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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第二章

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ヴァルゼン帝国

 国境を抜けた先は、岩石地帯とまでは言わないが、かなりの荒れ地だった。

 岩石が転がる街道。川も流れ、木々もあるが……風景的には学術都市国家アルヴ・ノアの方が自然あふれていた。でも、これはこれで悪くないと僕は思う。

 やがて、岩原が途切れた。

 フレイアが少し駆け出し、僕らに向き直ると両手を広げる。


「見えてきた、ようこそ、あれがヴァルゼン帝国だよ!!」


 遠く、地平の向こうに赤い光が見える。

 それは炎ではなく──文明の光だった。


「……アルヴ・ノアとは全く違いますね」


 リアが言う……確かにその通りだった。

 地平を覆うように広がる黒鉄の都市。

 巨大な煙突群が赤い煙を上げ、空中には金属の橋がいくつも交差している。

 城壁の代わりに、火山を模した溶鉱の塔が連なり、夜空を照らしていた。


「すごいな……全体的に黒と赤が目立つな


 鉄と炎の都市──ヴァルゼン帝国首都、フレム・ヴァルザードだったかな。

 その中心にそびえる巨大な構造物が、まるで“燃える王冠”のように輝いている。


「……これが、『破壊こそ創造』の国……」


 リアが呟く。

 その目に、わずかな恐怖が宿っていた。


「こっから先は、いろんな意味で戦場だよ」


 フレイアは軽く笑い、精霊導器を地面に突き立てる。


「帝国はね、常に実戦中。兵士も学者も商人も──みんな戦ってる。だから……油断しないでね」


 ユウトはその言葉に目を細める。


「大丈夫。僕たちは流れに飲まれはしない」

「いいねぇ、その目。そういう奴、嫌いじゃないよ」


 フレイアが笑った瞬間、背後の地面が小さく揺れた。

 遠くの岩山で、何かが爆発したような轟音。

 夜空に赤い閃光が走る。


「な、なんだ……!?」


 遠くから見ていたから理解できたが、理解できない光景だった。

 フレム・ヴァルザードの周囲にある火山のような煙突から、真っ赤な煙が火山のように噴き出したのだ。リアはそれを見て驚愕する。


「あれは、精霊力……!? でも、あれほどの精霊力、一人の霊触者が操れる量じゃありません。まさか、『道越者(トランセンダー)』……!?」

「ああ、違う違う。あれ、ヴァルゼン帝国の兵器開発部がやってる、『精霊兵器』の実験だね。数時間おきに、毎日毎日、あんな爆発みたいなのおきるんだ」

「せ、精霊力を、兵器に……まさか、そんなことが」


 驚愕するリア。

 フレイアは頷く。


「精霊力を操れるのは、魂の道を歩む人の中でも選ばれた霊触者だけでしょ? だから、誰でも精霊力を扱えるようにするための兵器を、ヴァルゼン帝国の兵器開発部は作ってるの。主導は『紅蓮の獅子団』……帝国が誇る最強の騎士団だよ。ま、アタシら『爆熱傭兵団』のライバルね!!」

