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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第二章

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紅蓮の獅子団

 昼下がりの首都フレム・ヴァルザードは、いつもよりざわついていた。

 通りのあちこちで、紅い外套を羽織った兵士たちが巡回している。

 紅蓮の獅子団――帝国直属の魔導師団。

 昨日から噂になっていたが、どうやら本格的に動き出したらしい。


「ねえ、ユウト……ここ数日、『紅蓮の獅子団』がかなり町を歩いてる。これって絶対、探してるのはユウトのことだよね」


 隣でフレイアが串焼きを頬張りながら、ちらりと僕を見る。

 僕はコートについていたフードを被り、リアとフレイアに隠れるように果実水を飲む……この果実水、甘酸っぱくて美味しいな。


「もう、町を歩くのも危険かな……この国を早めに出た方がいいのかも」

「ユウト。その考えには賛同できません」


 リアが、もう七本目となる串肉をモグモグ食べながら言う。


「ユウトが『漂魂者(メイリオン)』という事実は変えることができません。そして、『魂の道』を歩む大きな組織がユウトを狙うことも。その度に、ユウトは逃げるのですか?」

「……それは」

「ユウト。私は、逃げることに賛成しません。ユウトの歩む道は、逃げることじゃありません。だからこそユウトは、戦う力を得ようとしているのでしょう?」

「リア……」

「私も戦います。ユウトの歩む道は、私が守りますから」


 リア……すごくいいことを言ってるんだけど、手に肉串を持ったまま言うのは……うーん。

 でも、間違ったことは言っていない。フレイアも肉串を食べながら言う。


「紅蓮の獅子団は『国家の牙』よ。この捜索っぷりから見て、まるで罪人の捜索ね……ったく」


 フレイアの言葉に、僕は小さく息を吐いた。

 そんな空気を振り払うように、フレイアが明るく言う。


「ま、傭兵団本部にいれば安全でしょ。あいつらが来ても、アタシやオヤジがぶっ飛ばすから!!」

「フレイアさん、国家の牙と自分で言ったでしょう……そんなことしたら、国を敵に回すことになりますよ」


 フレイアが笑い、リアが苦笑する。

 彼女たちの笑顔に、少しだけ心が軽くなった。


 ◇◇◇◇◇◇


 夕方。

 爆熱傭兵団の本部に戻ると、いつもより空気が重かった。

 正門前には、紅蓮の獅子団の紋章をつけた男たちが立っている。


「……ユウト、リア、こっち」


 フレイアに案内され、本部の裏口へ回り、こっそり正門前を伺うことにした。


「……大丈夫。オヤジいるし、十人ぽっちじゃ掠り傷一つ付けられないよ」


 団長、そこまで強いのか……確かにタダ者じゃない気はしてたけど。

 彼らの前で、ヴォルカン団長が腕を組んで睨みつけていた。


「――ここに、『漂魂者』がいると聞いた」


 先頭の男がそう言った。

 声は冷たいが、目はどこか虚ろだ。

 まるで人形みたいに感情が抜け落ちている。


「知らねぇな」


 ヴォルカンの声が低く響く。

 その一言で、周囲の空気が一気に張り詰めた。


「……ならば、力ずくで確認する」


 男が一歩踏み出す。

 次の瞬間、背後の団員たちが一斉に武器を構えた。

 だが、どの動きもどこか不自然だ。

 ぎこちなく、同じタイミングで、同じ呼吸で……まるで。


「おいおい……まるで操り人形だな」


 ヴォルカンが呟いた直後、男の額に青白い紋様が浮かび上がった。

 それは、水面の波紋のように脈打ち、ゆらめいている。

 男の額に浮かぶ青い紋様――その光が、一瞬、波のように広がった。

 ぞわり、と肌が粟立つ。あれは……精霊の反応? いや、違う。もっと、冷たくて、濁ってる。


「――来るぞッ!!」


 ヴォルカンの声と同時に、紅蓮の獅子団の団員たちが一斉に動いた。

 ここにいる紅蓮の獅子団に、霊触者はいない。全員が鉄製の武器を手に襲い掛かってくる。

 団長には三人ほど、残りは傭兵団たちに向かって行く。

 けれど、どれも生気がない。全員の目が有り得ないくらい虚ろだった。

 ……まるで、命令を聞くだけの機械みたいに、僕には見えた。


「オヤジっ!!」


 僕の隣にいたフレイアが、精霊導器を手に飛び出す。

