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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第二章

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20/70

爆熱傭兵団

 さて、翌日。

 今日はフレイアにハルバードの使い方を学ぶ。

 とはいえ、さすがに宿屋の前で精霊導器を振り回すわけにもいかない。

 どうすべきかリアに聞く。


「やはり、町の外に出るしかないのでは?」

「……それしかないか。フレイア、いいかな」

「えー? そんなめんどくさいことしなくても、ウチでやればいいじゃん」

「ウチ? 家ってまさか……」


 フレイアは「うん」と頷いた。


「『爆熱傭兵団』の本部。都市郊外にあるけど、そこなら広いし、訓練場もあるよ。そこでアタシが長物を手取足取り教えてあげる!!」

「傭兵団本部……」


 リアと顔を合わせる。

 うーん、正直……ちょっと怖い。

 あまり知識はないけど、傭兵って荒くれ者のイメージだ。行くなり絡まれたりしないかな……でも、フレイアがいれば大丈夫かな。

 リアは言う。


「フレイアさんがいれば大丈夫でしょう。それに、私もいますから」

「……そ、そうだな。うん、じゃあフレイア、頼むよ」

「いいけど、ウチは別に危険じゃないから警戒しなくていいって!!」


 こうして、僕たちは『爆熱傭兵団』の本部へ向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 フレイアに案内されてやってきたのは、帝国西の外れ。

 黒い岩肌がむき出しの荒野――『灰の峡谷』と呼ばれる場所だった。

 そこに、まるで火山をそのまま削り出したような砦が建っている。


「ここが、爆熱傭兵団の本部!」


 フレイアが胸を張って指差す。

 正門には炎と大斧をイメージした紋章が刻まれ、赤い旗が風に揺れていた。

 入口からすでに、炎と鉄、そして汗の匂いがした。


「たっだいまー!!」


 正門脇にあったドアを開けて中に入ると、屈強な団員たちが声を張り上げながら訓練していた。

 武器を打ち鳴らし、笑い合い、叱咤する。

 そのすべてが、戦うために生きる者たちの音だった。

 そして、フレイアを見た傭兵の一人が言う。


「おーい!! フレイア嬢が帰ってきたぞ!!」

「団長の娘だ!! また無茶してきたな!!」


 冗談交じりの声に、フレイアは舌を出して笑った。

 彼女がここでどれほど慕われているかが、言葉を交わさずとも伝わってきた。


「……すごい熱気だな」


 思わず呟くと、隣のリアがやや警戒して言う。


「ええ。まるで空気も燃えているようですね……こういう場所は私も初めてです」

「僕も経験がないよ。でも、女性もけっこういるな」


 そのとき、影が落ちた。

 視線を上げると、砦の奥から一人の巨躯が現れた。

 大地そのものを背負っているような存在感。

 鋼の鎧を纏い、両刃の大斧を肩に担いでいる。


「あ、オヤジ……じゃなくて団長!! ただいまー!!」

「おーうフレイア。なんだなんだ、客人連れて遊びにでも来たのか? っと……フレイアの客なら挨拶しねぇとな」


 フレイアが駆け寄る。

 大男は、僕に向かってニカっと微笑み、手を差しだした。


「ヴォルカン・ブラスト。爆熱傭兵団団長だ。よろしくな、客人」


 名乗る声は、岩を砕くように低く響いた。

 片目に鉄の眼帯、腕は岩のように太い。だがその瞳は、不思議と静かだった。

 握手を返すが、握力がとんでもない。

 この人も霊触者だ。精霊力を感じるけど……間違いなくセラより強い。たぶん二級か一級の霊触者だ。

 リアとも握手をし、フレイアに聞く。


「んで、遊びに来たのか? うちに茶菓子なんてあったかね」

「違う違う。ここに来たのはユウトを鍛えるため。ユウト、新しい精霊導器に慣れないといけないから、アタシに長物の使い方教わりたいって」

「……新しい精霊導器だぁ?」


 新しい精霊導器なんて言い方、混乱するよな。

 というか……『孤独の道』のこと、他の人に言っていいのかな。いや別に隠すことでもないのか?

