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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第二章

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19/70

首都フレム・ヴァルザード

 翌朝。

 目を覚ますと、日がすでに上っていた。

 宿の窓を開けると、朝焼けの中で煙突の群れが一斉に白煙を上げている。聞こえてくるのは工場の稼働音だろうか……その音は、まるで街全体が息をしているみたいだった。


「おっはよー、ユウト!」


 元気すぎる声が廊下から響く。

 寝ぼけた僕の部屋の扉を勢いよく開けたのは、案の定フレイアだ。


「今日の案内コース、ばっちり考えてきたから!! まずは鍛冶街ね!!」

「……おはよう。リアは?」

「もう準備してる。ほらほら、朝ごはん朝ごはん」


 フレイアは笑いながら僕の手を取りベッドから引きずり出す。昨日、あんなに酒を飲んだとは思えないほど元気いっぱいだ。

 どうやら、今日一日がっつり観光案内してくれるつもりらしい。

 着替えて宿の一階にある食堂に行くと、すでにリアがきちっと座って待っていた。


「おはようございます。ユウト」

「おはよう……ふぁぁ」

「ふふ、まだ半分寝ているみたいですね」


 酔いつぶれていたリアとは別人みたいにキリッとした笑顔だ。

 席に座ると、朝食が運ばれてくる。

 パン、スープ、ベーコンに目玉焼き、サラダ、デザート。ドリンクは水で、ピッチャーも用意された。

 パンは食パン。バターにジャムもある……異世界とは思えないほど、ビジネスホテルで食べる朝食みたいだ。しかも食後にコーヒーも出てきたし。

 食後のコーヒーを飲む僕とリアを見て、フレイアが言う。


「うっわ、コーヒーって大人の飲み物じゃん……アンタらアタシと同じ十六歳でしょ? 研究者って大人なんだね~」

「あなたも飲めば大人になれますよ。さ、フレイア」

「い、いらないし。アタシは水でじゅうぶん!! よし、ご飯食べたし出発するよ。まずは鍛冶街に案内するね!!」


 フレイアは立ち上がると、そのまま宿の外へ。

 僕とリアは顔を見合わせ、フレイアに追いつくためにコーヒーを一気に飲み干すのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ヴァルゼン帝国の中心街――通称『鉄火の大通り』。

 両脇には鍛冶屋がずらりと並び、炎と金属の匂いが渦巻いていた。

 槌の音、溶鉄のうねり。ここでは『破壊』すらも、創造のための音楽に聞こえる。

 フレイアは、大きな煉瓦造りの建物に入るなり言う。


「見て見て、この工房。ここの親方、世界でも三本指に入る職人なの!」


 フレイアが駆け足で案内していく。

 作業場では、炉が赤く輝き、鉄を柔らかく包み込んでいた。

 高齢の、だが筋骨隆々の男性が槌を振るい、鉄を打ちのめしている。

 リアはすぐに気付いた。


「この感じ……火属性の精霊力ですか?」

「うん。帝国の技術。親方は火属性の霊触者で、精霊力を燃料に変換して炉の火力を上げてるんだよ。親方の戦場はここで、相手は魔獣じゃなくて金属。これぞ破壊の芸術!!」


 フレイアは誇らしげに言うと、親方と呼ばれた男性の手が止まる。


「……たく、静かにしねえか娘っ子。手元が狂っちまう」

「ごめんごめん。親方、今日もいい男っぷりだね!!」

「やかましい。んで、お客さんかい?」

「んん、観光者。観光案内で、親方の鍛冶場来ただけ」

「……あー、他に見るとこなんざいくらでもあんだろ。ワリィな坊主に嬢ちゃん、おい娘っ子、仕事の邪魔ぁしねぇでまともなところ案内しな」

「えー、ここ面白いのに。ねえ、ユウトにリア」


 フレイアが言う。うん……正直なところ、鍛冶作業なんて初めて見るから面白さしかない。

 リアも、興味津々と仕事を見ていた。


「親方、二人とも見たいってさ」

「……ったく」


 フレイアがニヤニヤすると、親方は「デカい声出すんじゃねぇぞ」と仕事を再開した。

 鍛冶……霊触者である僕らは精霊導器があるから必要ないけど、やっぱり武器はあるとカッコいいな。


 ◇◇◇◇◇◇


 次に訪れたのは、金属製品の市場。

 武器だけでなく、装飾具や義肢、僕が見てもわからない専門的なパーツが並んでいる。

 金属が人の生活に溶け込んでいるこの国では、『熱』と『鉄』そのものが文化なのだ。

 リア、フレイアは露店の前に立ち、アクセサリーを眺めている。


「ここのアクセ、かわいくない? リアに似合いそう!!」

「そ、そんな……その、可愛いのは、あまりに合わないというか」


 照れるリアを見て、フレイアが満足そうに笑う。

 その無邪気さに、僕はふと心が和む。


「ね、ユウトも見てよ!! リアってイヤリング似合うと思わない? ネックレスとかもいいけどさ、これとか、これとかさ」

「ふ、フレイア……」

「うーん、僕に審美眼はないから、何とも言えないけど……」


 アクセサリーを見ると、エメラルドグリーンの宝石が埋め込まれたシンプルなイヤリングがあった。

 僕はそれを手に取り、リアに渡す。


「これとかどう? リアの髪色に合うと思うんだけど」

「え、あ……」

「ほほーう。ユウト、やるじゃん」

「あと……フレイアにはこれ。フレイアは活動的だしさ、ネックレスやイヤリングより、腕輪とかのが似合うんじゃないかな」

「……へ? あ、アタシも? うー、なんか照れるね」


 僕は支払いをする。

 二人は「あ」と声を揃えた。


「ちょ、か、買ったの?」

「え……ダメだったかな」

「い、いえ……あ、ありがとう、ございます」

「あ、アタシもその、ありがと……あはは、男の子からプレゼントもらうの初めてかも」


 ……しまった。普通に買ったけど、これってプレゼントだよな。

 男女交際の経験とかないからわからないけど、同世代の女の子にプレゼントを買うってどうなのかな。なんか恥ずかしくなってきたかも……うう。

 するとフレイアは腕輪を付けて言う。


「よ、よし。じゃあ次行こうか!!」


 照れ隠しのように歩き出すフレイアを、僕とリアは追いかけるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 夕刻。

