爆熱傭兵団
さて、翌日。
今日はフレイアにハルバードの使い方を学ぶ。
とはいえ、さすがに宿屋の前で精霊導器を振り回すわけにもいかない。
どうすべきかリアに聞く。
「やはり、町の外に出るしかないのでは?」
「……それしかないか。フレイア、いいかな」
「えー? そんなめんどくさいことしなくても、ウチでやればいいじゃん」
「ウチ? 家ってまさか……」
フレイアは「うん」と頷いた。
「『爆熱傭兵団』の本部。都市郊外にあるけど、そこなら広いし、訓練場もあるよ。そこでアタシが長物を手取足取り教えてあげる!!」
「傭兵団本部……」
リアと顔を合わせる。
うーん、正直……ちょっと怖い。
あまり知識はないけど、傭兵って荒くれ者のイメージだ。行くなり絡まれたりしないかな……でも、フレイアがいれば大丈夫かな。
リアは言う。
「フレイアさんがいれば大丈夫でしょう。それに、私もいますから」
「……そ、そうだな。うん、じゃあフレイア、頼むよ」
「いいけど、ウチは別に危険じゃないから警戒しなくていいって!!」
こうして、僕たちは『爆熱傭兵団』の本部へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
フレイアに案内されてやってきたのは、帝国西の外れ。
黒い岩肌がむき出しの荒野――『灰の峡谷』と呼ばれる場所だった。
そこに、まるで火山をそのまま削り出したような砦が建っている。
「ここが、爆熱傭兵団の本部!」
フレイアが胸を張って指差す。
正門には炎と大斧をイメージした紋章が刻まれ、赤い旗が風に揺れていた。
入口からすでに、炎と鉄、そして汗の匂いがした。
「たっだいまー!!」
正門脇にあったドアを開けて中に入ると、屈強な団員たちが声を張り上げながら訓練していた。
武器を打ち鳴らし、笑い合い、叱咤する。
そのすべてが、戦うために生きる者たちの音だった。
そして、フレイアを見た傭兵の一人が言う。
「おーい!! フレイア嬢が帰ってきたぞ!!」
「団長の娘だ!! また無茶してきたな!!」
冗談交じりの声に、フレイアは舌を出して笑った。
彼女がここでどれほど慕われているかが、言葉を交わさずとも伝わってきた。
「……すごい熱気だな」
思わず呟くと、隣のリアがやや警戒して言う。
「ええ。まるで空気も燃えているようですね……こういう場所は私も初めてです」
「僕も経験がないよ。でも、女性もけっこういるな」
そのとき、影が落ちた。
視線を上げると、砦の奥から一人の巨躯が現れた。
大地そのものを背負っているような存在感。
鋼の鎧を纏い、両刃の大斧を肩に担いでいる。
「あ、オヤジ……じゃなくて団長!! ただいまー!!」
「おーうフレイア。なんだなんだ、客人連れて遊びにでも来たのか? っと……フレイアの客なら挨拶しねぇとな」
フレイアが駆け寄る。
大男は、僕に向かってニカっと微笑み、手を差しだした。
「ヴォルカン・ブラスト。爆熱傭兵団団長だ。よろしくな、客人」
名乗る声は、岩を砕くように低く響いた。
片目に鉄の眼帯、腕は岩のように太い。だがその瞳は、不思議と静かだった。
握手を返すが、握力がとんでもない。
この人も霊触者だ。精霊力を感じるけど……間違いなくセラより強い。たぶん二級か一級の霊触者だ。
リアとも握手をし、フレイアに聞く。
「んで、遊びに来たのか? うちに茶菓子なんてあったかね」
「違う違う。ここに来たのはユウトを鍛えるため。ユウト、新しい精霊導器に慣れないといけないから、アタシに長物の使い方教わりたいって」
「……新しい精霊導器だぁ?」
新しい精霊導器なんて言い方、混乱するよな。
というか……『孤独の道』のこと、他の人に言っていいのかな。いや別に隠すことでもないのか?
