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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第二章

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次へ向かって、新たな仲間を

 戦いから、数日が経過した。

 戦いの余波を残したヴァルゼン帝国の南区は、まるで世界が一度終わった後みたいにボロボロだった。

 崩れた建物。焦げた石畳。吹き抜ける風に混じる、血と煙のにおい。

 人の声がようやく戻ってきたのは、戦いから数日が経過してのことだった。


「人の声が戻ったといっても、復興で大忙しって感じだけどね……」


 現在、僕は黒く焦げた瓦礫の上に腰を下ろしていた。

 足元の石はまだ、ほんのりと熱を持っている気がする。

 『紅蓮の獅子団』が壊した建物などの片付けを手伝っているが……霊触者といっても重い物を運ぶのは疲れる。さすがに精霊力を使い過ぎたので休憩中だ。


「……はあ。ボロボロだなあ」


 呟いても、返す声はない。

 代わりに、どこか遠くから「水を持ってこーい!」という怒鳴り声が聞こえてきた。あの声は――フレイアだ。

 見れば、彼女は腕をまくり上げ、爆熱傭兵団の面々と一緒に瓦礫を運んでいる。

 戦いの時とは違う、現場の姐御って感じの顔。

 その斧槌をスコップ代わりに使うのはやめてくれと何度も言ったが、聞く耳は持たない。


 少し離れた屋根の上には、リアがいた。

 風に髪をなびかせ、焼けた町並みを見下ろしている。

 彼女の視線の先には、避難所で子どもを抱く母親たちの姿があった。


「……守れたんだな、少しは」


 すると、リアと目が合った。微かに笑ったのが見えた。

 その笑みを見て、張り詰めていた胸の奥がようやくゆるんだ気がした。

 だけど――僕の頭の奥では、まだあの甘ったるい女の声……液獄導司ミシェルナの声が響いていた。

 気持ちの悪い声……正直、二度と会いたくない。

 だが、『虚環教団(サークルオブヴォイド)』という名は、無視できない。


『な……本当に、そう言ったのか!?』

『え、ええ……』


 その名をヴォルカン団長に聞いたら、顔を青くして何度も僕に確認してきた。

 あの豪快、無敵、頼りになる団長が、青ざめるくらいの組織なのだ。

 復興などもあり、団長からその組織について話は聞いていない。そもそも団長は復興指示をフレイアや傭兵団の年長に指揮を任せ、王城で今回の件についてずっと話をしているらしい。


『ねえ、次は私が遊んであげるぅ。もっともっと強くなって、私を楽しませてねぇ?』


 最後に、ミシェルナが呟いたあの言葉。

 いつか近く、また会う気がする……それが気になって仕方がなかった。



 ◇◇◇◇◇◇


 ヴァルゼン王城・ヴォルカン


 ◇◇◇◇◇◇


 

