突く。


「風がほとんどないのがきついですね……」


 リアが周囲を見渡す。彼女の銀髪が、わずかに立ち昇る熱気に揺れている。

 風属性の霊触者であるリアでも、ここまで熱がこもると簡単に冷やすことはできないらしい。汗を何度もハンカチで拭いていた。


「っていうか、おかしいわねー……魔獣、いなくない?」


 フレイアが周囲を見渡しながら言う。

 確かに――おかしい。

 この異様な静けさ。生命の気配がまるでない。

 熱気と岩の軋む音、そして僕たちの足音だけが響く。まるで、この道そのものが僕たちの侵入を拒んでいるようだった。


「まさか……すでに何かに食い尽くされたとか?」


 僕のつぶやきに、フレイアが肩をすくめる。


「冗談でも笑えないっての。もしそうなら、その何かが今もここにいるってことになる」


 そう、僕は肩をすくめた瞬間だった。


 ゴゴゴゴッ……!! と、地鳴りがした。

 山全体が低く唸るように震え、足元の岩が揺れて転がった。。

 空を見上げると、噴煙が立ち昇り、暗くなっていく。


「まさか――噴火!?」


 リアが声を上げた瞬間、轟音とともに火山弾が空を舞った。

 燃えた岩が無数に降り注ぐ。空が、炎の雨に変わった。


「うわわわわっ!! リア、ユウト、やっばいよ!!」

「走れッ!!」


 僕は叫び走り出すと、フレイアとリアも走り出す。

 ゴォッ!! と背後で火山弾が地面に落ち、爆発的な熱風が吹き荒れる。

 岩壁が砕け、炎の粉塵が空気を焦がした。


「うわっ、あっぶな!!」


 フレイアが飛び退き、巨大な岩片を避ける。

 落ちてきた火山弾が地面をえぐり、マグマのような溶岩が溢れ出す。


「リア、堕ちてくる火山岩を、風で何とか弾き飛ばせないか!?」

「やってみます!!」

「あたしも、打ち返してやるっ!!」


 リアが両手を掲げ、風の精霊力を展開する。

 渦を巻く風が炎の粉塵を押し返し、僕たちの前にわずかな安全地帯を作り出した。

 リアだけでは対処できない火山岩は、フレイアが斧槌で打ち飛ばす。

 僕は周囲を探し、盾にできそうな大岩を見つけた。


「今のうちに岩陰へ!」


 僕たちは転がるようにして大岩の陰に身を隠す。

 火山弾が空を裂き、周囲に轟音が響き渡った。

 地面の揺れは止まらず、息をするたびに焦げた匂いが肺に入り込む。

 僕は呼吸を整え、胸を押さえて言う。


「はぁ……はぁ……死ぬかと思った」


 フレイアが額の汗を拭いながら息を吐く。


「こんなの、魔獣どころじゃないわね……」


 僕も頷く。


「いや……逆に、これだよ。魔獣がいない理由は――この火山活動だ。こんな環境じゃ、魔獣だって近づかない」

「じゃあ、今いるのは……この熱気に耐えられる存在だけ、ってことですね」


 リアの言葉に、背筋が冷たくなった。

 そして――その「存在」が、姿を現した。


 ゴゴッ……ゴゴゴ……と、地面が鳴動し、岩がせり上がる。

 最初は地震かと思った。だが、それは違った。

 地面そのものが形を変え、やがて『それ』は立ち上がったのだ。

 全身が溶けた岩で構成され、体表からは赤く光るマグマが滲み出している。

 高さ十メートルはあろうかという巨体。

 まるで、火山が意思を持って動き出したかのようだった。


「まさか、これは……ゴーレム?」


 リアが呟くと、フレイアが反射的に斧槌を構える。


「冗談でしょ!? さすがにデカすぎる。あんなのと戦えるわけないって!!」

「けど、逃げる隙を作らなきゃ――!」


 僕は弓を手にし、風の精霊力を集めるが……すぐに『無理』と悟った。

 だが、すでに集めた精霊力を放つと、ゴーレムの胸に矢が命中した。

 風の矢がゴーレムの胴に直撃したが、まるで効果がない。矢は岩肌に吸い込まれ、表面のマグマが一瞬だけ赤く輝くだけだった。


「だ、ダメだ……」

「ユウト、下がってください!!」


 リアの風刃が飛ぶが、それすらも厚い岩層に弾かれる。

 ゴーレムは低く唸るような音を立て、ゆっくりとこちらへ手を伸ばしてきた。

 その腕は、まるで山そのものを動かしているかのように重く、鈍い。


「逃げよう! こんなの勝てる相手じゃない!!」


 僕が叫ぶと、フレイアとリアも頷いた。


「フレイア、先導を!! リア、後方を頼む!!」

「了解!!」

「了解です!!」


 僕たちは再び走り出す。

 背後でゴーレムの拳が振り下ろされ、地面が粉砕された。

 爆音とともに岩が舞い、衝撃波が背中を叩く。

 そのたびに体が浮き上がるような錯覚を覚える。


「うひゃあ!? あぶなっ!?」


 フレイアが前方の岩を飛び越える。

 リアが背後から風の障壁を展開し、爆風が遮られ、わずかに逃げ道が開けた。

 フレイアが叫ぶ。


「はぁっ、はぁっ……このままじゃ追いつかれる!」


 その通りだ。このまま真っすぐ走っても、ゴーレムは数歩歩くだけで追いついてしまう。そして手を伸ばせば、僕らは簡単に捕まる……というか、あんなマグマの手で握られたら即死だ。

 僕は、火山道の隣……急斜面を見て言う。


「なら、火山の斜面を下りよう!! 二人とも、覚悟決めていくぞ!!」


 僕は叫び、崖を飛び降り、そのまま滑るように傾斜を駆け下りた。

 足元で岩が砕け、熱風が頬を焼く。

 上空で火山弾が再び炸裂した。視界が真っ赤に染まる。

 それでも――僕たちは走った。

 走り抜け、崩れかけた岩場を越え、ついに熱気の渦を抜けた時。背後で、ゴーレムが立ち尽くしているのが見えた。

 どうやら、これ以上は火山の外には出られないらしい。

 やがて、その巨体はゆっくりと地面に沈み、再び岩と同化していった。

 そして……静寂が戻る。


「し、死ぬかと思った……」


 フレイアが地面にへたり込む。

 髪先が焦げていて、斧槌を抱きしめるようにしていた。


「完全に……ここに魔獣がいない理由が分かりましたね」



 リアが静かに言い、僕も頷く。

「たぶん、あれが火山道のヌシだ。魔獣どころか、他の生物も近づけない。まるで、この地を護ってるみたいに……」


 僕は息を吐き、遠くに見える山岳地帯を見上げた。

 堅牢なる騎士たちの国、バストリア山岳騎士国。


「とりあえず、ドゥーン火山道を抜けて、岩石平原へ抜けよう。その先がバストリア山岳騎士国だ」


 炎と岩の地獄を抜け、ようやく僕たちは次の道へと辿り着く。

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