「兵器開発……」

「うん。ねえユウト、アタシの勘だけど……ユウトっていろんな精霊力を使えるかもしれないんだよね。そういうの、紅蓮の獅子団とかに知られない方がいいかも」

「…………」


 まったくもってその通り。

 僕はリアに確認する。


「なあリア。『混沌』って、どこにでもいるんだっけ……」

「……用心はしましょう。フレイアさん、護衛の方、よろしくお願いしますね」

「まっかせて。さ、首都案内するよ。泊りはどうする? いい宿いっぱいあるよ!!」


 こうして、僕たちは『破壊の道』の総本山でもある、ヴァルゼン帝国に到着した。


 ◇◇◇◇◇◇


 夜のヴァルゼン帝国の町は、まるで炎が息づいているみたいだった。

 首都フレム・ヴァルザード。

 石造りの建物の窓からは橙の光が漏れ、通りには鉄と煤の匂いが混じっていた。

 もう夜だったので、案内は明日になった。

 宿を取り、フレイアの案内で向かったのは、喧騒がすごい酒場だ。


「さあさ、歓迎会だよ!!」


 両腕を広げて叫んだのは、もちろんフレイアだ。

 日中、あれだけ歩いたっていうのに、彼女の体力は底なしだ。


「元気だなあ。フレイア、疲れてないのか?」

「傭兵の体力ナメちゃダメよ? 研究者のお二人には厳しかったみたいだけどね、でもお酒飲んでいっぱい騒げば大丈夫だいじょーぶ!!」

「言っておきますけど、私はまだ余裕ですので。あと……護衛依頼に関しては終わりですね。依頼は王都までの護衛でしたから


 リアが淡々と言うと、フレイアは「んー」と唸って笑った。


「でもほら、まだ案内残ってるでしょ? それに、ユウトに長物の使い方も教えなきゃだし。っていうかさ……アンタらと一緒にいるの、けっこう楽しいし。同い年だもんね」

「……それは助かりますが」


 リアはわずかに眉をひそめながらも、拒まなかった。

 たぶん、フレイアの底抜けな明るさに呑まれたんだろう。


「まずはねー、この町の名物、『火精の鍋』食べよ!! 溶岩の上でぐつぐつ煮るやつ。す~っごくおいしんだから!!」

「溶岩……それ、危なくない?」

「うん、たまに焦げる。でも旨い!!」


 酒場は盛り上がっており、僕らは外のテーブルで、夜風に吹かれながら鍋をつつく。

 鍋……正直、かなり辛い。でも、キンキンに冷えたビール……この世界じゃ「ファトエール」って言う酒がかなり進んだ。

 ちなみにこの世界、驚いたことに飲酒の年齢制限はない。子供でも飲めるが、苦みのあるシュワシュワした飲み物を好んで飲む子供はいないそうだ。まあ、大人の味ってやつだ。

 僕も、大学の飲み会や教授に誘われて酒を飲んだことはある。正直、酒は嫌いじゃない。


「お~、ユウトけっこう飲めるじゃん」

「まあ、けっこう好きな味……おかわり」

「わたしもおかわり!! うぃっく」


 そしてリア……意外と酒癖悪い。頬を染め、木製ジョッキを掲げる。

 フレイアもジョッキを飲み干し「おかわり!!」と叫んだ。定員さんが三人分のジョッキを持ってきて再び乾杯する。

 酒、食事と楽しんでいると……酒場の向かいから声が聞こえて来た。


「うおぉら! このクソ鍛冶屋、納期守れって言っただろうが!」


 声の主は、分厚い鎧を着た男たち。赤獅子の紋章が刻まれたマントを纏っている。

 フレイアが小さく舌打ちした。


「……あれ、『紅蓮の獅子団』だ。帝国直属の討伐団。気ぃつけてね、気が荒い連中だから」

「討伐団……あれが?」

「うん。帝国が誇る最強の騎士団で、自分たちに逆らう者には容赦しないのよ……見ての通り荒々しいチンピラみたいな連中ばかり。まあ、アタシたち傭兵とは犬猿の仲ってやつ」


 フレイアの声に、リアが少しだけ表情を曇らせた。

 僕も、どこか居心地の悪さを覚える。

 逆らう霊触者を狩る……もし僕の『異質な力』が知られたら、どうなるだろう。

 その考えが、喉の奥に重く沈んだ。

 フレイアが、僕をチラッと見てジョッキを掲げる。


「よし、もういっかい乾杯!! ユウトの新しい発見に!!」


 僕もリアも、苦笑しながら杯を合わせる。

 辛い鍋はやっぱりうまい。香辛料の刺激が、旅の疲れを吹き飛ばしてくれる気がした。

 しばらく酒を飲み、頬を染めたフレイアが言う。


「ねえ、ユウト」


 不意に、フレイアが真面目な声で言った。


「『壊すこと』って、悪いと思う?」

「……急だな」

「アタシさ、ずっと考えてんの。壊して、焼いて、潰して……それで何が残るのかって」


 酔っているのだろう、哲学的な質問だ。正直、フレイアがこういう質問をするとは思わなかった。


「確か、フレイアの団長の教えは『破壊の中に創造がある』だろ?」

「うん。でも最近、それが怖いんだ。壊すのは簡単だから」


 彼女の瞳に、火ではなく迷いが揺らめいていた。

 その瞬間、僕は理解した──フレイアは、『破壊の道』を信じながらも、そこにある『空しさ』を感じている。


「アタシがもっと賢かったらさ、壊して作るだけじゃない……壊さなくてもいい、そんな風に思えるかもしれない……なんて、ヘンかな」

「変じゃないよ。というか……それは、旅の理由になるかもしれないな」

「旅の、理由……か」


 フレイアはジョッキを傾け、赤い光を見上げた。

 その瞳の奥に映るのは、壊すための炎ではなく──まだ知らない明日だった。

 僕が言うと、彼女は少し驚いた顔をして笑った。


「……じゃ、アタシもいつか旅に……ふぁぁ」


 フレイアは大あくびをした。けっこう飲んだし眠いのだろう。

 リアを見ると……なんと、机に突っ伏して寝ていた。

 フレイアはそのまま寝てしまった。あれ……これ、どうすればいいんだろうか。


「ええと……これ、僕がなんとかしないといけないのかな」


 今日はもうお開きだ。

 僕は何とか二人を起こし、宿まで運ぶのだった。

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