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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第二章

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訓練、不穏

 朝日が首都フレム・ヴァルザードを照らしていた。空気そのものが熱を帯び、地平線が揺らめいて見える。鉄と火花の匂い。ここはまさに『炎の国』だと理解させてくる。

 早朝……僕とフレイアは向き合っていた。

 そして、フレイアが肩に担いだ長物を、僕の前へ放った。


「はい、これ貸す。今日から本格的に長物の扱い、覚えてもらうからね!!」


 金属音が鳴る。両端に刃と槌が付いた、爆熱傭兵団特製の訓練用武器だった。

 僕は地面に落ちた棒を拾い、思わず眉を上げた。


「……おい、これ、ただの棒じゃないだろ。重っ……!?」

「当たり前でしょ? 精霊導器だと重さ感じないし、筋力アップも兼ねて獲物はそっちを使ってね」

「うおお……おっもい。霊触者で身体能力高いはずなのに、重い」

「そりゃ霊触者用の棒だしね。はいはい頑張れ頑張れ。お、みんなおはよー!!」


 彼女は笑って、早朝訓練に来た団員たちへ手を振った。

 訓練場には見学者がちらほら。その中に、巨大な斧を背負った男――フレイアの父であり、爆熱傭兵団団長ヴォルカンの姿もあった。


「おーうフレイア!! 手ぇ貸して欲しい時は言えよー!!」

「はいはい!! オヤジはそっちの新人鍛えてあげてー!!」


 どうやら、ヴォルカン団長は新しく爆熱傭兵団に加入した傭兵たちを鍛えるようだ。何人かの新人はフレイアを見て頬を染めていた……まあ、可愛いもんな。

 さて、僕も……!!


「……よぉし!!」


 僕は深く息を吸い、意識を集中させた。

 精霊力で身体能力を強化し、棒を手にクルッと回転させ、昨日フレイアに教わった構えを取る。


「よし……!」

「いい感じ。じゃ、軽く行くよー」

「え、い、いきなり……っ」


 構えた瞬間、フレイアが目にも止まらぬ速さで突っ込んできた。

 炎を纏った棒が、稲妻のように空気を裂く。

 反射的に受け流す――が、衝撃で腕が痺れた。


「悪くないじゃん」

「これで『軽い』とか言うなよ……!!」


 次の瞬間、火花が弾けたように身体が自然と動いていた。

 ただ防ぐだけじゃない。流れを読む。

 フレイアの棒の先端を見極めながら、僕は自分の棒を合わせていく。

 

