間話 運命の出会い?
魔王視点の間話を入れてました。ぜひ読んでいってください!
高貴な魔族の血をひいて生まれた私にとって、魔王に就任するのは決められた運命のようなものだった。
魔族が墜とした人間の街に言われるままに赴き、気づけば城に魔王として就任していた。
ひれ伏す配下、羨望と恐れのまなざしで私を見つめる民たち……悪くない。
思い返せば、私は調子に乗っていたのだと思う。
高貴な血を引いているだけ、それなのに、全能感に酔いしれていた。
転機が訪れたのは、“勇者”という存在が人間の中に現れた、という報告を受けてからだ。
勇者が魔族の支配する地域を次々と解放しているらしい。そろそろここにもやってくる、と配下の魔族が青い顔をして言っていた。
何のことはない。強い魔力を持って生まれた私は、逆らう者など消し飛ばせばいいと気にも留めていなかった。
しかし――勇者は強かった。
私を遥かに凌ぐ魔力を持ち、立ち向かおうとした配下たちは、一瞬で灰と化した。
私には、抗う術など残されていなかった。
それでも、私は魔王として勇者と戦った。
しかし、敵わぬと悟った私は――逃げ出した。
好機が訪れたのだ。戦いの最中、私の仮面が外れた瞬間、私の顔を見た勇者の目が見開かれ、動きを止めた。
本当は、その時に攻撃すべきだったのかもしれない――それなのに、魔力も体力も尽きかけていた私は、迷わず逃走を選択したのだ。
魔王城の下に広がる森を駆けながら、悔しさと後悔に涙した。
こんな自分に仕えてくれた配下を置き去りにし、責任も何もかも投げ出して、自分はただ逃げている。
その事実が、胸が焼けるような痛みを与えていた。
胸の奥に黒い炎が広がり、“この世界など滅んでしまえ”と本気で願った。
――そして、そこに、ひょっこりとあの男が現れたのだ。
私の前に人間の男が現れた時、勇者の手の者だと思った。
勇者との戦いで消耗しきっていた私は、出涸らしのように消耗しきっていた。人間の男にすら、簡単に捻られてしまうだろう。
私は死を覚悟した。
しかし、男は助けてくれるというのだ。
この私を。
調子に乗り、極悪非道な行いを繰り返してきた、この私を。
男は、マキトと名乗った。
それは、私にとって特別な名前となった。
「結婚しよう」
おどけながら言うマキトの言葉には、不思議なやさしさがあった。
私がすべてに絶望していることに気づいたのかもしれない。
マキトは、私の手を引いて、逃げてくれた。
ドワーフの国に入る際の血の契りも切り抜けた。
なんと、この私と契りを結んで。
契りを交わした後のマキトは、本当に男らしかった。
ドワーフの用意した盃を飲み干すと、酒に酔ったのか、胸が熱くなるような不思議な気分になった。
よく見ると、マキトは、魅力的な男だった。
「お前はおれが守る」
そう言ってくれた。
そんな言葉をかけてもらえたのは、生まれて初めてだった。
そして私たちは口づけを交わした。
その時、私は決心したのだ。
魔王としても魔族としても、ただ流れに任せて生きてきた自分。
今度は、自分の選択で、この男を選ぼう。
そして、この男にかけてみよう――と。
……たぶん、酒の勢いもあったけれど。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
本編は、コメディ調ですが、今回はシリアス寄りで描写しています。
ちょっとネタバレになってしまうかも知れませんが、この話には複数の伏線も入れてみました。
今後、コメディの中で、少しずつ伏線を回収していきますので、引き続き楽しんでいただければ幸いです。