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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第二章

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17/70

フレイア・ヴァレリア

 焦げた岩原を抜ける風は、まだ熱を帯びていた。

 夕方になり、空には薄紫の月が浮かんでいた。

 

「……ん~、この辺りでいいかなあ」


 フレイアは肩に担いだ巨大な斧槌を軽く回しながら、鼻歌を歌っている。

 その足取りはまるで傭兵というより、『踊る兵器』といったところだ。

 夕方になってもまだ暑い。フレイアは、岩石地帯でも比較的涼しい場所を探し、そこで一夜を明けることを提案。暑さと疲労もあって、僕らはその提案を受け入れた。

 フレイアとの契約は『道中の護衛』と『国の案内』だ。食事などはこっちが用意する

 暑いのであまり食欲は湧かないが、フレイアが狩った魔獣の肉をリアが解体し、スープに入れる。

 食事中、僕はフレイアに聞いてみた。


「ところでフレイア。きみ、本当に帝国の人間なのかい? ヴァルゼン帝国の軍人、ってことでいいのかな……傭兵団のこと、よくわからないから教えてほしい」

「おー、けっこう護衛依頼受けて来たけど、そういう質問初めてかも……んー、アタシが帝国の人間っていうのは、半分だけね」


 フレイアは笑った。ツインテールが炎のように揺れる。


「アタシも『爆熱傭兵団』の連中も、帝国の軍人ってわけじゃないよ。『爆熱傭兵団』は国に雇われる形だけど、実際は独立組織。契約で動くだけ。気に入らない戦は、やらない主義。まあ出身もここじゃないしね」

「……自由だなあ。それも『破壊の道』なのか?」

「でしょ? 『破壊の道』ってのは、そういうこと。形を壊して、そこから何かを作る。戦いも、命も、街も。ぜーんぶ壊してこそ意味があるってオヤジ……団長が言ってた」


 フレイアは「にしし」と笑った。

 すると、スープを掬っていたスプーンを止めてリアが言う。


「破壊の中に創造がある……けれど、それは秩序を壊すことにも繋がります」

「うん。だから世界は回る。誰かが作って、誰かが壊す。風もそうでしょ? 吹いて、散らして、また集める。壊して、形を変えるの」


 リアは言葉を詰まらせる。

 その比喩が、あまりに的確だったから、何も言い返すことができなかったんだろう。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 それから数日、岩石地帯を通った。

 フレイアのおかげで、比較的楽なルートを通って進めた。道中、魔獣も出たがすべてフレイアが粉砕した……戦いが本職なだけあって強い。

 僕とリアも援護しようと思ったがフレイアが止める。


「大丈夫だいじょーぶ、研究者さんは身の安全だけ守ってて。戦いはアタシの仕事だからね!!」

「む……」


 なぜかリアが少しムスッとしていた。

 ちなみに、フレイアを雇う金は、アルトリウスがくれたお金で出した。

 僕は、フレイアが持つ精霊導器を見てリアに聞く。

 

「『破壊の道』の精霊導器は、斧……いや、槌?」

「精霊導器の形状は霊触者によって異なります。私たちの弓だって、同じ形のものは存在しません。一説によると、霊触者の『心の形』と言われています」

「心の形……それは面白い仮説だな」


 話していると、フレイアが来た。


「面白い話してるね~、ちなみにアタシの精霊導器、斧でぶった切れるし、槌で叩き潰せるし、お得なのよね~!! オヤジ……じゃなくて団長も『うやましい』って言ってたし!!」

「属性も炎だし、フレイアは超攻撃型って感じだな。性格的に……『精霊術式』や『魂絶技』も超攻撃型とみた」

「お? やっぱわかっちゃう? んふふ、ユウトって頭いいねぇ~」


 フレイアが肘でぐりぐり突いてくる。距離も近いし、胸が当たりそうになるんだが……すると、リアが間に割り込んでフレイアに言う。


「こほん!! ところでフレイアさん。岩石地帯はいつ抜けれますか?」

「ん~? もうちょい。たぶん夕方前には出れるよ。国境砦の町はけっこう大きいからさ、今日はお風呂も入れるし、ベッドでぐっすり眠れるよ!!」


 それは朗報だ。

 正直、暑い岩場で寝るのはかなりきつかった……ベッドが恋しいよ。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 やがて、岩原が途切れた。

 遠く、地平の向こうに赤い光が見える。それは炎ではなく──文明の光だった。


「見えた見えた。あれが国境の町。あの先にあるでっかい砦見える? あの先がヴァルゼン帝国の本領地。いちおう、この岩石地帯も領内なんだけど、場所が場所だからねー……まあ、あそこから先がヴァルゼン帝国ってことで」

「わかった。いやー……ようやく岩石地帯とおさらばだ」

「……お風呂、入りたいです。髪もベタベタですし、服も着替えたい」


 僕らはフレイアの案内で町へ向かう。

 その途中、分かれ道があり、小さな林に囲まれた道があった。


「こっちの道は?」

「ああ、そっちには『炎の精霊神像』があるのよ」

「……興味ありますね。私、他属性の精霊神像は見たことがありません」

「見る? 一年に一回、町の人が掃除してるのよ。最近、掃除したばかりだから綺麗だと思うよ」


 僕らは町へ入る前に寄り道し、炎の精霊神像の元へ。

 整備された道を通り、僅かな林道を進んでいくと……見えた。

 