いやでも、前はそれが原因で狙われたし……うーん。
「まあこまけぇこたぁどうでもいいか!! んで、長物だって? ユウトだったか、おめぇの精霊導器、見せてみな」
「え、あ……はい」
なんか大雑把な感じの人だな……僕は『精霊導器』を具現化する。
二メートルほどのハルバートだ。本来はたぶん、でかい『斧槌』なんだろうけど。でも今はリアもフレイアもいるから『孤独』じゃない。
ヴォルカンさんは僕のハルバードをジッと見る。
「ん~……いい精霊導器なんだが、なんだぁ? なんつーか……強い精霊導器が、ひどく弱くなった感じするな」
「……!!」
「ちょっとオヤジ!! ユウトはアタシのお客なんだから、手出し無用!! とりあえず訓練場借りるね。あと長物、テキトーに借りるから!!」
「おう。ま、オレもヒマだし見てやる。さ、行こうぜ!!」
「え、ええと」
「あ、こらー!!」
「わ、私はどうしたら……」
ヴォルカンさんに押され、僕は訓練場に向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
さて、訓練場に到着した。
僕の手には火属性のハルバード。対してフレイアは鉄の棒を手にしていた。
「さてユウト。今日からみっちり、長物の使い方を叩き込むからね!!」
「……みっちり、ね」
爆熱傭兵団の本部裏にあるその広場は、金属板と黒砂で覆われ、訓練用の武器が壁にずらりと並んでいた。傭兵たちも訓練をしており、視線がこちらに向いているのがわかる。
僕たちから少し離れた位置に、ヴォルカンさん、リアが見ていた。
「さぁてユウト、構えて!!」
とりあえず……適当に構えてみる。
フレイアは首を振り、僕の方へ。
僕の腕をとって姿勢を直す。距離が近くて、心臓の鼓動が少しだけ早くなった。
「腰を落として、両手で支えて――そうそう。あとは火の精霊力を精霊導器に流すの」
「流す……?」
「火は力。暴れさせちゃだめ、静かに芯を通すの。ほら、ユウトの中の炎を、少しだけ動かして」
言われるままに意識を集中させる。
胸の奥の精霊力――燃え盛る炎を抑え、細く、穏やかに槍へと通す。
すると、槍の先がかすかに朱色に光った。
「そうそう。風と火の精霊力が同じ使い方なのかは知らないけど、精霊導器に精霊力を流すのは同じ。刃が燃えて、熱を持つ……この状態なら、岩もスパッと切れるかもね」
フレイアが笑い、僕から離れる。
次の瞬間、彼女の棒の先がこちらに迫る……速い!!
反射的に受け止めた瞬間、腕がしびれた。
「重っ……!!」
「長物は力じゃなくて流して!! 力で受けるな、滑らせて!!」
「は、はい!!」
言われた通り、槍を横に流すように捌く。
ガキィンと金属が鳴り、火花が散った。
ほんの一瞬だけ、二人の槍が紅く光を放った気がした。
「そうそう。いい、力は必要ない、槍の基本は受け流し!! さあ、いくよ!!」
「は、はいっ!!」
そこからは何度も打ち合いだ。
突き、受け、回し、転がり――地面に何度も叩きつけられた。
それでも、立ち上がる。
どれくらい時間が経過したのか、大汗を流し肩で息をする僕に対し、全く疲労がないフレイアは言う。
「よし、いい感じ。ユウト、最後にもう一発!!」
「──っ!!」
フレイアの突きを受け流し、反撃の一撃。
柄の部分で押し返すと、槍先が彼女の腕をかすめた。
「おおっ!? ……やるねぇ!!」
「そっちこそ……」
息を整える。腕も足も痛い。けど、不思議と楽しかった。
鍛えられてる実感――それが心地よい。
と、背後から低い声が響いた。
「なるほどな。悪くない」
ヴォルカン団長だ。
近づいてきた彼はフレイアの棒を奪い、軽く構えてみせた。
それだけで、空気が震えた気がした。
「長物は、命を預ける覚悟がなければ振れん。お前、火の力を押さえ込もうとしすぎだ」
「……押さえ込む?」
「火は『破壊』じゃない。強い意思だ。自分を燃やしてでも貫く、その意志があってこそ、火は道を開く」
彼の声は低く、重かった。
戦場を知る者の声だ。
「ユウト。お前の炎はまだ『揺れて』いる。だが――その揺らぎこそ、生きている証だ。大事にしろ」
ヴォルカン団長が僕の肩を叩く。岩のような手だが、不思議と温かかった。
僕は、ヴォルカン団長に頭を下げる。
「……ありがとうございます」
「おう。フレイア、今日の稽古、悪くなかった。こいつ、筋がいい」
「でしょ? 見る目あるでしょアタシ。ユウトは化けると思う。ふふん、アタシが鍛えて最強にしてやるわ!!」
「調子に乗るな。お前もまだまだだ」
「えぇ~!? オヤジ、辛口~!!」
フレイアがむくれる。その横で、ヴォルカン団長は微笑んだ。
普段は鉄のように無表情な顔が、少しだけ柔らかく見えた。