 僕とリアも迷ったが、互いに頷いて飛び出そうとした……が。


「下がってろ!!」


 恫喝とも言える叫びに身体が止まる。

 団長の背中が、一瞬、膨れ上がるように見えた。

 その両手には、精霊導器である黄土色の大槌が握られていた。

 柄を持ち上げた瞬間、地面が低く唸った。


「お前ら……操られてるのか。だったら、正気に戻してやるよ」


 団長の瞳がギロリと輝いたように見え、次の瞬間――轟音が走った。

 大槌が地を打ち、土が爆ぜる。

 その衝撃だけで、紅蓮の団員が三人、まとめて吹き飛んだ。

 地面が裂け、土砂が弾け飛び、砂煙が視界を覆う。

 僕は思わず腕で顔を庇い言う。


「な、なんて威力だ……っ!!」

「オヤジの腕力、精霊力で強化しなくてもアレだからね……すごいっしょ?」

「……恐ろしいですね」


 フレイアはどこか誇らし気に、リアは恐れたように言う。

 ヴォルカン団長は大槌を肩に担ぎ、ふっと息を吐いた。


「ほう、まだやるか」


 砂煙の中から、再び団員たちが立ち上がる。

 足元がぐらついているのに、倒れない。

 血が流れても、呻き声一つ上げない。

 それどころか、さっきよりも速い動きで突っ込んできた。

 リアが言う。


「あれだけの負傷でまだ動ける? それに、あの表情……どう見てもおかしいです!!」


 リアの声が震えている。

 僕もわかる。あの目――完全に意識がないように見える。

 理屈は不明だが、肉体だけが動いてる。

 ヴォルカン団長が舌打ちした。


「……ったく、厄介だ。どういう『精霊術式(エレメンタル・コード)』か知らねえ。だが――」


 彼が大槌をくるりと回すと、槌部分に精霊力が込められる。

 地属性の精霊力……薄ぼんやりと、黄色い輝きが槌を包み込んだ。


「墳ッ!!」


 咆哮のような声とともに、ヴォルカン団長が地を叩く。

 その衝撃だけで地面が揺れ、割れた。その全てが、紅蓮の団員たちを吹き飛ばした。

 地面に叩きつけられ、兵士の一人がぐったりと倒れる……次の瞬間、額の青い紋様がぱちんと弾けた。

 別の紅蓮の獅子団を相手していた傭兵が言う。


「団長っ!! 額の、あの光が消えました!!」

「やっぱりな……あれが精霊術式のキモだ」


 ヴォルカン団長が眉をひそめ、再び大槌を構える。


「つまり、気ぃ失わせればいい。全員、意識なくなるまでブッ叩け!!」

「「「「「応!!」」」」」


 豪快に笑い、地面を蹴った。他の傭兵たちも同じように笑う。

 ヴォルカン団長は巨体とは思えない速さで跳び上がり、空中で大槌を振りかぶり、地面を叩く。

 轟音。衝撃波が走り、残っていた団員たちがまとめて倒れる。

 そのたびに、額の紋様が弾け飛んでいく。

 そして……やがて全員が沈黙した。

 ヴォルカン団長は、大槌を地面に突き立て、肩で息をした。


「ふう……ったく。手加減するのも骨が折れるぜ」


 フレイアが駆け寄る。

 僕とリアも遅れて団長の元へ。


「オヤジ、さすが!! 全員一発で!!」

「こいつら、命までは取ってねぇ。気絶だ」


 僕は倒れた兵士たちを見下ろす。

 全員、まだ息はある。

 けれど、目を閉じたまま、微かに口が動いていた。

 リアと目が合い、倒れた兵士に近づいた。


「――なにか、呟いていますね」

「……リア、気を付けて」


 リアは弓を、僕はハルバードを手に兵士へ近付く。

 すると、兵士は口をパクパク動かしていた。


「……水は、還る……主の、もとへ……」


 その声に、ゾクリとした。

 次の瞬間、倒れた兵士の額から、透明な液体がにじみ出る。

 鏡のような『水の目玉』が、そこに現れた。


「……クソが、てめえかよ……テスラぁ!!」


 ヴォルカンの声が低くなる。

 水面がゆらぎ、その中に顔が浮かんだ。

 氷のような微笑。狂気を孕んだ瞳。


『やぁ、ヴォルカン団長。お久しぶりですね』

「テスラ、てめぇ……!!」


 水鏡から響く声は、どこか楽しげで、どこか壊れていた。


『おやおや、暴れましたね。可哀想に……彼らはただ、私の命令で漂魂者を捜索していただけなんですがねぇ』

「ふざけんな、命令だと……? こいつらは全員、精霊術で操られてるじゃねぇか。テメェの仕業だろうがよ!!」

『おやおや。荒くれの馬鹿傭兵の頭にしては、馬鹿じゃない……操っている? 違いますよヴォルカン。私は『流れ』を整えているだけです。彼らの魂を、より美しく――ね。フフフ……』


