どこへ行く?
さて、現在僕とリアの二人で、学術都市国家アルヴ・ノアの町で買い物をしていた。
大きなリュックを買い、そこに旅で必要になる道具をとにかく入れる。
「テント……は、一つでいいですね。野営時には片方は見張りをしますので。あとは野営道具、鍋やフライパン、ナイフに食器、あとは着火道具。私とユウトは風属性なので火起こしが苦手なんですよね」
「だね。あとは調味料と、食料は……」
「食べられる野草、木の実、果実などは私が見分けられます。魚も釣りをすれば確保できますし、外の世界では食べられる魔獣も多いので肉なども大丈夫です。そうですね……水筒を買いましょう」
こうして、必要なモノを全て買い、僕とリアは町の適当な飲食店へ。
これからのことについて、僕は思ったことを相談する。
「とりあえず、学術都市国家アルヴ・ノアに一番近い国はどこかな。もしかして『秩序』かな……?」
デズモンド。セラさん曰く「いい人」らしいけど……第一印象が最悪だったから、まだいろいろとこの世界での経験が浅い間は行きたくない。
リアは少し考えて言う。
「……確かに『秩序の道』の総本山、聖秩序国家アストリアは近いですが……正直、私はあまり近づきたくないですね。他にもあることはありますが……」
「……危険な国? まさか、『混沌』とか……」
「いえ。……正直、『混沌』より厄介です」
リアは、水を一口飲んで唇を湿らせて言う。
「『破壊の道』を歩む、軍事国家、『ヴァルゼン帝国』です」
「は、破壊……なんだか物騒だな」
「『混沌』は狡猾で、寝首を掻くような卑劣さが特徴ですが……『破壊』に属する人たちはその……あまり頭が良くないというか、とにかく好戦的です。この国にもありますが、『破壊の道』を歩む傭兵団、『爆熱傭兵団』はかなり強いです」
「傭兵団か……でも、その国にも『秩序』はあるんだろう? いきなり喧嘩を売られたり、戦いになったりとかは」
「さすがにそれはないと思います。ん~……今更ですが、隣国が『秩序』と『破壊』って、『知恵』はあまり恵まれた立地にありませんね」
リアは苦笑し、僕も笑った。
とりあえず、方針は決まった。
「よし。じゃあ、目的地は『破壊の道』を歩む『ヴァルゼン帝国』だ。そこがどういう国なのか、しっかり見て観測しよう」
「私は、ユウトの歩む道を観察しますね。『知恵』のために。ふふ」
目的地は決まった。
リアと二人、新たな目的地に向かって冒険開始だ。
◇◇◇◇◇◇
数日後、全ての準備を終え、僕とリアは町の入口にいた。
見送りには、セラとアルトリウスが来てくれた。
「見送り、わざわざありがとうございます」
「気にするな。二人とも、旅の無事を祈ってるぞ」
「セラ主席研究員。私がいないからって寝坊しないように、研究室で寝泊まりしないで、ちゃんと家に帰るんですよ」
「参ったな。お前がいないなら、自由にできると思ったんだが」
セラは煙草に火を着ける。
アルトリウスは、僕に言う。
「ユウト。お前が使った魂絶技だが……あれはデカくて強すぎる。できることなら使うんじゃないぞ」
「わかってます。というか……あれだけの威力、また出せるかどうか……」
「まあ、リアがいるから大抵の魔獣は問題ないだろう。とにかく、気を付けろ……それと」
するとアルトリウス、こっそりと小袋を僕の手に握らせた。
「同い年の女の子と二人旅だ。道中、気を張りすぎるなよ」
「え……?」
「ははっ、気分転換も大事ってことだ。ま、旅の資金にでも使いな」
よくわからないが、とりあえずお金はもらっておいた。
「じゃあ、セラ、アルトリウスさん。いろいろお世話になりました……また」
「では、行ってまいります。道中、手紙を書きますので」
「ああ、気を付けてな」
「元気でな!!」
セラ、アルトリウスに見送られ、僕とリアは旅立った。
向かうは『破壊の道』の国、ヴァルゼン帝国だ。
◇◇◇◇◇◇
学術都市国家アルヴ・ノアを出て二時間ほど経過。
僕は地図を広げ、現在位置を確認しながらリアに聞いた。
「えーと、『ヴァルゼン帝国』に向かうには、東の森を抜けて、岩石地帯を抜けないといけないんだな……はあ、気が滅入るなあ」
「それも、あなたの『道』でしょう? 道中もしっかり観察ですよ」
