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メイリオン・クロニクル~魂導の旅路~  作者: さとう
第二章

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孤独の代償

 森の入口で、野営の支度をした。

 テントを張り、川で汲んだ水を煮沸、町で仕入れた乾燥野菜を入れてスープを作り、パンを食べた。

 その後、リアの淹れたコーヒーを飲みながら、僕の不調の原因を推測し、説明した。


「『孤独の道』……私が仲間になったから、孤独じゃなくなったから、ユウトが弱くなった……?」

「……たぶん。いや、間違いないと思う」

「……そんな」


 リアがカップを強く握ったのが見えた。僕は先手を打つ。


「言っておくけど、リアのせいじゃないよ。むしろ、これから先はリアがいないと困る場面が多い。ここで旅を抜けるなんて、僕は嫌だ」

「……ユウト」

「まだ検証しないとわからないけど、確実なことがある」


 僕の歩む魂の道、『孤独の道』。

 一つ、一人の場合だと使える精霊力は多く、『精霊導器』も強力になり、『精霊術式』や『魂絶技』の規模も大きく、威力が高い。

 二つ、仲間がいると一気に弱体化する。普通の霊触者よりも下、武器も技も弱体化する。

 三つ、試しにリアを視界に入れず戦ってみたが変わらなかった。


「……たぶん、僕自身が『リアがいない』ことを自覚しないと、ずっと弱体化したままだ」

「私がいない場合、とは」

「そうだな……例えば、迷宮で迷子になって『ああ、一人か……』って自覚すれば、『孤独の道』の特性は戻ると思う。リアが木の影とかに隠れて視界にいなくても、『リアは近くで隠れている』って僕がわかってるとダメだと思う」

「……ユウト」

「リア。何度も言うけど、ここで抜けるなんて言わないでくれ。僕はキミがいないと、岩石地帯だってまともに行けるかどうか」

「……そうですね。わかりました、ではユウト、あなたのことは私がしっかり守りますので!!」

「うん。って……特性は失ってるけど、僕はまだ霊触者だし、精霊力も使えるよ。ちゃんと戦うから安心してくれよ」

「はい。では、私は水浴びをして、仮眠しますね。五時間後に起こしてください」

「え、いや、僕が先に」

「ダメです。ユウト、野営をしたことないんでしょう? いきなり夜の番はさせられません。ここは、私にお任せを」

「……わかった」

 

 時間的に、今は夜の七時くらい。今から五時間後だと十二時くらいまで寝れる。その後僕が寝るとなると、朝までぐっすりだ……男としては逆がいいけど。

 でも、野営なんてしたことないし、正直不安もある……ここはお言葉に甘えて。


「あ、ユウト……こっちに来ないでくださいね」

「わ、わかってるよ」

「はい。では」


 リアは近くの川へ。

 僕は、追加の薪を足しながら、手元に『精霊導器』である弓を手にした。

 

「……すっかり貧相になって」


 オリンピック選手が使うような弓から、狩猟民族が使う木の弓か。

 まあ、仕方ない。


『チチチ……』

「ん? おお、人懐っこいな……」


 僕は、近くに来たリスみたいな尻尾の長い動物に、ドライフルーツの欠片をあげた。

 リスはドライフルーツを手にすると、すぐに近くの木に登って食べ始めた。


「……はあ。これからどうなるかなあ」


 とりあえず……リアの足を引っ張ることがないようにだけはしないとな。


 ◇◇◇◇◇◇


 森は一本道で、魔獣も出ずにすぐに抜けられた。

 だが、森を抜けると熱気……そして、目の前は木々があまりない岩石地帯だ。

 