「……それで、紅蓮の獅子団の暴走は『混沌』によるもの、というのだな?」


 王の低く響く声が、謁見の間に落ちた。

 瓦礫の修復はまだ途中だが、王は崩れた玉座の前に立ち、ヴォルカンの報告を聞いていた。


「はい、陛下。彼らは意志を奪われ、まるで操り人形のように……我々の攻撃にも反応が鈍く、意思がまるで感じられませんでした」


 ヴォルカンが腕を組みながら説明する。

 普段の軽口は影を潜め、声は真剣そのものだった。


「『混沌』の影響は、テスラを媒介として広がっておりました。奴は混沌に属する『螺旋教団オロバス』の幹部だったようです」

「『螺旋教団オロバス』か……無数にある『混沌』の中でも、過激派に属していたな」


 王の眉が動いた。その名を聞いたのは、王も初めてではなかった。

 ヴォルカンは言う。


「そして、『螺旋教団オロバス』の教主は……『虚環教団(サークルオブヴォイド)』の、『混沌』の導司でした」

「何だと!?」


 王は、驚きの声を上げる。

 ヴォルカンは頷き、重々しい声で言う。


「あの、史上最悪の組織……存在こそ認知されていたが、全く全貌の掴めない組織が……動き出したということです」

「…………」


 ヴォルカンの声が重く響いた。

 王も宰相も護衛も、誰一人として口を挟まない。空気が凍りついたような沈黙。


 そのあと、王が静かに言った。


「――では、漂魂者ユウトの力も、奴らの標的となったわけか」


 ヴォルカンは頷いた。


「ええ。『漂魂者(メイリオン)』の力……魂の道を築く力は、どの『道』も欲しがるでしょうね。国王陛下……あなたもでしょう?」

「…………」


 王は肯定も否定もしない。

 『破壊の道』を歩むヴァルゼン帝国。その主な力は『軍事産業』だ。

 国内の五分の一が、軍事系産業区画。武器の製造を鍛冶師、防具士、そして『知恵』の研究者と協力し、霊触者でなくても精霊力を使うことができる武器の研究も進められている。


 もし、ユウトが『破壊の道』を歩むことになれば? ヴァルゼン帝国はユウトを歓迎するだろう。

 属性、精霊導器を使い分けて戦うことができる稀有な才能を研究し、軍事に役立てるだろう。

 ヴォルカンに預け、傭兵として鍛えれば、『孤独の道』は『破壊の道』に属する道に変わるだろう。ヴァルゼン帝国の軍事力も大幅にあがるだろう。

 ヴォルカンは首を振る。


「ユウトは、ただ戦っただけです。町を守るために……誰よりも、まっすぐに」


 ヴォルカンの言葉に、王はゆっくりと頷いた。


「そうだな。彼は……英雄と呼ぶに相応しいのかもしれん」


 違う。

 胸の中で、ヴォルカンはその言葉を否定した。

 英雄なんかじゃない。ユウトはただ、必死だっただけだ。

 何もかも守れるほど、強くなんてない、ただの少年だった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 ユウト視点

 ◇◇◇◇◇◇


 復興の手伝いが終わるころには、空が茜色に染まっていた。

 風がひどく冷たくて、少しだけ寒気がする。

 リアは城門の前で僕を待っていて、僕を見るなり、ふっと微笑む。


「お疲れさまでした、ユウト」

「うん。いやぁ疲れた……風呂に入って、ベッドに入りたいな」


 思わず苦笑すると、リアはくすりと笑った。

 落ち着く優しい笑み。不思議と心が落ち着く。


「じゃあ、宿屋に戻ろうか」

「ええ。私も、お腹が空きました」


 僕たちは並んで歩く。

 夕暮れの光が、焼けた街並みを柔らかく照らしている。

 傭兵団の仲間たちは、いまだに復旧作業を続けていた。

 焦げた壁に絵を描く子どもたちの笑い声が、ようやく戻ってきている。

 そんな光景を眺めながら、リアがぽつりと呟いた。


「……この感じだと、復興はすぐ終わりそうですね」

「ああ。そうだな」

「ユウト。あなたが、守ったんですよ?」

「それは違う。僕だけじゃない。みんながいたからだよ」


 そう言うと、リアはゆっくり首を振った。


「それでも、ユウトがいたから――私は、戦えたんです」


 真っ直ぐな瞳。嘘のない言葉。

 心臓の奥を、熱いものが通り抜けた。

 だけど、それでも俺の胸には小さな棘が残っていた。


「……テスラが言ってた『道越者』が、今でも気になってるんだ」

「え?」

「声だけ聴いたけど……不気味だった。勝てる気がしなかった……あんな不気味なやつがいるなんて思わなかった……正直、怖い」

「……」


 リアが小さく頷いた。


「私も気になります。それと、ユウトが言っていた『虚環教団(サークルオブヴォイド)』」

「あ、そうだ。その組織……何か知ってるか? ヴォルカン団長に聞こうと思ったけど、忙しくて聞けてないんだ」

「……文献では、遥か昔から存在する、『魂の道』を歩みながら、最も愚かで、最も恐ろしく、最も強大な『道越者(トランセンダー)』と言われています」

「……やばいんだよな」

「はい。八導司ラス・オクタと呼ばれる八人の導司により構成され、それぞれ異なる『魂の道』を歩み、全員が『道越者(トランセンダー)』です。正直……存在しているなんて思いませんでした」