「ユウト、精霊力を使って棒の先っぽに火を通す!!」

「火……!!」


 精霊力で火。僕は無意識に、棒の先端に火を灯す。

 そして、フレイアに向けて棒を振り下ろすと、フレイアは難なく受け止めた……が、ほんの少し驚いたように目を開き、ニヤッと笑う。


「──おっ?」

「おおおお!!」 


 渦を描くように踏み込み、棒の先端の部分でフレイアの棒を弾き返す。

 フレイアが少し目を見開いた。


「……へぇ、やるね」

「行くぞ、フレイア!!」


 訓練は一時間ほど続いた。

 最後には僕の呼吸も乱れ、武器を地面に突き刺す。

 ヴォルカンがゆっくりと近づいてきた。


「悪くねぇ。だが、覚えとけ。火は暴れるもんじゃねぇ」

「……?」

「燃やしたいものを、自分で選ぶ。そうすりゃ、どんな炎もお前の味方だ。」


 彼の言葉は、焼けた鉄よりも重く響いた。

 そうか……切っ先を燃やした炎、ただ燃やしただけだ。もっとこう、洗練された炎……うん、考えることも大事かもしれないな。


 ◇◇◇◇◇◇


 昼過ぎ。

 訓練を終えた僕とリア、フレイアの三人は街へ出た。まだまだ見所が多い首都フレム・ヴァルザードをフレイアが案内するためだ。

 フレイアの案内で、鍛冶屋や武具市場を回る。どこもかしこも熱気に包まれていて、金槌の音が鳴り止まない。


「ここの職人たちはね、戦争のたびに腕を上げてきたの。アタシら霊触者と違って、他の人は武器が必要になるからね」


 フレイアが楽しげに笑う。その横顔は、炎のように生き生きしていた。

 小腹も空いたので、近くの串焼き屋で肉串を買い、三人で食べる。


「うんまっ……塩味、うまい」

「タレも美味しいよ。ユウト、ちょっとちょーだい」

「あ、わ、私のあげますから!!」


 フレイアが僕の串に喰らいつこうとしたので、リアがガードする。

 僕らは笑い、食事を楽しんでいた……だが、そんな空気の中で――ふと耳に入った言葉が、僕の心を冷やした。


「おい、聞いたか? 『紅蓮の獅子団』があちこちで探し物してるって」

「帝都に潜んでる『漂魂者』を捜索してるらしいな。あれっておとぎ話じゃないのか?」


 手にしていた串焼きが、少しだけ震えた。

 漂魂者――それは間違いなく、僕のことだ。

 話を聞いたリアが小声で言う。


「……ユウト、早めに宿へ戻りましょう。」


 フレイアの笑顔も消えていた。


「ねえ、ウチに来たほうが安全よ。あの連中、国家直属だから、手加減しない」


 俺は小さくうなずいた。

 また、狙われるのか――そんな考えが頭をよぎる。けれど、不思議と心は冷静だった。

 逃げるだけじゃ、何も変わらない。戦う覚悟……今のうちに、しておくべきかもしれない。


 ◇◇◇◇◇◇


 夕方、僕たちは爆熱傭兵団の本部へ戻った。

 ヴォルカンに事情を話すと、彼は無言で立ち上がった。


「『漂魂者』か……こまけぇこたぁ、と言いてえけど、狙われてんなら話は別だ……紅蓮の獅子団が動いてるとはな。面倒な連中だ」

「オヤジ、知ってたの?」

「ああ。最近、紅蓮の獅子団を町中で見かけてたからな。あそこの団長であるテスラに話聞こうとしたら、『漂魂者』を発見したから捜索してる。手ぇ貸せって言われてな……そういやユウトもンなこと言ってたなと思ってよ。ユウト……お前、マジな『漂魂者(メイリオン)』なんだな」

「……はい」


 団長はわずかに笑い、俺の肩を叩いた。


「『漂魂者(メイリオン)』ってのは新しい魂の道を開拓するんだろ? つまり自由ってこった。紅蓮の奴ら、どうせユウトを自分の都合に合わせた『魂の道』を歩ませるとか、そんなこと考えてるに違いねぇ。オレぁそういうのは嫌いなんだ。ここを嗅ぎつけたら、オレが相手をする」

「でも、それじゃ――」

「いいんだよ。ユウト、お前も誰かに決められた道なんざ歩きたくねぇだろ? オレも同じだ。お前は自由に歩けばいいさ」


 その言葉に、僕は胸が熱くなった。

 ヴォルカン団長は、僕の味方だ……それがとても嬉しかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 一方その頃。『紅蓮の獅子団』の団長テスラ


 ◇◇◇◇◇◇


 同じ夜。

 帝都中央区、紅蓮の獅子団・作戦本部。

 暗い部屋の中で、一人の男が報告書を読んでいた。

 銀髪を撫でつけ、淡く笑うその男――名を、テスラ。

 テスラの部下は、テスラがどこか上機嫌に報告書を呼んでいると思っていた。

 そして、彼は机の上の指令書を軽く叩いた。


「漂魂者。ユウト・カミシロ。優先確保対象……まったく、国家命令とは便利な言葉だ」


 部下が恐る恐る尋ねる。


「団長。その……本当に国家命令なんですか? これは――その」


 すると、テスラは口の端を歪めた。


「命令だとも。帝国が許可したのだよ……『破壊の道』を歩む国家が、漂魂者を捕らえ、『破壊の道』を歩ませよと命じたのだ。ククク……破壊の道を歩む漂魂者は、どのような道を作るのか」


 テスラは部下に「引き続き捜索しろ」と命じる。

 すると机の隅あった、銀色の皿に水を満たした『水鏡』が揺らぎ、そこに女の顔が浮かぶ。

 浮かんだ顔は、液獄導司(えきごくどうし)――ミシェルナ。


『テスラくんの嘘つき~……破壊の道なんて、歩ませるつもりないでしょ?』


 テスラは薄く笑い返した。


「そうですね。私は『混沌』ですので……漂魂者を捕らえたあとは、もうここに用はありません」

『そ。ふふふ……わたしのトモダチも、漂魂者に会いたがってるわ。テスラく~ん、お願いねぇ』

「お任せください。必ずや、捕縛します」

『うん。じゃあ……私から、プレゼントあげちゃう』

「え?」


 すると……水鏡の水が、まるで『手』のような形になった。

 驚愕するテスラ。そして、その手がいきなりテスラに襲い掛かり、顔面を鷲掴みした。


「お、おごっ、おごごごごご!?」


 テスラの口の中に、『水の手』が入り込んでいく。

 身体が浮かび、テスラは手足をバタつかせる。そして、テスラはピクリとも動かなくなり……そのまま床に落ちた。

 テスラの喉から泡立つような音が漏れる。水が肺に入り、心臓が凍りつくような痛み――だが次の瞬間、熱に変わった。


『おはよぉ~? どうどう?』

「……力がぁ、漲り、ます!!」


 ボコボコと、テスラの全身に血管、神経が浮かび上がった。

 膨大な量の精霊力が漲り、テスラは鼻血をぼたぼた零す。だが、まるで気にしていない。


『私の道越者(トランセンダー)としての力の一部を与えたわ。さあ……もう、あなたは自由。あなたの思い通りに、なんでもしていいの。わたしの可愛い、テスラちゃん』

「……お、ォォぉ、おおおおおおおおお!!」


 テスラの髪が逆立ち、全身の筋肉が脈動する。

 テスラは優雅に一礼し、顔を歪め笑うのだった。

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