「すごいな……森と、岩石地帯と、測ったように境界が分かれている」

「この岩石地帯は、すでにヴァルゼン帝国の領土です」

「普通、国境には砦とか、フェンスとかあるんじゃないのか?」

「フェンスとは? えー、ここは危険地帯なので、国境砦は岩石地帯を抜けた先にあるんです」

「……危険地帯か。やっぱり、魔獣も?」

「出ます。私がメインで戦いますので、ユウトは補佐をお願いします」

「ああ、わかった」


 僕たちは岩石地帯に入った。

 森に入ったのは早朝で、岩石地帯に入ったのはお昼ごろ……太陽が真上に昇る頃には、空気が歪むほどの熱気に包まれていた。

 地面の岩は灼け、靴底が焦げそうなほどだ。


「……暑い!!」

「水は少しずつ飲んでくださいね」

「ああ、熱中症に気を付けないとな……」


 リアは汗を拭いながら、弓を握っていた。ここはもう危険地帯……どこで魔獣が出るかわからない。

 風を司る僕とリアにとって、この『熱の海』は最悪の環境。

 風が吹けば吹くほど、熱を運んでくる。

 ──その時だった。僕は、地面を見て違和感を感じた。


「……リア、止まれ」

「ユウト?」


 岩の影。

 地面に広がる影が、一瞬揺れた。

 次の瞬間、地面を突き破って黒光りする殻の魔獣が姿を現した。

 リアは舌打ちし、弓を構える。


「『マグマ・ビートル』です!! 熱を吸収し、甲殻に熱をため込む魔獣です!!」


 見た目はカブトムシっぽい。声帯がないのか特に威嚇したり唸ったりはしなかった。が……岩みたいな外殻をした巨大なカブトムシは、ビジュアル敵に最悪の気持ち悪さだ。

 僕とリアが即座に弓を構えるが、矢が甲殻を弾かれる。

 火花が散る。


「っ……硬い!」

「くっそ、あの外殻は弓じゃ貫けない!!」


 僕は歯を食いしばりながら、岩陰へと跳び退く。

 風陣蝶を展開するも、動きが鈍い。

 十匹も飛ばず、すぐに空気の熱に負けて霧散してしまう。


(やっぱり、リアがいると……力が出ない……!!)


 ふと、気付いた。

 周りは岩だらけ、しかも暑い。


「ユウト、後退を!! 私が前に出ます!!」

「いや、待ってくれ……考えがある」


 僕は汗まみれの額を拭い、岩場を見回す。

 あちこちの岩から蒸気のような白煙が立ち昇っていた。


「この熱は……やっぱりそうだ。このニオイ……地面の下に火山性ガスが溜まってる!! ──リア、あの裂け目を狙え!!」


「え、でも……」

「いいから!!」


 リアが矢を放つ。

 矢が岩の裂け目に突き刺さった瞬間──!!


 ボンッッ!! と、爆発。

 地面が爆ぜ、マグマ・ビートルの下にあった岩が崩落。

 超高温のガスが一気に噴き出し、魔獣を包み込む。


『ギィィィィ!!』


  だが、完全には倒れない。

 甲殻が融けながらも、なおも突進してくる。


「まだ動けるのかよっ!」

「ユウト、下がって!! 術式展開、『ウィンド・シード』!!」


 リアが地面に矢を突き刺す。リアの精霊術式『ウィンド・シード』は風の種……どう成長させるかはリア次第。


「術式解放、『エア・サークルエッジ』!!」


 マグマ・ビートルがリアの術式に踏み込んだ瞬間、足元から無数の風刃が噴き上がり、脚を切り裂く!