 その声が、背筋を冷たく撫でた……僕はゾクリとした。

 水で作られた眼球が、ぐにゃりと歪んでいく。まるで笑っているようだ。


『さあ、漂魂者を渡して下さい。彼は――私たち『混沌』に、還るべきでしょう』

「『混沌』だと? てめえ、ヴァルゼン帝国最強、『紅蓮の獅子団』の団長ともあろう奴が、『混沌』だと……!? テスラ、てめえ、どこまで堕ちやがる!!」

『堕ちるもなにも、私は最初から『混沌』ですよ。おわかりですよね、ユウト・カミシロ』


 組織に潜入している『混沌』……思い当たることは一つしかない。

 リアも、ギリッと歯を食いしばっていた。


「……まさかあなたは、『螺旋教団オロバス』の」

『その通り。組織のモノが、お世話になりました。フフフ……さてユウト・カミシロ。今、あなた方を襲った『紅蓮の獅子団』は、私の精霊術式で操った者です。この意味がおわかりですね? ではユウト・カミシロ……ヴァルゼン帝国、王城までいらしてください。ああ……ヴォルカン、あなたは来ないように。では』


 水鏡が弾け、霧のように消えた。

 その場に、誰も声を出せなかった。

 ヴォルカンが低く呟く。


「……クソが。テスラの野郎……何を考えてやがる」

「狙いは僕だ。くそ、そういうことか……」

「え、え? ちょ、ユウト、どーいうこと?」


 僕は、操られた『紅蓮の獅子団』の団員を見て言う。


「テスラとかいうやつの『精霊術式』は、他人を操る術式で間違いない」

「……あ」


 リアも気付いた。フレイアはまだ気づいていない。

 そして、ヴォルカン団長はハッとなる。


「……おいおいユウト、まさか」

「ええ。恐らく……テスラは、『紅蓮の獅子団』を全員、操ることができる。いや……もうすでに傀儡と化してると思います。それに、王城に来るように言った。この国の王様、重役も全て、操作されている可能性が高いです」

「あの、野郎……!! クソが、おい!! 爆熱傭兵団の団員を全員集めろ!! 王城に殴り込みだ!!」

「待ってください!! ヴォルカン団長、テスラはあなたに来ないよう言いました。恐らく……あなたを嵌める罠か何かあるはず。それに、もし団長が城に乗り込んでいる間に、『紅蓮の獅子団』が城下町で無差別に暴れ出したら……」

「……チッ、そういうことか」

「はい。団長は、城下町の防衛を」

「……行くんだな?」

「はい。やるしかない……」


 僕が、テスラを倒すしかない。

 するとリアが言う。


「ユウト。私も行きます」

「駄目だ。わかるだろ? 僕の『孤独の道』は、一人じゃないと」

「一人にはしません。それに、『孤独の道』を歩むユウト一人より、弱くなったユウトが私と一緒に戦った方が強いと思います」

「……リア」

「単純な『力』じゃありません。私と、あなたの頭脳を組み合わせて、戦いましょう」

「……わかった。じゃあ、一緒に行こう」


 リアと頷き合う……すると、僕とリアの間に、赤い斧槌が割り込んだ。


「ちょっとちょっと……誰か忘れてない?」

「フレイア……きみは爆熱傭兵団の人間だし、団長たちと」

「冗談!! まだ、契約は続いてる。依頼完了するまでは、アンタの護衛。オヤジ、いいよね!!」

「あ~……好きにしな!! さぁて、野郎ども!! 装備を整えて町へ行くぞ!! 『紅蓮の獅子団』が来るぞ!!」


 ヴォルカン団長は、傭兵たちを連れて行ってしまった。

 残されたのは、僕、リア、フレイアの三人。


「僕らで、テスラと戦うことになると思う……みんな、覚悟を決めよう」

「はい。私は、大丈夫です」

「フン!! アタシが焼いて叩いてブッた斬ってやるわ!!」


 僕は拳を握りしめた。

 『混沌』が、また動き始めてる。そして、僕は――その標的だ。

 でも、僕は逃げない。 たとえ『混沌』が世界を呑み込もうとしても―― 僕は、僕の魂の道を歩む。孤独でも、決して止まらない。

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