 最後に案内されたのは、街の中央にある巨大な祭壇だった。

 炎を象った柱が八本、円形に並び、中央には『炎の精霊神像』があった。

 フレイアはその前で足を止め、振り返った。


「これが、最初に発見された『炎の精霊神像』だよ。ヴァルゼン帝国領内には精霊神像がいくつかあるけど、これが最初に発見されて、そこにヴァルゼン帝国ができたんだって」

「すごい、興味深いですね……装飾も普通とは違います。風の精霊神像にも最初の一体目がありますけど、炎の精霊神像とは装飾が違う。製作者は別? ふむふむ」


 リアは興味深そうにスケッチを開始。

 フレイアは僕に言う。


「ここが『破壊の道』の始まりなんだ。なんか、すごいよね」


 フレイアの言葉は、炎よりも真っ直ぐだった。

 すると……僕の首筋がチリッとした。


(……ん?)


 誰かに見られていたような……? 

 気のせいだろうか?


 ◇◇◇◇◇◇


 ??????


 ◇◇◇◇◇◇

 

 ヴァルゼン帝国、首都フレム・ヴァルザード。

 とある地下空間にある玉座に、一人の女性が座っていた。

 その女性の前に、深紅のローブを着た男が跪いている。


「『漂魂者(メイリオン)』ユウト・カミシロが、この首都フレム・ヴァルザードに入ったようです」

「ふぅん」


 女性は、ウェーブがかった水色の髪を軽く払い、人差し指でクルクル巻く。

 スリットの入ったドレスを纏い、組んだ足を組み換えると、染み一つない生足が地下の炎に照らされる。跪いた男はつい凝視してしまうが、すぐに顔を伏せた。

 女性は立ち上がる。肩が剥き出しのドレスなので、胸元もよく見えてしまう……まるで、男を誘うような恰好だった。

 女性は指を鳴らすと、水の玉に包まれた白いコートが浮かび、ゆっくりと女性の元へ。

 水玉が爆ぜると、女性の肩にコートが掛かった。


「学術都市国家じゃ、ヴィルくんにシェルくん、イリアちゃんがヤられちゃったのよねぇ……テスラくん、アナタにユウト・カミシロくんの捕縛、任せていいかな?」

「はっ、お任せください」

「どうやって捕まえる? ふふ、わたし、聞いてみたいなぁ~」


 女性は前屈みになり、わざと胸元を見せつける。

 女性の部下であり、『螺旋教団オロバス』最後の使徒であるテスラは、試されていると理解した。


「……『紅蓮の獅子団』を使います」

「へえ? 面白そうじゃない」

「はい。個人ではなく、組織として『漂魂者(メイリオン)』を手に入れる。それが私の策です」

「ふぅぅん。じゃあ、好きにやってごらん。もしできたら……ご褒美、あげちゃうね~」


 女性は投げキッス。テスラの目が欲望に染まり、女性の身体を舐めるように見た。

 そして、敬礼をして出て行った。

 女性は、コートを肩にかけたまま玉座に座り直し、欠伸をする。


「ふあ……『螺旋教団オロバス』も、ここまでかなぁ」


 かつて、エレメンティア精霊研究所を襲った三人の霊触者。それが属している『螺旋教団オロバス』の教主である女性。 

 今、残っているのはテスラだけ。それ以外の三人は捕縛された。

 女性は軽く伸びをすると……玉座に置いてあった通信機が鳴った。

 耳に当てると、『仲間』の声が響いた。


『会合を開く。導司たちは全員、集合せよ』

「りょうか~い。あのさあ、少し遅れるかも……ふふ、理由聞きたい?」

『……手短に言え』

「『漂魂者(メイリオン)』が、わたしのいる町に来てるから。ふふふ、ちょっと遊んじゃうかもね~」


 それだけ言い、女性は通信を切り、通信機を水玉に投げ捨てた。


「ふふ。テスラくん、頑張ってねぇ。わたし、ちゃ~んと見てるから」


 女性にとって『螺旋教団オロバス』は、ただの遊び道具の一つ。

 他にも様々な組織を作り、少数精鋭で遊んでいるが……女性が本来所属している組織は違う。


 虚環教団サークル・オブ・ヴォイド

 

 八人で構成される、それぞれが『魂の道』を歩む最低最悪の霊触者集団。

 全員が『道越者(トランセンダー)』であり、圧倒的な力を持つ組織。


「『漂魂者(メイリオン)』……ふふ、どんな子かしらねぇ」


 虚環教団・八導司(ラス・オクタ)の一人、『混沌の道』を歩む液獄導司(えきごくどうし)ミシェルナ=ヴァルナは、今後ユウトがどうなるのか、ワクワクしながら待つことにするのだった。


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