「よし……!! もっともっと、精霊力を込めて……!!」


 僕は短く息を吸い込み、弓を構えた。

 弱体化した『貧相な弓』──だが、狙いだけは狂わない。


「術式展開、『風蝶陣(ふうちょうじん)』」


 風蝶を、魔獣の周囲に配置。熱上昇気流の流れを読む。


「風の渦を、矢に変えろ──!」


 僕は、リアの風陣の中に矢を通す。

 矢は陣を通過するごとに加速し、最後には風を纏った光の槍となった。


「行けぇっ──!!」


 矢が、マグマ・ビートルの頭部を貫通。

 内部に溜まっていた熱気が逆流し、体内から爆発した。


 轟音。炎と煙。吹き飛ばされる岩片。

 ……そして、静寂。

 燃え尽きた甲殻の破片が、カランと転がる。

 リアが息をついた。


「……倒しましたね。ユウトの指示がなければ、あの魔獣には勝てませんでした」

「リアが風陣を張ってくれたおかげだよ。……僕一人じゃ、できなかった」

「『孤独』じゃなくても、二人なら戦える……ですね」


 リアの言葉に、ユウトは目を伏せ、そして静かに笑った。


「そうだな……孤独じゃなくても、戦えるってこと、もっと証明しないとな」


 風が吹き抜ける。

 熱風の中でも、確かに涼しい一陣だった。


 ◇◇◇◇◇◇


 マグマ・ビートルの巨体が灰になり、『核』が転がった。

 辺りは再び静寂に包まれた。

 風の残滓が、焦げた岩の上を優しく撫でていく。


「……なんか疲れたな」

「はい。……ですが、ユウト、気をつけてください。この気配……」


 リアが弓を再び構えた。

 その表情に緊張が走る。


「どうした?」


 その瞬間、地面が爆ぜた。

 岩盤が割れ、マグマのような光を宿した影が地中から這い出す。

 巨大な六本足。全身が灼熱の鉄殻に覆われた、マグマ・ビートルの親玉。

 背中の亀裂から赤い光が脈動している。


「……どうやら、マグマビートルの親玉、でしょうか」

「ビッグマグマビートル、とでも名付けるか……って言ってる場合じゃない。リア、やばいぞ。後退を──!!」


 僕は再び風陣蝶を展開しようとするが、弱体化し、さらにさっき死力を尽くしたせいか熱気に押し負ける。風蝶は形成される前に蒸発し、視界が揺らぐ。


「ちっ……ダメだ」

「ユウト、熱波が来ます!!」


 ビッグマグマビートルが口を開き、灼熱のブレスを放つ。

 地面が融け、空気が爆ぜた。

 風の壁を作ろうとするも、熱で押し返される。

 絶体絶命──その時だった。


「……はいはーい!! 初回サービスの一撃でーっす!!」」


 ゴウンッ!! と、風を切裂いて何かが現れた。

 巨大な影が空から降ってきて、僕とリアの間に着地した。

 炎を切り裂くように、赤い閃光が走る。

 次の瞬間──マグマビートルの巨体が、真っ二つになった。


「……え?」

「な、何が──」


 粉々になった甲殻が崩れ落ちる。

 その中心に、巨大な武器を肩に担いだ少女が立っていた。


 真紅の髪を高く結んだツインテール。

 真紅の、やや露出の多い鎧。

 片側が斧、もう片側が槌という異形の両刃武器を軽々と構え、肩で息をついている。


「こんな危険地帯を二人で行くのは危ないよ? ねえ、傭兵、雇わない?」


 にこっと笑って、片目をつぶる。

 炎の残光を背に、まるで舞台女優のように。


「あ、今の討伐の一撃は初回サービスね。どう? 安くするよ?」


 ユウトとリアは、顔を見合わせた。

 リアが一歩前に出て問いかける。


「……あなたは?」


 少女は得意げに胸を張った。


「おっと。名乗りが遅れたね。あたしはフレイア・ヴァレリア。ヴァルゼン帝国『爆熱傭兵団』の団長の娘。属性は『火』で、魂の道は『破壊』だよ」


 武器の柄を地面に突き刺す。

 熱波が一気に広がり、地面が蒸気を上げた。


「『破壊こそ創造の母』──って言葉、知ってる? うちの国のモットーなんだ」


 リアが言っていた……炎と鉄の国、ヴァルゼン帝国。

 軍事独裁国家にして、世界最強の火力を誇る『戦の国』。

 昨日聞いた話では、百年前に『秩序の国』と百年戦争を繰り広げたという、伝説の国家だ。


「こっちの方向から来たってことは……あんたたち、アルヴ・ノアの研究者でしょ? 旅の途中? この先の国境は軍区だから、通るのには申請が必要だよ。でも、アタシがいれば素通りできちゃうよ!!」


 フレイアは楽しそうに笑い、武器を軽く振り上げた。

 その瞬間、地面に残ったマグマの熱が一瞬で冷える。

 まるで炎を制御しているようだ。


「さて──どうする? 仲間にしてくれるなら、護衛も案内も、ぜんぶ引き受けるけど?」


 リアが僕を見る。

 僕は悩んだ……つまり、リアを仲間にするということだ。


(『孤独の道』……けど、今は──)


「……雇わせてもらおうか。ヴァルゼン帝国までは、まだ遠いしな」

「よし、交渉成立!」

 

 フレイアは笑って、拳を突き出した。

 拳を軽く合わせた瞬間──岩石地帯の奥、赤い光が再び揺れた。


「お、マグマビートル、まだいるみたい。ふふん、じゃあ研究者サマは休んでていいよー」


 その中で、フレイアの瞳が一瞬だけ鋭く光った。

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