「そうだね。と……なあリア、国を出てから言うのもなんだけど……」
「はい?」
正直、いやかなり深刻な問題……すっかり忘れていたことがあった。
「あのさ、旅をするには路銀が必要だよね。資金はどうしよう……」
ちなみに、旅の道具は全てセラが出してくれた。アルトリウスからもお小遣いをもらった。
さすがに、リアに世話になり続けるのは心情的に嫌だ。僕は外見こそ十六歳だけど、中身は二十三歳の大学生だし……年下の女の子にお金の世話になり続ける旅なんてしたくない。
するとリアは首を振った。
「問題ないですよ。以前、言いましたよね? 魔獣を倒すと『核』を残すって……それを回収し、換金すればお金の心配はありません。一般人には脅威ですが、私たち『霊触者』にとって、よほど凶悪な魔獣でない限りは問題ないかと」
「そっか……」
魔獣……そう言えば、見たことはまだ一度しかない。
というか、僕も戦うのか。あの黒くデカいオオカミみたいなの、実は少しトラウマだ。
「今日は、森の入口まで進んで野営をしましょう。明日の朝、森に入れば、その日のうちに出られると思います。問題は岩石地帯ですね……」
「岩石地帯ってだけで問題だよ……道は険しいのかな」
「それもありますが、岩石地帯は暑いんです。岩石地帯からすでにヴァルゼン帝国の領域内でして……ヴァルゼン帝国は『火』の精霊力が活発なんです、炎の大精霊『イグナス』様が遥か地底で今も眠っているという話もあります」
「暑いのか……半袖買ってよかった」
僕は、リアとのんきにおしゃべりをしていた。
正直……油断はしていたと思う。
凶悪な霊触者であるシェルを倒したし、風の霊触者として『精霊術式』や『魂絶技』を覚えたことで得た自信もあった。
「──ユウト、魔獣です」
「出たか」
藪から飛び出してきたのは……あの、黒いオオカミだ。
サーベルタイガーみたいな牙を持つ、前見た時よりも大きい、七メートルくらいあるオオカミ。名前は確かブラックウルフ。
リアは弓を手にしたが、僕を見て一歩下がる。
「ユウト。この魔獣はあなたが倒してください」
「わかった」
不思議と、怖くなかった。
僕は荷物を置き、手に弓を──。
「……へ?」
「ユウト、前!!」
「な、なんで……ええい、──あれっ!?」
おかしい。
僕は『風蝶陣』を展開しようと弓を手にした。
弓を構えた瞬間、腕の中で何かが軋んだ。
鉄の弦が木の皮に変わり、形が歪む。
目の前で、僕の力が剥がれ落ちていく──そんな錯覚。
なぜか、僕の手にあったのは、大昔の狩猟民族が使うような、木を削って弦を張っただけのシンプルな弓。材質は鉄っぽく、エメラルドグリーンに輝いてはいた。
かなり安っぽく変化した僕の弓。
まずは『風蝶陣』を設置しようと弓を引いた、が……以前は五十以上飛んだ風の蝶が、なぜか十匹もいなかった。
ブラックウルフは、蝶を軽々と避け、僕に迫って来る。
「う、うわ……な、なんで……っ!?」
『ガァルルルル!!』
「ぐあっ!?」
弓で防御。ブラックウルフは弓を盾にした僕を押し倒し、弓をガジガジ噛む。
物凄い力だ。僕が霊触者というのを差し引いても、人間にどうにかできる力じゃない。
「く、っそ……」
まずい……そう思っていると、オオカミの頭に矢が何本も刺さり、そのまま横倒しになって消滅。
リアが放った矢だ。僕は立ち上がり、リアに向き直る。
「……ユウト、どうしたんですか? それに、『精霊導器』の基本形状が変化している……そんなの、聞いたことありません」
「……わからない。なんでだ? 精霊力も、普段の半分以下しか使えないような、なんだか……物凄く、弱体化してるような」
そして、僕はハッとなりリアを見た。
「……ユウト?」
リア、僕の『仲間』だ。
『孤独の道』を歩む過程で得た、仲間。
「…………まさか」
脳裏に浮かび上がる、エアリスの言葉。
『孤独の道はあなたを強くするけど……とても孤独。孤独じゃない時は、その力を発揮できない』
孤独じゃない時は、その力を発揮できない。
リアが仲間になったから、孤独じゃなくなったから……僕は、弱くなった。
「そ、そんな……」
「ユウト、どうしたんですか? ユウト……?」
風が吹いた。
それは僕を慰めるようでもあり、嘲笑うようでもあった。
孤独──その道は、あまりにも重かった。