「これが、炎の精霊神像ですか……大精霊の形状は人ではないのですね」

「そ。アタシはカッコいいと思うけど~」


 炎の精霊神像は、ヘビ……いや、ドラゴンか。

 東洋の龍といえばいいのか。長い身体は蜷局を巻き、ドラゴンの顔、そして口には赤い宝石のような石を咥えている。

 リアは神像をスケッチし、フレイアは見飽きているのか欠伸。

 そして、僕は。


「…………」

「ん、ユウト、どしたの?」

「……ユウト?」


 導かれるように、精霊神像の前に立った。

 そして……精霊神像に触れる。


「──っ!!」


 精霊神像が咥える赤い石が輝いた。

 そして、僕の中に燃えるような赤い力が沸き上がって来る。


「やっぱり、そうか……!!」


 僕は右手に精霊力を込めると、深紅の炎が燃え上がった。


「はぁ!? ちょ……ユウト、火属性!? うそ、風属性じゃないの!?」

「……これは、驚きですね」


 フレイアは仰天、リアも眼鏡を押さえ僕を凝視する。

 僕は右手を突き出すと、『精霊導器』が現れた。

 イメージは、フレイアの『斧槌』だ。だが……手に現れたのは、やけに貧相な『斧槌』だ。

 これはあれだ、歴史の授業で学んだ……『ハルバード』だ。ヨーロッパで使われた騎兵や重装歩兵に対抗するための武具。

 なるほど。フレイアの巨大な斧槌が貧相になると、ハルバードみたいになるのか……正直、これはこれで悪くない。


「せ、精霊導器まで変わる……『破壊の道』に影響しているのですか?」

「ど、どういうこと? てかユウト、アンタってなんの『魂の道』歩んでんの?」


 僕は精霊導器を消し、リアとフレイアの元へ。


「どうやら僕、精霊神像に触れると、その土地に関する属性、精霊導器を使えるようになるらしい……なるほど、これはいいな」


 まだまだ検証は必要だが、使える属性が増えることはマイナスではない。『孤独の道』は仲間がいると戦闘力ダウンになると思っていたが……この万能さを使いこなせば問題ないかもしれない。


 ◇◇◇◇◇◇


 町に入り、宿を三部屋取り、リアとフレイアは僕の部屋に来た。

 僕は、フレイアに『孤独の道』を歩むために、世界を回っていることを説明する。


「はぁぁ~……『漂魂者(メイリオン)』なんて伝説の存在かと思ってた。でも、あんなの見せられたらねぇ……世界を旅かあ」

「伝説……ヴァルゼン帝国では『漂魂者(メイリオン)』のことは伝わってるのか?」

「おとぎ話だよ。学術都市国家みたいに研究なんてしてないからね。『漂魂者(メイリオン)』が歩む道は、新たな魂の道となる』くらいしかわかんない」


 フレイアが肩をすくめると、リアが言う。


「ユウトの『孤独の道』は、恐らく全ての属性、精霊導器を使うことができる……ということでしょうか」

「たぶんね。検証は必要だけど……でもこれで、『孤独の道』の厄介な制約をある程度カバーできる」


 僕は手に風を纏わせ、右手で弓を手にした。


「『風』の属性も、精霊導器も使える。属性を切り替えれば……うん、使える」


 風を止め、手に火を灯す。

 だが、精霊導器はハルバードに変わってしまった。


「どうやら、弓のまま火属性はできないみたいだ。属性を変えると、精霊導器も変わる。火属性の弓とか、風属性のハルバードとかはムリかあ」

「それでも、ユウトの戦術の幅は広がりましたね。火属性の状態での『精霊術式』や『魂絶技』も考えないといけませんね。それに、私との訓練では弓だけでしたので、長物を扱う訓練も必要になりますね」

「だよなあ……でもこれで、リアとの旅は確実に続けられるね」

「……そ、そうですね」


 リアは照れたのか、そっぽ向く。

 するとフレイアが言う。


「なになに。長物使いたいならアタシ教えよっか? アタシ、武器は大物だけど、槍とか剣とかもフツーに使えるよ」

「そりゃありがたい。依頼の内容に訓練も追加しておくよ」

「うんうん。ところでさ……ユウトにリア、『孤独の道』を歩むために、世界中を見て回るんだっけ。それって具体的にどうすんの?」

「どうすんの? って……そうだな、その国の文化とか組織形態、国家運営のこととか、『魂の道』の信念とか見て学ぶ……うん、観測するのが目的だよ」

「なるほど。つまり、『観光しながら世界を回る』ってことね!!」


 …………あ、あれ? なんか否定できないぞ。

 僕は思わず考え込んでしまう。


「とりあえず、ヴァルゼン帝国の首都フレム・ヴァルザードだね。そこなら、ユウトとリアの観光も捗ると思うよっ!!」

「いや、観光……うーん」


 こうして、この日はフレイアの案内で、美味しい食事処や酒場巡りをした。

 リアが意外に酒豪だとか、フレイアと盛り上がったとかあるけど……僕は久しぶりに、楽しい時間を過ごすのだった。

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