「僕がしゃべったのは、『混沌』を司る液獄導司(えきごくどうし)シェルミナ=ヴァルナって名前だった」

「……また、出会うのでしょうか」


 可能性は高い。というか……僕は全員と会う予感がしていた。


「もっと、強くならないと……このままヴァルゼン帝国で鍛えてもいいけど」

「でも、ここは戦いがあったばかりですし。あ、そうだ」


 するとリアは、本を取り出しペラペラめくる。

 そして、僕にページを見せてくれた。

 それは世界地図。細かい文字がたくさん書かれており、リアは一つの国を指差した。


「でしたら、次はここ……『守護の道』を歩む国、バストリア山岳騎士国に行きましょう」

「バストリア山国、って……そういえばセラから習ったな」


 ここ、ヴァルゼン帝国が『破壊の道』で戦う国だとしたら、バストリア山岳騎士国は『守護の道』で守る国だ。

 山岳地帯にある天然の要塞国家で、『盾の国』とも呼ばれている。

 

「天然の鉱石が山ほど採掘される国で、防具技術では世界最高だとか」

「それだけじゃありません。バストリア山岳騎士国は、世界で有数の『ダンジョン』がある国でもあるんです。そこには、霊触者しか入ることが許されない高難易度のダンジョンもあるそうですよ」

「だ、ダンジョン」


 ダンジョンって確か……そういや、大学の先輩が読んでいた漫画に、『ダンジョン配信』とか『ダンジョン経営』とかいうタイトルがあったような。

 迷宮って意味だよな……よくわからない。


「ユウト。これからも戦いが続くようなら、私たちはもっと強くならないといけません。バストリア山岳騎士国で霊触者昇級試験を受けて、ダンジョンに挑戦しましょう」

「……試験か。そういえば、霊触者ってランクがあったな。僕はまだ六等級のままだ。リアも四等級だよね」

「そうですね。ユウトも、そろそろ等級を上げないといけませんね」

「……だな。よし!! じゃあ、次の目的地は、バストリア山岳騎士国だ!!」

「はい!!」

「おーっ!!」


 と、ここで聞きなれた声、フレイアが僕とリアの間に割り込み、肩を組んできた。


「ふ、フレイア?」

「あんたら、バストリア山岳騎士国のダンジョン行くって? いいじゃん、あたしも行くから!!」

「え……? でも、フレイアさん。爆熱傭兵団は?」

「あたし抜けたくらいじゃ変わんないって。それに、ユウトの長物を使えるようにするって依頼、まだ終わってないしね。それにそれに……あたし、あんたらと一緒にいたいのよ。一緒に冒険したら、すっごく楽しそうって思ったの。ねえ……ダメ、かな」


 最後、フレイアは少しだけしおらしくなった。

 僕とリアは顔を見合わせ、互いに頷いた。


「いいよ。じゃあ、一緒に行こうか」

「ええ。フレイアさんみたいな前衛がいれば、私たちも安定しますから」

「いいの? やったああああ!! よーっし、これからよろしくねっ!!」


 こうして、僕らの旅に『破壊の道』を歩む火属性の霊触者、爆熱傭兵団所属の傭兵、フレイア・ヴァレリアが加わるのだった。


「フレイア、ヴォルカン団長に許可は取ったのか?」

「これから取る。ま、いいでしょ別に」

「だ、ダメですよ!! ちゃんと言わないと!!」


 なんというか……少しだけ不安もあった。まあ、大丈夫かな。

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