 いやでも、前はそれが原因で狙われたし……うーん。


「まあこまけぇこたぁどうでもいいか!! んで、長物だって? ユウトだったか、おめぇの精霊導器、見せてみな」

「え、あ……はい」


 なんか大雑把な感じの人だな……僕は『精霊導器』を具現化する。

 二メートルほどのハルバートだ。本来はたぶん、でかい『斧槌』なんだろうけど。でも今はリアもフレイアもいるから『孤独』じゃない。

 ヴォルカンさんは僕のハルバードをジッと見る。


「ん~……いい精霊導器なんだが、なんだぁ? なんつーか……強い精霊導器が、ひどく弱くなった感じするな」

「……!!」

「ちょっとオヤジ!! ユウトはアタシのお客なんだから、手出し無用!! とりあえず訓練場借りるね。あと長物、テキトーに借りるから!!」

「おう。ま、オレもヒマだし見てやる。さ、行こうぜ!!」

「え、ええと」

「あ、こらー!!」

「わ、私はどうしたら……」


 ヴォルカンさんに押され、僕は訓練場に向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、訓練場に到着した。

 僕の手には火属性のハルバード。対してフレイアは鉄の棒を手にしていた。


「さてユウト。今日からみっちり、長物の使い方を叩き込むからね!!」

「……みっちり、ね」


 爆熱傭兵団の本部裏にあるその広場は、金属板と黒砂で覆われ、訓練用の武器が壁にずらりと並んでいた。傭兵たちも訓練をしており、視線がこちらに向いているのがわかる。

 僕たちから少し離れた位置に、ヴォルカンさん、リアが見ていた。


「さぁてユウト、構えて!!」


 とりあえず……適当に構えてみる。

 フレイアは首を振り、僕の方へ。

 僕の腕をとって姿勢を直す。距離が近くて、心臓の鼓動が少しだけ早くなった。


「腰を落として、両手で支えて――そうそう。あとは火の精霊力を精霊導器に流すの」

「流す……?」

「火は力。暴れさせちゃだめ、静かに芯を通すの。ほら、ユウトの中の炎を、少しだけ動かして」


 言われるままに意識を集中させる。

 胸の奥の精霊力――燃え盛る炎を抑え、細く、穏やかに槍へと通す。

 すると、槍の先がかすかに朱色に光った。


「そうそう。風と火の精霊力が同じ使い方なのかは知らないけど、精霊導器に精霊力を流すのは同じ。刃が燃えて、熱を持つ……この状態なら、岩もスパッと切れるかもね」


 フレイアが笑い、僕から離れる。

 次の瞬間、彼女の棒の先がこちらに迫る……速い!!

 反射的に受け止めた瞬間、腕がしびれた。


「重っ……!!」

「長物は力じゃなくて流して!! 力で受けるな、滑らせて!!」

「は、はい!!」


 言われた通り、槍を横に流すように捌く。

 ガキィンと金属が鳴り、火花が散った。

 ほんの一瞬だけ、二人の槍が紅く光を放った気がした。


「そうそう。いい、力は必要ない、槍の基本は受け流し!! さあ、いくよ!!」

「は、はいっ!!」


 そこからは何度も打ち合いだ。

 突き、受け、回し、転がり――地面に何度も叩きつけられた。

 それでも、立ち上がる。

 どれくらい時間が経過したのか、大汗を流し肩で息をする僕に対し、全く疲労がないフレイアは言う。


「よし、いい感じ。ユウト、最後にもう一発!!」

「──っ!!」


 フレイアの突きを受け流し、反撃の一撃。

 柄の部分で押し返すと、槍先が彼女の腕をかすめた。


「おおっ!? ……やるねぇ!!」

「そっちこそ……」


 息を整える。腕も足も痛い。けど、不思議と楽しかった。

 鍛えられてる実感――それが心地よい。

と、背後から低い声が響いた。


「なるほどな。悪くない」


 ヴォルカン団長だ。

 近づいてきた彼はフレイアの棒を奪い、軽く構えてみせた。

 それだけで、空気が震えた気がした。


「長物は、命を預ける覚悟がなければ振れん。お前、火の力を押さえ込もうとしすぎだ」

「……押さえ込む?」

「火は『破壊』じゃない。強い意思だ。自分を燃やしてでも貫く、その意志があってこそ、火は道を開く」


 彼の声は低く、重かった。

 戦場を知る者の声だ。


「ユウト。お前の炎はまだ『揺れて』いる。だが――その揺らぎこそ、生きている証だ。大事にしろ」


 ヴォルカン団長が僕の肩を叩く。岩のような手だが、不思議と温かかった。

 僕は、ヴォルカン団長に頭を下げる。


「……ありがとうございます」

「おう。フレイア、今日の稽古、悪くなかった。こいつ、筋がいい」

「でしょ? 見る目あるでしょアタシ。ユウトは化けると思う。ふふん、アタシが鍛えて最強にしてやるわ!!」

「調子に乗るな。お前もまだまだだ」

「えぇ~!? オヤジ、辛口~!!」


 フレイアがむくれる。その横で、ヴォルカン団長は微笑んだ。

 普段は鉄のように無表情な顔が、少しだけ柔らかく見えた。

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